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第1章 王都編

第11話 野生の勘がさえわたるのです

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「それじゃあ、初等部が始まる前に領地に戻るのでいいわね。ノアはどうするの? 学園には通う?」
「ううん。ぼくはアリアちゃんが高等部に行く時からでいい」

「そうすると、中等部の2年生からになるわね。途中からになるけれど平気かしら?」
「うん。アリアちゃんがいないとイヤだから、途中からでも大丈夫!」
 
 お母様が確認してくれているけど、ノアが可愛すぎる、可愛すぎるよ。ノアは可愛いでできてるんだ。そうに違いない。
 
「私は嬉しいけど、ノアが学園に通いたいってなったらすぐに教えてね。お友達がたくさんいたら楽しいと思うよ?」
「うーん。友だちは欲しいけど、アリアちゃんがいない方がイヤだもん。アリアちゃんだって、ぼくと一緒にいたいでしょ?」
「もちろんだよー!!」
 
 ノアの可愛さに胸がキュンキュン、メロメロだ。もう、ノアがいてくれたら友達もいらないんじゃないかって思っちゃう。
 
「二人の意見も分かったことだし、アリアとノアと一緒に領地戻るわね」
 
 お母様がお父様に言った瞬間、お父様は絶望! と表現するのがピッタリの顔をした。
 
「俺も──」
「仕事があるでしょう? 休みにくればいいじゃない。デニスなら魔術ですぐに来れるわよ」
 
「俺は毎日会いたいのに……。セバス、代わりに──」
「しませんぞ。旦那様のお仕事ですからな。私はお嬢様と坊っちゃんの魔術講師の役目を果たしますので、奥様と領地へ向かわせて頂くことにしますな」
「「旦那様、申し訳ありません。私達も……」」
 
「俺だけ居残り……」
 
 お父様は、がくりと椅子から崩れ落ちた。そのあとは、微動だにせず何かを呟いている。
 可哀想だけど、こればかりは仕方がない。きっと、あとでお母様が上手いこと慰めてくれるだろう。
 
 
 ということは、残る問題は王家主催のお茶会の参加だけかな。
 
「お茶会って、参加は必須ですよね?」
 
 私の疑問にお母様は頷いた。
 
「アリアちゃんの誕生日会が中止になったって聞いて、開いてくださることになったから断りにくいわね。体調不良ってことにして領地に戻るのはどうかしら?」
 
「魔力制御がまだできないから、じゃダメなんですか?」
「魔力を無理矢理抑え込む道具もあるから、それは難しいわ」
「でも、体調不良を原因にすると高等部に通い出した時、私は病弱ってことですよね」
「治ったってことにすれば……、それでも元気すぎるかもしれないわね。少しか弱そうにするのは──」
 
 言いかけてお母様は口を閉ざした。言いたいことは分かる。だけど、最初から諦めるのはよくないよね。 
 か弱いふり……できるよね? 高い木を見れば登りたいし、綺麗な川があれば飛び込みたくなるけど。つたを見つければターザンごっこをして、階段の手すりを滑り降りたい私にもでき……。
 
「……無理です。ごめんなさい」
「謝る必要はないわ。でも、そうね。難しいかもしれないわね」
 
 私つきのミモルも頷いている。やはり、か弱いのは私には無理すぎた。
 
「お茶会で、魔力の暴走をすればいいよ!」
「えっ……」
 
 ノアが名案と言わんばかりに顔を輝かせて言う。けれど、王家主催のお茶会でそれはありなのだろうか。不敬にならないかな。
 
「それなら、事故で済まされるな」
 
 まだ復活しきっていないのか、弱々しい声でお父様が言う。
 
「でも、嫁ぎ先が減るわよ?」
「アリアは嫁には出さん!」
「アリアちゃんは、ずっとお家にいるからいいんだよ!」
「いや、いつかは家をでますよ」
 
 あっ、ノアも崩れ落ちた。崩れ落ちたノアも可愛い……。
 ノアに胸キュンをしていれば、コホンッ! とお母様は咳払いを一つすると真剣な瞳で私を見た。
 
「魔力の暴走は、魔術が使えない人にとっては怖いものなの。色々とアリアちゃんに言ってくる人もでてくるわ。辛い思いをするかもしれない」
「それは、大丈夫です。ちゃんと分かってくれる人が私にはいますから」
 
 お父様とお母様の様子からして不敬にはならないみたいだし、それなら大丈夫。家族もこの家のみんなも分かってくれるから。
 でも、トラウマを植え付けてしまうかもしれないのは気が引けるなぁ。魔術が使えない人にとっては、防御のしようもないから怖いよね。
 
「あの、魔力の暴走が怖くない家ってどのくらいあるんですか?」
スコルピウス家うちだけだな」
 
 そう答えてくれたお父様は崩れ落ちていたはずなのに完全復活し、なんだかツヤツヤしている。ノアもニコニコだ。何があった? 元気なのはいいことだけど。あぁ、ノアが可愛い……。
 
 心のなかでツッコミを入れ、ノアにキュンとしながらも真剣な表情で私は頷けば、補足するようにセバスが口を開く。
  
「あとは分家も平気ですぞ。差はあれど魔力が多い者も多いですからな」
「ですが、分家の方々にアリア様とノア様の同年代の方はいらっしゃいませんよね?」
 
 そっか、魔力暴走を起こせば友達はできなくなるのか。それはそれで仕方がないから、領地で同年代の友達をつくろう。トラウマを植え付けるのは本当に申し訳ないけど。背に腹は変えられない。ノアが少しでも安全になるなら、トラウマを背負ってもらおう。
 心のなかで魔力を暴走させることに気持ちが大きく傾いた時、ミモルが強張った顔で声をあげた。
 
「私は反対です! 魔力を暴走させるだなんて危険です。アリア様にもしものことがあったら……」
 
 真っ白になるほど強く握ったこぶしが震えている。
 
「ミモル……」
 
 ミモルが心配してくれるのは、すごく嬉しい。だけど、やらなければならないのだよ。ノアの……、ううん。ノアと私の未来のために!
 
「大丈夫だよ。適度に暴走させるから」
 
 適度に暴走って何!? と思いながらも表情は笑顔をキープする。すると、お母様が楽しそうに私とミモルを呼んだ。
 
「魔力の暴走はふり・・だから大丈夫よ」
「ふり、ですか?」
「そう。アリアちゃんが魔力が暴走したように見せかけて、魔術を使うのよ。そうすれば、安全でしょう?」
 
 確かに、それなら安全だろうけど。それって、ものすごく難しいんじゃ……。恐る恐るセバスを見れば、とても良い笑顔を返された。
 
「当日までビシバシ鍛えさせて頂きますぞ」
「一緒にがんばろうね!」
 
 私の野生の勘が最大級の警報を鳴らしたのであった。
 
 
 
 
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