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猫のシロ。
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まだ八つになったばかりの悠宮。この世界の元服は12~14歳ほどが一般的だ。早ければ11歳で元服することもあるにはあるが、それでもこの春宮が元服するのにはあと三年はかかる。
出仕する前は彼の境遇に同情したりもしてた。
帝に、というか、帝とわたしの間に子ができることは無いから、彼は本当に東宮であり次の帝になる立場のお方で、それも帝は彼の元服を待って譲位するおつもりなんだけれど、そんなことは他の誰も知るところではないし。
帝にお子が、皇子ができさえすれば自分は用済みだ、と思いながら育ったとしたらその思いはいかほどか。
なんだけど。
「内侍! そちらに猫が逃げた! 捕まえて!」
バタバタと走りこちらに近づいてくる悠宮。
その前にはこちらに向かって飛ぶように走る白猫。
猫の白は、わたしを見るとその場にすとんとしゃがみこんだ。
まるで獲物でも見るような顔でこちらをのぞきこんでいる。
「んー。シロ、シロシロシロ、こちらにおいで」
わたしは座ったままシロを見つめ、自分のひざをトントンとたたいてみせる。
しゃっとおしりを振ったと思ったら、ぴょんと飛び乗ってきたシロ。
そのままにゃぁと鳴いてわたしの手に頭を擦り付けてくる。
やさしく撫でているうちに、シロはわたしの膝の上で丸くなった。
「猫はなぜそなたにはそうして懐くのだ? 私がいくら抱き寄せても嫌がって逃げようとするばかりなのに」
はぁはぁと呼吸も荒いままわたしの目の前にさっと腰掛ける東宮悠宮。
みあげるようにわたしをみて、ちょっと拗ねたようなお声でそうおっしゃった。
「東宮はこうして猫に紐をつけ、ご自分の思い通りにしようと引っ張っていますよね。猫はそういうのを一番嫌がるのです。無理やり抱き抱えるのもだめですよ。やさしく撫でながら機嫌をとって、猫が気持ちよくなるようにしてあげるのです。紐で引っ張って無理やり動きを抑えても反発します。やさしく前足の内側をそっと持って、お尻と後ろ足をこうしてそっと持ち上げるように抱いてみてください。ぎゅっと抱くよりは猫も反発しづらいですよ」
「ごめんねシロ」わたしはそう猫のシロに声をかけながらそっ抱き上げた。
右腕に猫の前足がちょこんとかかり、ひだり手で後ろ足を支える感じ。
胸元に猫の背中、顔はひょこんと目の前の悠宮を見るように。
猫を圧迫する抱き方ではないので、猫にとっても苦じゃないのかな?
さっきまでさんざん走り回り暴れていたシロ。
わたしの腕の中でゴロゴロと喉を鳴らしている。
「いいな。内侍は。私も猫に触れたいのに」
「では殿下、この子のことをちゃんと『シロ』と呼んであげることから始めましょう。ほら、『シロはかわいいね』と言いながら撫でてあげてくださいな。喜びますよ」
「こう、か? シロ、おまえはなんてかわいいんだ」
そうおっしゃりおそるおそる手を伸ばす悠宮。
その手がやさしくシロの頭を撫でる。
気持ちよさそうにその悠宮の手に頭を擦り付けるシロ。
みるみる笑顔になっていく悠宮のことを、わたしは微笑ましくおもい見つめていた。
「はは。内侍はすっかり悠宮と打ち解けたようだね」
ふらっと現れた帝、わたしたちを見てそう仰って。
もう、いきなり来すぎ。もうちょっと対面を考えてくださると思っていたのに。
周りの女房たちもきゃぁきゃぁと落ち着きがない。こう頻繁にこちらに帝が御渡りになることも今までは無かったらしいし。
「帝!」
驚いている悠宮。わたしはシロを膝におろし優しく撫でてあげながら。
「帝、本日はどうされました?」
扇をアテそうちょっとつれなく伺う。
まだそんなに親しくなっていないことになっている。それなのに帝はいつもと変わらぬ距離感だもの、女房たちにも誤解されそうだ。
「何、ちょっと東宮になはしがあってね。それで寄ってみただけだよ。内侍の様子も知りたかったしね」
そう笑顔でおっしゃる帝。もう、そんな笑顔を見せられたら何も言えなくなってしまうじゃない。
出仕する前は彼の境遇に同情したりもしてた。
帝に、というか、帝とわたしの間に子ができることは無いから、彼は本当に東宮であり次の帝になる立場のお方で、それも帝は彼の元服を待って譲位するおつもりなんだけれど、そんなことは他の誰も知るところではないし。
帝にお子が、皇子ができさえすれば自分は用済みだ、と思いながら育ったとしたらその思いはいかほどか。
なんだけど。
「内侍! そちらに猫が逃げた! 捕まえて!」
バタバタと走りこちらに近づいてくる悠宮。
その前にはこちらに向かって飛ぶように走る白猫。
猫の白は、わたしを見るとその場にすとんとしゃがみこんだ。
まるで獲物でも見るような顔でこちらをのぞきこんでいる。
「んー。シロ、シロシロシロ、こちらにおいで」
わたしは座ったままシロを見つめ、自分のひざをトントンとたたいてみせる。
しゃっとおしりを振ったと思ったら、ぴょんと飛び乗ってきたシロ。
そのままにゃぁと鳴いてわたしの手に頭を擦り付けてくる。
やさしく撫でているうちに、シロはわたしの膝の上で丸くなった。
「猫はなぜそなたにはそうして懐くのだ? 私がいくら抱き寄せても嫌がって逃げようとするばかりなのに」
はぁはぁと呼吸も荒いままわたしの目の前にさっと腰掛ける東宮悠宮。
みあげるようにわたしをみて、ちょっと拗ねたようなお声でそうおっしゃった。
「東宮はこうして猫に紐をつけ、ご自分の思い通りにしようと引っ張っていますよね。猫はそういうのを一番嫌がるのです。無理やり抱き抱えるのもだめですよ。やさしく撫でながら機嫌をとって、猫が気持ちよくなるようにしてあげるのです。紐で引っ張って無理やり動きを抑えても反発します。やさしく前足の内側をそっと持って、お尻と後ろ足をこうしてそっと持ち上げるように抱いてみてください。ぎゅっと抱くよりは猫も反発しづらいですよ」
「ごめんねシロ」わたしはそう猫のシロに声をかけながらそっ抱き上げた。
右腕に猫の前足がちょこんとかかり、ひだり手で後ろ足を支える感じ。
胸元に猫の背中、顔はひょこんと目の前の悠宮を見るように。
猫を圧迫する抱き方ではないので、猫にとっても苦じゃないのかな?
さっきまでさんざん走り回り暴れていたシロ。
わたしの腕の中でゴロゴロと喉を鳴らしている。
「いいな。内侍は。私も猫に触れたいのに」
「では殿下、この子のことをちゃんと『シロ』と呼んであげることから始めましょう。ほら、『シロはかわいいね』と言いながら撫でてあげてくださいな。喜びますよ」
「こう、か? シロ、おまえはなんてかわいいんだ」
そうおっしゃりおそるおそる手を伸ばす悠宮。
その手がやさしくシロの頭を撫でる。
気持ちよさそうにその悠宮の手に頭を擦り付けるシロ。
みるみる笑顔になっていく悠宮のことを、わたしは微笑ましくおもい見つめていた。
「はは。内侍はすっかり悠宮と打ち解けたようだね」
ふらっと現れた帝、わたしたちを見てそう仰って。
もう、いきなり来すぎ。もうちょっと対面を考えてくださると思っていたのに。
周りの女房たちもきゃぁきゃぁと落ち着きがない。こう頻繁にこちらに帝が御渡りになることも今までは無かったらしいし。
「帝!」
驚いている悠宮。わたしはシロを膝におろし優しく撫でてあげながら。
「帝、本日はどうされました?」
扇をアテそうちょっとつれなく伺う。
まだそんなに親しくなっていないことになっている。それなのに帝はいつもと変わらぬ距離感だもの、女房たちにも誤解されそうだ。
「何、ちょっと東宮になはしがあってね。それで寄ってみただけだよ。内侍の様子も知りたかったしね」
そう笑顔でおっしゃる帝。もう、そんな笑顔を見せられたら何も言えなくなってしまうじゃない。
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