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新婚か!~執事視点~

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 俺がダイニングルームに行くと、既にテーブルの上には何もなかった。

 夕方から出てもらったハウスメイドのレイチェルが、困ったように立ち尽くしている。

「エイベル坊っちゃまが全部運んで、今ルシールさんと地下で食器を洗っています」

 坊っちゃまああああああああぁぁぁ。

「エイベル様の逸話はコック長から聞いていたので、なるほどこれが尽くす坊っちゃまか! と感動いたしましたが、ルシール様は……。お客様にそんなことはさせられません! と申し上げたんですが、ラブラブな時間を邪魔しないでくれる? と坊っちゃまに笑顔で睨まれまして……目が笑ってなくて」

 なんか悪かったね、レイチェル。

「あとは私がやりますから、レイチェルは帰宅していいですよ」

 これでは使用人が居るようなものじゃないか。


 俺は、ラブラブイッチャイチャしながら階上に上がってきた二人に忠告する。

「我々の仕事を取らないでいただきたい」

 きょとんとする坊っちゃまの横で、ルシール様が恥ずかしそうに俯く。

「だって、執事さん、眠そうだったから……ついお手伝いを」

 眠そうってなんだ、この糸目をディスってるのか?

「ルシール様、本日はお休みになる前に、少しお坊ちゃまをお借りできないでしょうか」
「なんでさ?」

 既に二人きりになりたくてウズウズしているエイベル坊っちゃまが、ルシール嬢より先に聞いてきた。

「メイベルお嬢様に、読み聞かせと、あと添い寝をしてはいただけませんか?」

 坊っちゃまは、考え込む。

「──ネイサン、あの子をいつまでも甘やかしていたらいけないよ。子供じゃないんだ」

 坊っちゃまは、もっともなことを言う。たしかに、薬価早見表を読んで、とせがんでくる子供はいないだろう。

 ポンと手を叩くルシール嬢。

「私ではダメかしら? 私、男所帯だったから、妹が欲しかったの」

 いいわきゃねーだろ。火に油を注ぐだけだ。

 この方もなんかズレている。俺はため息をついた。

「やはり、エイベル坊っちゃまでございませんと。それに、私ができるのは読み聞かせまで。さすがに添い寝まではいたしかねます」
「それは、確かにその通りだわ」

 ルシール様が大きく頷いた。そうそう、嫁入り前の娘に使用人が寄り添うなどと──

「寝ているのか起きているのか分からない方に添い寝されては、メイベルさん怒りそうだわ。寝かしつけるなら、先に眠ってはいけないのよ」

 そこじゃねーよ! あと何気に失礼だなこの人。今だって起きてるんだけど、俺。

 坊っちゃまは、ふと何か思い当たったように俺に聞いてきた。

「メイベルは、僕に添い寝してほしいって言ってた?」

 俺は首を傾げる。当然ではないか。本当はそうしてほしいに違いない。

「私ではお兄様の代わりは務まらないと、お嬢様に申し上げました。私が来る前に、お嬢様を甘やかしたのは坊っちゃまですよ。添い寝やお休みのチュウなどと、幼児じゃあるまいし。しかも唇にだなんて……それを急に切り離すから、お嬢様は大人になりきれないのです」

 坊っちゃまは大慌てでルシール様を振り返る。

「……」

 ルシール様は、じっと坊っちゃまを凝視している。

「違うからね、ルシール! 僕はシスコンじゃない」
「……あ、ごめんなさい、眠くて意識が飛んでたわ」

 紛らわしいな。

「執事さんを見ていると、こちらも釣られて眠くなるの」

 眠いのはそっちだろ、俺は眠くないってば!

「言っておくが、僕は添い寝もお休みのチュウもしてないぞ! ごくたまに、慰めたり褒めてやる時に、デコちゅうするくらいだよ。だいたいお休みのチュウと添い寝は、幼児期は曽祖父の役目だったし……。あの人、メイベルのこと目の中に入れても痛くないほど可愛がっていたから。目潰しされて懲りてからは、曽祖父だってしてなかったと思うよ」

 あれー?

 俺は困惑してしまった。

「とにかく、お寂しいのですよ。少し二人きりで話してください」
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