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番外編
チョコを巡る仁義なき戦い 前編
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【女神様、優里亜視点】
「ねぇねぇ女神様?この世界にチョコレートってあるの?」
「チョコレート?⋯あぁ、あの黒くて甘い食べ物ね!確かあったと思うけど、かなり希少で高級品だから中々手に入らなかったと思うわ。」
「そこはアイリちゃんの為なら何とかしてくれる過保護者が沢山いるから大丈夫よ!早速お手紙、お手紙⋯♪♪」
「ちょっ、優里亜⋯⋯。まぁ、元々ある食材だし、問題ない⋯のかしら?」
◇◇◇◇◇
2月14日
この日、朝からギルドの厨房では甘ったるい匂いが立ち込めていた。
「この甘ったるい匂いは何だ?」
「アイリちゃん達が何か作ってるらしいわよ。」
「また何か面白い事やってるのか?」
ギルドのお姉さんも冒険者達も興味津々で厨房を眺めている。
事の始まりは、例のサンタさんから届いたお手紙。
何でもこの時期、日頃の感謝や愛情を伝える為に大好きな人にチョコを贈るらしい。
そしてそのチョコは手作りで渡すと更に喜ばれるんだとか。
その手紙を見たルークは、直ぐ様チョコレートを仕入れる為兄である国王陛下に協力を仰いだ。
リンカルトは迷う事なく希少なチョコレートを大量に仕入れ、カンザックのギルドへと送ってきた。
対価は勿論アイリの手作りチョコだ。
そして手紙には『簡単手作りチョコレシピ』なるものが同封されており、事情をシリウスに説明して今日は朝からギルドの厨房を貸して貰っているのだ。
対価は勿論⋯⋯。
そしていつもアイリにおやつを作ってくれるウルドや他の厨房メンバーにも手伝って貰いながら、チョコを使ったお菓子を作っていくことに。
今回集まった女子メンバーはアイリとミリーナとリオとララ。ラビとルイザはラッピングする材料を買いに出掛けており、後から合流する事に。
まずはサンタさんの手紙に同封されていたレシピから、トリュフチョコなるものを作っていく。
まずウルドが細かく刻んだチョコをボウルに入れ、アイリが湯煎で溶かしながら混ぜていく。アイリが火傷しないように気を配り、チョコが溢れないようにボウルを抑えるのはリオの仕事だ。
その様子を厨房の皆が心配そうに見守る。
チョコが溶けてきた所で、人肌程度に温めた生クリームを少しずつ入れて混ぜていく。
「うんしょ⋯⋯うんしょ⋯⋯」
「アイリ⋯疲れただろ?そろそろ代わろうか?」
リオは心配そうに声を掛ける。
アイリの小さな手でヘラを持って必死に混ぜているが、何せ量も多く中々の重労働だ。何度も交代を申し出るが、アイリは頑なに自分で作るのだと譲らなかった。
そこへ他の作業をしていたミリーナがやってきて、アイリにしか出来ない作業があるから手伝って欲しいと言う。
「アイリにしかできないことぉ?なんでしゅか~?」
「さっきクッキーの生地を作ったから、その型抜きをお願いしたくて。アイリちゃんが型抜きしたってことが大事なの。こっちのチョコは、あとで丸める時に皆で一緒にやりましょう。」
「分かったのー!」
アイリはミリーナに連れられて別のテーブルに用意されていたクッキー生地の型抜きをし始めた。
ミリーナはアイリを連れて行く際に、コソッと「リオちゃん、こっちはお願いね」と耳打ちするのを忘れずに。
これにはリオも思わず感心して呟いた。
「流石お世話係⋯誘導が上手。」
そこへラッピングの材料を買ってきたラビとルイザが帰ってきた。
「ん~いい匂い~♡」
「買ってきたラッピングの材料はこっちに置いておきますね。」
そう言いながら、二人は早速お菓子作りに加わった。
型抜きし終わったクッキーを焼いている間に、リオが引き継いで冷やしておいたチョコを手分けして丸めていく。
それぞれ途中でいくつか形を変えた特別なチョコもこっそり作りつつ⋯。
そんな事を知らないアイリも特別チョコを作ってしまった。
これが後に大事件を巻き起こす。
さて、こうしてチョコのお菓子を大量に作ったアイリ達は、ギルドのお姉さん達にも手伝ってもらいながらラッピングしていく。
皆に渡す用には、クッキーに溶かしたチョコでデコレーションをしたものを。
身近でお世話になっている冒険者のメンバーにはトリュフを。
流石に、希少なチョコを大量に使ったトリュフを全員に配る程数は作れなかったのだ。
リンカルトへ渡す分は別にして残しておき、まずは今か今かと心待ちにギルドの外にまで行列をなして待っている町の人や冒険者達に、女性陣が手分けしてクッキーを配っていく。
アイリの手渡しとなるとそこにだけ行列ができる事は前回のイベントで学んだ事だ。
今回は全体のチョコ作りにアイリを参加させる事で全員に不平不満が出ないようにし、公平に配る事にした。
アイリは隣に座って皆に手を振っている。
こうしてチョコクッキーを無事に配り終えると、今度は女性陣がソワソワし始めた。
これからは個人的に渡したい相手にチョコを渡すからだ。
「それじゃ皆、健闘を祈るわっ!」
ラビの声掛けで、いつの間にか結成されていた適齢期のお姉様方集団が、それぞれラッピングされたチョコを大事そうに抱えてギルドを後にした。
「それじゃ私達も渡しに行きましょうか?」
既に番のいるルイザは、自分の冒険者メンバー用にクッキーを。リヒトには甘さ控えめのトリュフを用意していた。
ラビもどうやらクッキーを渡すようだ。
「あれ?アイリちゃんそれは?」
アイリのチョコを心待ちにしている男性陣は多く、いつものパーティーメンバーには勿論のこと、獣人冒険者であるデュランとウルドとグランとルイ。それにクリスとリヒトとタモにも手渡しを予定している。
だが皆にも公平になるよう中身は同じ物の筈だった。
それが1つだけ、明らかに他とラッピングが違うものがあることにルイザが気付いた。
「こりぇはね、とくべつにちゅくったの。」
にっこりと純粋な天使の笑みを浮かべたアイリの爆弾発言に、その場に残っていたメンバーがザワザワ騒ぎ始めた。
「今、アイリちゃん特別って言った?」
「いや、でもきっとルークさんのことだろ?」
「でも、万が一それがルークさんのじゃなかったら⋯?」
ポソッと呟かれた最後の言葉に、ピシッと場は固まった。
「「「絶対相手消されるーーーっ!!」」」
そんな騒動がギルド内で巻き起こっていたが、触らぬ神に祟りなしとでも言うように、誰もそのチョコを渡す相手が誰なのかアイリに聞けず、楽しそうにチョコの入った袋を抱えたアイリをただ黙って見送った。
※節分イベントの際は案を頂いていたのにすっかり忘れており⋯
今回は何とか間に合わせたつもりですが、思いの外長文になってしまい、前編・後編に分けました。
さて、アイリの『特別チョコ』は一体誰の手に⋯⋯(笑)
「ねぇねぇ女神様?この世界にチョコレートってあるの?」
「チョコレート?⋯あぁ、あの黒くて甘い食べ物ね!確かあったと思うけど、かなり希少で高級品だから中々手に入らなかったと思うわ。」
「そこはアイリちゃんの為なら何とかしてくれる過保護者が沢山いるから大丈夫よ!早速お手紙、お手紙⋯♪♪」
「ちょっ、優里亜⋯⋯。まぁ、元々ある食材だし、問題ない⋯のかしら?」
◇◇◇◇◇
2月14日
この日、朝からギルドの厨房では甘ったるい匂いが立ち込めていた。
「この甘ったるい匂いは何だ?」
「アイリちゃん達が何か作ってるらしいわよ。」
「また何か面白い事やってるのか?」
ギルドのお姉さんも冒険者達も興味津々で厨房を眺めている。
事の始まりは、例のサンタさんから届いたお手紙。
何でもこの時期、日頃の感謝や愛情を伝える為に大好きな人にチョコを贈るらしい。
そしてそのチョコは手作りで渡すと更に喜ばれるんだとか。
その手紙を見たルークは、直ぐ様チョコレートを仕入れる為兄である国王陛下に協力を仰いだ。
リンカルトは迷う事なく希少なチョコレートを大量に仕入れ、カンザックのギルドへと送ってきた。
対価は勿論アイリの手作りチョコだ。
そして手紙には『簡単手作りチョコレシピ』なるものが同封されており、事情をシリウスに説明して今日は朝からギルドの厨房を貸して貰っているのだ。
対価は勿論⋯⋯。
そしていつもアイリにおやつを作ってくれるウルドや他の厨房メンバーにも手伝って貰いながら、チョコを使ったお菓子を作っていくことに。
今回集まった女子メンバーはアイリとミリーナとリオとララ。ラビとルイザはラッピングする材料を買いに出掛けており、後から合流する事に。
まずはサンタさんの手紙に同封されていたレシピから、トリュフチョコなるものを作っていく。
まずウルドが細かく刻んだチョコをボウルに入れ、アイリが湯煎で溶かしながら混ぜていく。アイリが火傷しないように気を配り、チョコが溢れないようにボウルを抑えるのはリオの仕事だ。
その様子を厨房の皆が心配そうに見守る。
チョコが溶けてきた所で、人肌程度に温めた生クリームを少しずつ入れて混ぜていく。
「うんしょ⋯⋯うんしょ⋯⋯」
「アイリ⋯疲れただろ?そろそろ代わろうか?」
リオは心配そうに声を掛ける。
アイリの小さな手でヘラを持って必死に混ぜているが、何せ量も多く中々の重労働だ。何度も交代を申し出るが、アイリは頑なに自分で作るのだと譲らなかった。
そこへ他の作業をしていたミリーナがやってきて、アイリにしか出来ない作業があるから手伝って欲しいと言う。
「アイリにしかできないことぉ?なんでしゅか~?」
「さっきクッキーの生地を作ったから、その型抜きをお願いしたくて。アイリちゃんが型抜きしたってことが大事なの。こっちのチョコは、あとで丸める時に皆で一緒にやりましょう。」
「分かったのー!」
アイリはミリーナに連れられて別のテーブルに用意されていたクッキー生地の型抜きをし始めた。
ミリーナはアイリを連れて行く際に、コソッと「リオちゃん、こっちはお願いね」と耳打ちするのを忘れずに。
これにはリオも思わず感心して呟いた。
「流石お世話係⋯誘導が上手。」
そこへラッピングの材料を買ってきたラビとルイザが帰ってきた。
「ん~いい匂い~♡」
「買ってきたラッピングの材料はこっちに置いておきますね。」
そう言いながら、二人は早速お菓子作りに加わった。
型抜きし終わったクッキーを焼いている間に、リオが引き継いで冷やしておいたチョコを手分けして丸めていく。
それぞれ途中でいくつか形を変えた特別なチョコもこっそり作りつつ⋯。
そんな事を知らないアイリも特別チョコを作ってしまった。
これが後に大事件を巻き起こす。
さて、こうしてチョコのお菓子を大量に作ったアイリ達は、ギルドのお姉さん達にも手伝ってもらいながらラッピングしていく。
皆に渡す用には、クッキーに溶かしたチョコでデコレーションをしたものを。
身近でお世話になっている冒険者のメンバーにはトリュフを。
流石に、希少なチョコを大量に使ったトリュフを全員に配る程数は作れなかったのだ。
リンカルトへ渡す分は別にして残しておき、まずは今か今かと心待ちにギルドの外にまで行列をなして待っている町の人や冒険者達に、女性陣が手分けしてクッキーを配っていく。
アイリの手渡しとなるとそこにだけ行列ができる事は前回のイベントで学んだ事だ。
今回は全体のチョコ作りにアイリを参加させる事で全員に不平不満が出ないようにし、公平に配る事にした。
アイリは隣に座って皆に手を振っている。
こうしてチョコクッキーを無事に配り終えると、今度は女性陣がソワソワし始めた。
これからは個人的に渡したい相手にチョコを渡すからだ。
「それじゃ皆、健闘を祈るわっ!」
ラビの声掛けで、いつの間にか結成されていた適齢期のお姉様方集団が、それぞれラッピングされたチョコを大事そうに抱えてギルドを後にした。
「それじゃ私達も渡しに行きましょうか?」
既に番のいるルイザは、自分の冒険者メンバー用にクッキーを。リヒトには甘さ控えめのトリュフを用意していた。
ラビもどうやらクッキーを渡すようだ。
「あれ?アイリちゃんそれは?」
アイリのチョコを心待ちにしている男性陣は多く、いつものパーティーメンバーには勿論のこと、獣人冒険者であるデュランとウルドとグランとルイ。それにクリスとリヒトとタモにも手渡しを予定している。
だが皆にも公平になるよう中身は同じ物の筈だった。
それが1つだけ、明らかに他とラッピングが違うものがあることにルイザが気付いた。
「こりぇはね、とくべつにちゅくったの。」
にっこりと純粋な天使の笑みを浮かべたアイリの爆弾発言に、その場に残っていたメンバーがザワザワ騒ぎ始めた。
「今、アイリちゃん特別って言った?」
「いや、でもきっとルークさんのことだろ?」
「でも、万が一それがルークさんのじゃなかったら⋯?」
ポソッと呟かれた最後の言葉に、ピシッと場は固まった。
「「「絶対相手消されるーーーっ!!」」」
そんな騒動がギルド内で巻き起こっていたが、触らぬ神に祟りなしとでも言うように、誰もそのチョコを渡す相手が誰なのかアイリに聞けず、楽しそうにチョコの入った袋を抱えたアイリをただ黙って見送った。
※節分イベントの際は案を頂いていたのにすっかり忘れており⋯
今回は何とか間に合わせたつもりですが、思いの外長文になってしまい、前編・後編に分けました。
さて、アイリの『特別チョコ』は一体誰の手に⋯⋯(笑)
応援ありがとうございます!
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