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侯爵子息・クラウンの、はじめの一歩
第6話 過去でも未来でもなく、今(2)
しおりを挟む両親は、元々出来の良い跡取りの兄に執心だった。
そんなだから両親と彼との接触は普段から決して多くはない。
そして『普段のクラウン』をよく知らないのだから、その変化にだって勿論気付ける筈が無い。
そうで無くとも、両親共に今回の火消しに忙しかったのだ。
例え『普段のクラウン』を知っていたとしても、彼らの性格からすればきっと「そのような些事に一々構っている暇など無い」と一蹴しただろう。
対して、彼付きの使用人達はというと、急激に大人しくなり、あまつさえ目に見えて食欲がなくなった主人を見て、最初こそ慌てたり心配したりした。
しかし、食欲が生命維持に必要な分だけはちゃんとある事と、何やら真剣に考え事をしているようだと気付いた事。
そしてクラウンが使用人の一人に助言を求めた事で、見守る体制へとシフトした。
そんな周りの心配や見守る目に、クラウンは遂ぞ気が付く事は無かった。
しかし、それでも「もし彼らのサポートが無ければ、ここまで深く自分を顧みる事は出来なかっただろう」という自覚は、胸の中に確かに存在する。
「こうしてちゃんと考えた事で、今までの自分がどれだけ自分勝手だったかが良く分かった。過去の自分を、今では本当の意味で後悔している」
告げられた言葉は、暗に「前の時の後悔は本当の意味での後悔じゃなかった」と言ってるも同じだった。
この前、セシリアの前に立った時。
あの時セシリアに色々と教えてもらって、クラウンは自らの行いを確かに後悔していた。
しかしそれは、あくまでも自分がやらかした事に対する後悔だった。
それが如何に表面上だけの薄っぺらい後悔だったか。
それが、より深い後悔を知った今なら何となく理解できる。
そして、理解したからこそ気付いてしまった事もある。
「……しかし今更それだけ考えて何かを思った所で、過去の自分は変えられない」
そんな当たり前過ぎる事に、クラウンはここで初めて直面した。
「そうと分かって、俺は途方に暮れたんだ」
後悔、後悔、後悔。
どれだけの後悔を積み重ねて反省したところで、過去は決して変わらない。
ならば一体、どうすれば良いのか。
非常識な特殊能力でもない限り、その答えは一つしか存在しない。
「過去を変えられないのなら、今自分を正すしかない」
過去でも未来でもなく、今。
省みた自らを今正し、未来につなげる。
そもそも「どうにかしたくて」自分を奮い立たせたのだ。
そうする事は、その願いの実現にも繋がる。
「さっきの会話への横槍も、過去の俺ならきっと何か言ってただろう」
そこには変な話、確信さえある。
しかしそんな己の『傲慢さ』と『考え無し』を今日今この時から正す事が、未来への一歩なのである。
しかし、そんなちっぽけな達成感を抱くために、クラウンは今日わざわざ彼女の所まで来た訳ではないのだ。
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