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9 王太子妃の一族
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せり出したお腹をうまく庇う形の鎧が完成した。
「よくやるわね。さすが、王家って感じ」
「本当に大丈夫なのか? 重いぞ? 動くとき変に力が入って赤ん坊が」
「大丈夫だってば!」
私の侍女3人と夫の側近3人が、それぞれ知恵を絞りながら、どう私に鎧を着せるか話し合っている。
「君たちは本当に血の気が多いな」
「え?」
お腹をさすりながらしげしげと鎧を眺めていると、夫が髪の収め方をイメージしたくなったのか、私の髪を三つ編みにしてくるくると頭に巻き始めた。
「ああ、忠誠隊の話?」
「こちらの反乱で神経質になっていたところに、御父上が近衛隊を一隊任されただろ。あれで権力闘争を恐れる動きが生まれていたのに、全員がミルスカ帝国との戦争に燃えに燃えて、欲しいのは権力じゃないんだと」
「吠えたんですってね」
「ああ、掛け声になって、次第に歌になっていったらしい」
「やるわね」
我ら王の忠実なる獅子なり
一声お命じ下されば
天を裂き 地をも砕こう
我ら王の忠実なる獅子なり
2食の肉を下されば
大蛇を殺し 玉座を捧げよう
「母が、君たちは〝野蛮で無垢な天使の群れ〟と……」
「顔がいいらしいのよね。時代がよかったわ」
「いや、驚くほど美形揃いだ」
「それはわからないけど、とにかく燃えるわよ。歴史に残る大戦になるもの」
「政治に興味はなく、勇敢。これが余所に取られたら恐いと思うのも当然だ」
「裏切らないわよ。私がいるもの」
「サラ様! ここにピンクダイヤモンドをつけたら素敵じゃありませんっ?」
侍女が兜の目元を指差し、頬を染めて言った。
「余計な贅沢すんじゃないわよ!」
「すっ、すみません……ッ!!」
外交で夫と共に国王について回る間、やたらと着飾り、宝石をジャラジャラつけた。天然石が光っているだけだというのに、ガタガタ抜かし過ぎだ。
今は国存亡の危機。
国土と誇り、そして民を守るべき大事な時期だ。
浮ついたオシャレに興味はない。
「サラ。君は美しすぎて、本気で怒ると天罰のように恐い。優しくしてやれ」
「国費はお小遣いじゃないのよ」
「きっ、肝に銘じます……ッ!」
「サラ。サラ、サラ。国の女性が華々しく輝くのは、国にとってもいい事なんだよ」
「今でも?」
「ああ。贅沢はよくないが、つまり……ほどよい美しさは軍神をより高みへと導くんだ。男の筋肉と、女の宝石は、時として等しいんだよ」
「……国のために鎧をもっとよくしようと思ってくれたって事?」
「はい!」
侍女が跪いた。
「王太子妃様に相応しいと思いました! なぜなら軍神サラ様の鎧だからです!」
「……怒鳴ってごめんなさいね。気にしないで。立って」
夫が呟いた。
「美しき猛獣の一族だ」
「猛獣? それ、いいわね」
そんなわけで、私の親族はいくつかの隊に分けられ配置された。
私もそうなのだけれど、権力と名誉と賞賛とか、そういうものには魅力を感じないのだ。気高い軍神として戦いを導き、勝ちたい。あと家族で楽しく過ごしたい。
「あなた、猛獣遣いね」
「そうであれたらいいと願うよ」
「私は頭がよくないけど、父や男の人たちは勉強しているから役に立ててね」
「父に言っておく」
「よろしく」
「殿下。準備が整いました。こちらへ」
夫の側近に呼ばれ、私はついに鎧を身に着けた。
「……!」
昂る……!
最高に昂る……!
「打倒、ミルスカ帝国……!!」
「そういう戦争じゃないんだが……わかってるかな……」
頭のいい人達は勝手に苦悩していればいい。
夫の側近が、夫に耳打ちした。
「殿下。馬鹿と鋏は使いようです」
「……馬鹿ではない」
どう呼ばれようとかまわない。
考えるのは頭のいい人たちに任せて、命を燃やしたい。
それだけだ。
「よくやるわね。さすが、王家って感じ」
「本当に大丈夫なのか? 重いぞ? 動くとき変に力が入って赤ん坊が」
「大丈夫だってば!」
私の侍女3人と夫の側近3人が、それぞれ知恵を絞りながら、どう私に鎧を着せるか話し合っている。
「君たちは本当に血の気が多いな」
「え?」
お腹をさすりながらしげしげと鎧を眺めていると、夫が髪の収め方をイメージしたくなったのか、私の髪を三つ編みにしてくるくると頭に巻き始めた。
「ああ、忠誠隊の話?」
「こちらの反乱で神経質になっていたところに、御父上が近衛隊を一隊任されただろ。あれで権力闘争を恐れる動きが生まれていたのに、全員がミルスカ帝国との戦争に燃えに燃えて、欲しいのは権力じゃないんだと」
「吠えたんですってね」
「ああ、掛け声になって、次第に歌になっていったらしい」
「やるわね」
我ら王の忠実なる獅子なり
一声お命じ下されば
天を裂き 地をも砕こう
我ら王の忠実なる獅子なり
2食の肉を下されば
大蛇を殺し 玉座を捧げよう
「母が、君たちは〝野蛮で無垢な天使の群れ〟と……」
「顔がいいらしいのよね。時代がよかったわ」
「いや、驚くほど美形揃いだ」
「それはわからないけど、とにかく燃えるわよ。歴史に残る大戦になるもの」
「政治に興味はなく、勇敢。これが余所に取られたら恐いと思うのも当然だ」
「裏切らないわよ。私がいるもの」
「サラ様! ここにピンクダイヤモンドをつけたら素敵じゃありませんっ?」
侍女が兜の目元を指差し、頬を染めて言った。
「余計な贅沢すんじゃないわよ!」
「すっ、すみません……ッ!!」
外交で夫と共に国王について回る間、やたらと着飾り、宝石をジャラジャラつけた。天然石が光っているだけだというのに、ガタガタ抜かし過ぎだ。
今は国存亡の危機。
国土と誇り、そして民を守るべき大事な時期だ。
浮ついたオシャレに興味はない。
「サラ。君は美しすぎて、本気で怒ると天罰のように恐い。優しくしてやれ」
「国費はお小遣いじゃないのよ」
「きっ、肝に銘じます……ッ!」
「サラ。サラ、サラ。国の女性が華々しく輝くのは、国にとってもいい事なんだよ」
「今でも?」
「ああ。贅沢はよくないが、つまり……ほどよい美しさは軍神をより高みへと導くんだ。男の筋肉と、女の宝石は、時として等しいんだよ」
「……国のために鎧をもっとよくしようと思ってくれたって事?」
「はい!」
侍女が跪いた。
「王太子妃様に相応しいと思いました! なぜなら軍神サラ様の鎧だからです!」
「……怒鳴ってごめんなさいね。気にしないで。立って」
夫が呟いた。
「美しき猛獣の一族だ」
「猛獣? それ、いいわね」
そんなわけで、私の親族はいくつかの隊に分けられ配置された。
私もそうなのだけれど、権力と名誉と賞賛とか、そういうものには魅力を感じないのだ。気高い軍神として戦いを導き、勝ちたい。あと家族で楽しく過ごしたい。
「あなた、猛獣遣いね」
「そうであれたらいいと願うよ」
「私は頭がよくないけど、父や男の人たちは勉強しているから役に立ててね」
「父に言っておく」
「よろしく」
「殿下。準備が整いました。こちらへ」
夫の側近に呼ばれ、私はついに鎧を身に着けた。
「……!」
昂る……!
最高に昂る……!
「打倒、ミルスカ帝国……!!」
「そういう戦争じゃないんだが……わかってるかな……」
頭のいい人達は勝手に苦悩していればいい。
夫の側近が、夫に耳打ちした。
「殿下。馬鹿と鋏は使いようです」
「……馬鹿ではない」
どう呼ばれようとかまわない。
考えるのは頭のいい人たちに任せて、命を燃やしたい。
それだけだ。
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