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シスコン四兄弟?
しおりを挟む婚約破棄からのプロポーズ……。
急転直下の展開にエミリーは気持ちが付いていけず、戸惑うばかりだった。
そんなエミリーに、ステファンが優しく問いかけた。
「エミリー嬢……いや、エミィ。僕のことがわからない?昔よくマリナード家に遊びに行っていたんだけどな。髪色を変えて」
エミリーはしげしげと跪くステファンの顔を眺めた。
彼のアメジストのような瞳を見た時、ふと記憶の中に残るある人物が浮かんできた。
「……ステフ様?エヴァンお兄様の親友の……」
「そうだよ!思い出してくれたんだね!!」
立ち上がったステファンにギュッと手を握られたが、エミリーは依然として動揺を隠せない。
そんなエミリーに、種明かしとばかりに説明を始めた。
ステファンは学院でエヴァンと親友になり、変装して侯爵家に出入りしていたそうだ。
「ステフ様がステファン殿下とは知らず、失礼いたしました。でもなぜ私と結婚なんて……」
ショーンが忌々しげにステファンの手をエミリーからどけようとするのを、ジェスが止めもせずむしろ加担し、エヴァンは「もしや私が二人を引き合わせたせいか?」と、青白い顔でブツブツ言っている。
「覚えてないかな?『ステフ様は、お話を聞くのがとってもお上手なのね。しかも耳がいいわ』と君が言ったんだよ。僕はその時、次期国王という立場の重さに潰されそうになっていてね。気晴らしに遊びに行っていたんだ。けれど君の言葉で、僕は様々な人々の声に耳を傾ける国王になろうと思ったんだ。耳がいいならと他国の言語もたくさん学んだ」
確かにステファンは城下の者の話をよく聞き、他国との繋がりも深いと評判であったが、まさかエミリーが関係していたとは……。
しかしだからと言って、すぐに結婚を受け入れる訳にもいかない。
「あの、ありがたいお話ですが、私は一度婚約破棄した傷物ですし、釣り合わないと思います」
聞き捨てならないとばかりに、エヴァンがすかさずエミリーを慰めにはいった。
「エミィ、可愛いエミィに傷なんてありえない。ずっと私達と一緒に暮らせばいいさ――ステフ!急に勝手なことを言うな!!私がエミィを大切にしているとわかっていながらあなたという人は……」
すっかり学生の気安さに戻って文句を言っているエヴァンに、ステファンは嬉しそうにしている。
「こうなったら不正を偽造して、ステフを国外追放に……」
「俺が護衛と見せかけて斬ろうか?」
「僕が魔法で燃やすってば」
「もうっ!!馬鹿なことを言うのはやめてください!不敬罪ですよ!!」
すっかり取り乱して王族に対してあるまじき発言をするシスコン三兄弟に、とうとうエミリーの雷が落ちた。
一斉にシュンと肩を落とす三人を見て、最強はエミリーだったのかと周囲は考えを改めていた。
「エミィ、僕と結婚するのは嫌?僕が嫌い?」
「えーと、決して嫌いとかではないのですが、突然ですし……」
「わかった。確かに突然だったよね。じゃあ、とりあえず僕のことは兄だと思って気軽に接してみてよ」
「「「「は?」」」」
マリナード家四人の声がハモり、エヴァンが真っ先に噛み付いた。
「なに意味不明なことを!勝手に兄を増やさないでください!!」
「えー?とりあえずだよ。僕も前まではエミィを妹みたいに可愛いと思っていたし、思いっきり甘やかしてみたかったんだよね」
ステファンの言葉にエミリーの顔は真っ赤に染まる。
「殿下、兄になるのでしたら、結婚はしなくてもよいのでは?」
ジェスの提案にショーンが頷いたが……。
「兄もいいけど、最終的にはエミィを独占したいからそれは無理」
絶対にエミリーと結婚は出来ない三兄弟は憤慨したのだが、「僕と結婚したら三人とも職場でもエミィと会えるのになぁ」というステファンの台詞に、心が揺れ出したのだった。
◆◆◆
夜会の騒動の後。
マリナード家は一気に騒々しくなった。
「殿下!エミィに会いたいからといって、うちを執務室がわりに使わないでください!!」
「そんなこと言って、エヴァンもエミィのそばで仕事が出来て嬉しいだろう?あ、エミィ!今日はタルトを持ってきたよ。あとで僕の膝の上で食べさせてあげるね」
「殿下、それ以上エミィに近付かないでください。っていうか、なんで俺は護衛なのに毎日実家にいるんだよ……」
ステファン殿下は側近のエヴァンと近衛騎士のジェスを伴って、なぜかマリナード家で仕事をするようになっていた。
「あら、今日はタルトですって。エミリー好きよね」
「エミリーは甘いものなら大抵好きだけれど、愛されてて羨ましいわ」
クスクス笑いながら揶揄うのはセレスとアリアーナである。
夜会でポンコツからエミリーを守ろうとした彼女らは、三兄弟から感謝され、放課後学院帰りにマリナード家に立ち寄るのが日課となっていた。
セレスはジェスを、アリアーナはエヴァンを密かに想っているのに気付いたエミリーは、二組の恋が成就するのを願っているところである。
「僕の可愛いエミィ、そろそろ婚約したくなった?」
「ステフ様、それはまだ……」
「ちぇっ、まだ兄貴止まりかー」
いつの間にかシスコン四兄弟となってしまったマリナード家。
「ちょっと、なんでこんなに人が多いんだよ!僕とエミィお姉様の時間を邪魔しないでよね!!」
ショーンの叫び声が今日も虚しく響き渡っていた。
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みんなの感想(9件)
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一気読み、ありがとうございます!
とにかくわかりやすい、テンポのある話が書きたかったので、軽快と言っていただけて嬉しいです☺️単にシリアスな話が書けないだけですが💦
父侯爵の行方も気にして下さって、笑ってしまいました。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました😊
うわわ、思いっきり間違えていました……。
ずっと気付けないまま恥ずかしい思いをし続けるところでした。
教えていただけてありがたいです。
本当にありがとうございました。
お礼を伝えたくて承認してしまい、こちらこそすみません。
一気読みしました。めっちゃおもろかったです😀😀😀次期待してますね☺️
ご感想ありがとうございます。
こんなに続編を希望されたことがないので、正直動揺しつつもとても嬉しいです☺️
ありがとうございました😊