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第一章:初めての社交で暗躍する。

第18話 舞台上で踊る道化(1)

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 先程侯爵が提案してきた和解『劇』の筋立ての中には確かにそんな物もあった。

 しかしそれは、あくまでも「騒動をキッカケに互いの交流を深める事ができた」というところまでだ。
 「その後も親交を深める」などという話は、少なくともあの場では欠片も上がっていなかった。

(クラウン様はおそらく侯爵から『今後の親交について言及し、周知の事実にしてしまえ』とでも言われたんだろうけど)

 そんな風に、モンテガーノ親子の間にあった会話を推察してみる。



 もしもセシリア自身が、あちら側だったなら。
 そう考えると、確かにそういう策を講じる可能性も無いでは無い。

 モンテガーノ侯爵がしたいのは、つまるところ『今回の騒動に便乗したオルトガン伯爵家の囲い込み』だ。

 『革新派』の重鎮たるモンテガーノ侯爵家との親交が既知となれば、対立派閥である『保守派』陣営がオルトガン伯爵家の動きを少なからず警戒する。
 そしてそれは結果的に『保守派』とオルトガン伯爵家との間に軋轢を生む事になるだろう。

 そうなれば、なし崩し的に彼ら率いる『革新派』へと引き込む事だってできるかもしれない。


 発想は良い。


 もし全てが思い描いた通りに進行すれば、今までどんな事をしても派閥に取り込めなかった家を取り込める。
 現在『革新派』内で求心力が衰えている侯爵にとって、この成果は間違いなくその威光を再耀させる材料になるだろう。

 それに加えて、慌てふためく『保守派』陣営の姿も見る事ができる。
 長きに渡って対立し続け、煮湯を飲んだり飲ませたりした仲だ。
 そんな者達の悔しがる姿はさぞかし楽しかろう。

 彼らがそんな風に思っただろう事は、まるで手に取るように分かる。


 しかしそれも『成功すれば』の話だ。


 モンテガーノ侯爵は間違えた。
 何を間違えたかというと、答えは簡単ーー『人選を』だ。


 社交経験がほぼ無く、貴族としての駆け引きも出来ない。
 そんなクラウンに任せるには、あまりに役不足が過ぎる。
 
(侯爵は多分「あらかじめ指示を受けているクラウンの方が、不意打ちを食らったオルトガンの娘よりもよほど優勢だ」なんて思ったんだろうけど)

 セシリアから見ると「不意打ちだから何も準備ができていない」と思っている時点で既に甘い。
 そしてそもそもこれはセシリアの想定範囲内なのだから、不意打ちにすらなっていない。

(この甘さは、多分侯爵が『オルトガン伯爵家』ではなく『お父様個人』を目の敵にしているからなんだろうけど)

 そんな事だから視野が狭くなる。
 
 セシリアの力量の一端は、少なくとも先程の密談時に見せている。
 そしてクラウンの力量がセシリアのそれに全く届いていない事も、あの時にきちんと示して見せた。

 それを汲み取る事ができなかったのは、単に彼がセシリアの後ろにワルターの姿を幻視したからだろう。

(私怨で目を濁らせているから足元を救われる)

 そう思いながら、セシリアは心中でフッと冷めた笑みを浮かべた。

 
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