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兆し
第2話 気になって当然(1)
しおりを挟む違うのならば、とっとと否定してしまえばいい。
しかしそれをすると、それはそれでちょっと困った事になる。
(説明したら、今度は「では一体何の為に?」って聞かれるよね、多分)
別に問われる事自体が嫌な訳ではないのだが、出来れば言いたくない。
だって何だか、気恥ずかしい。
そういう訳で言い渋ったレガシーだったが、その躊躇いを見逃すセシリアでもない。
否、その様子がむしろセシリアの好奇心をくすぐった様だった。
視線を彷徨わせるレガシーに、真っ直ぐと熱視線を向けるセシリア。
2人の攻防は、結局1分程で終わりを告げた。
レガシーは、深い深い息を吐きながらこう思う。
(……そもそも僕じゃぁセシリア嬢には勝てないよ)
そんなの、最初から分かってた。
そんな風に独り言ちる。
少なくとも今のレガシーの対人スキルでは、彼女の攻撃を避けきる事など出来はしない。
加えていなす為の方便も何一つとして思いつきはしないのだからお手上げだった。
だから、ここは。
「その噂、お父様の耳にも入っちゃったんだよね。そのせいで『出来ないのでは無いのなら、きちんと周りと交流しなさい』って言われてさ……」
早々に白旗を上げ、遠回しに肯定する代わりにちょっぴり愚痴を零しておく事にした。
どうやらその話を聞いて、レガシーの父親は元々自身が抱いていた『極度の内向的性格なレガシーには、周りとの交流は出来ない』という考えを改めてしまったらしい。
それは、事実かそうでないかと言えば事実だろう。
しかし正しく認識される事が必ずしも良い事とは限らない。
「全く、面倒な事になっちゃったよ」
レガシーは、悲壮感を漂わせながら、ため息交じりにそう言った。
するとその声に、セシリアも苦笑で「では、もしかして」と尋ねてくる。
「いつもは必ず持っている本を今日お持ちでない理由は――」
「御明察」
そのせいですか?
おそらくそう続く言葉を先回して、レガシーは言葉を被せるように肯定した。
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