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21.本当の理由②
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「だって誰の立場に立っても、みんなの行動や言動が理解出来るから。必ずしも共感はしないけどね。でもだからこそ、舞美さんの決意を受け入れるべきだと思う」
「彼女の決意」
「もういい加減、前を向いて歩き出していいってこと」
「いいのかな」
「立ち止まったままなのは勝手だけど、前田さんを亡くした舞美さんが前に進むって決めたんだから。慶弥さんも、解放されたかったんじゃないの」
「酷いと思う?」
「五年も頑張ったなら、もういいんじゃないかな。やるべきこと果たしたんだって、思い込むしかないと思う。よく頑張ったよ」
マグカップをテーブルに置いて慶弥さんを抱き締めると、様々な思いが溢れ出てきたのだろう。彼は声にならない嗚咽を漏らした。
身近な人の死に、自分が少なからず影響を与えてしまうことなんて滅多にないことだけど、だからこそどこかで強く線引きしなければ、今までのように囚われたままになってしまう。
舞美さんがなにを思って慶弥さんを許すと言ったのかは分からないけれど、話を聞く限り、前田さんの親御さんもようやく息子の死を受け止められるようになったのではないだろうか。
人は通り過ぎた過去の、ただ一点のみを見つめたままでは生き続けていられない。
前を向いて希望を持たなければ、光を引き寄せることは出来ないんだと思う。
「慶弥さん、明日は日曜だけど休み?」
「そうだけど」
「私、ちょっと有給取れないか確認してみる。少し待っててくれないかな」
「それはいいけど」
ティッシュの箱を掴みながら、赤くなった目元を押さえ、慶弥さんはどうしたのかと不思議そうに首を傾げる。
「こんな時に一人にさせたくないの」
「瑞穂……」
早速ルサルカに電話して、ディナー前で忙しくしてるであろう高橋さんに電話を取り継いでもらう。
そして電話口に出た高橋さんに、連絡が遅れたけれど直営店への移動が決まった話、それに伴って早めに転居先を探す必要があることを伝え、明後日まで有給が取れないか相談した。
高橋さんは突然の有給申請に困惑していたけれど、異動の件はやはり耳に入っていたようで、事情を汲んで急な希望を受け入れてくれた。
「大丈夫だった。月曜まで休み取れたから、この週末はゆっくり出来るよ」
「気を遣わせて、悪かったね」
「いいってば。私がしたいからするの」
「ありがとう」
「うん」
バツが悪そうに苦笑する慶弥さんに顔を寄せ、擦りすぎて赤くなった目元にキスをして何度も彼を抱き締める。
きっと辛いだとかしんどいとか、そんな言葉で片付けられないほどの後悔に押し潰されて来たんだろう。私が彼にしてあげられることなんて、そう多くないのかもしれない。
だけど彼は、誰にも打ち明けられない後悔を私に話してくれた。
彼が前に進みたいと言うなら、一緒にその一歩を踏み出したい。強くそう思う。
「ねえ、お腹空かない?」
「……あの人たちの分作るだけ作って、自分は食べるの忘れてた」
「そうなんだね。実は私も、物件探したり映画見てたらご飯食べるの忘れちゃって。なにか食べたいものある?」
「一緒に作ろうよ」
「よし。じゃあ、とびっきり美味しいの作ろう」
二人でソファーから立ち上がり、キッチンに移動すると、目が赤いと言いながらも慶弥さんに玉ねぎを刻ませたりして、笑い声を上げながら出来るだけ楽しい雰囲気にする。
これから先も、私なんかでは力になれないことはあるかもしれないけれど、慶弥さんは私だから話してくれたんだと思うから。
この人の隣で、地に足をつけてしっかりと歩いて行こうと、改めて慶弥さんとの未来について、現実的に考える決心をした。
「彼女の決意」
「もういい加減、前を向いて歩き出していいってこと」
「いいのかな」
「立ち止まったままなのは勝手だけど、前田さんを亡くした舞美さんが前に進むって決めたんだから。慶弥さんも、解放されたかったんじゃないの」
「酷いと思う?」
「五年も頑張ったなら、もういいんじゃないかな。やるべきこと果たしたんだって、思い込むしかないと思う。よく頑張ったよ」
マグカップをテーブルに置いて慶弥さんを抱き締めると、様々な思いが溢れ出てきたのだろう。彼は声にならない嗚咽を漏らした。
身近な人の死に、自分が少なからず影響を与えてしまうことなんて滅多にないことだけど、だからこそどこかで強く線引きしなければ、今までのように囚われたままになってしまう。
舞美さんがなにを思って慶弥さんを許すと言ったのかは分からないけれど、話を聞く限り、前田さんの親御さんもようやく息子の死を受け止められるようになったのではないだろうか。
人は通り過ぎた過去の、ただ一点のみを見つめたままでは生き続けていられない。
前を向いて希望を持たなければ、光を引き寄せることは出来ないんだと思う。
「慶弥さん、明日は日曜だけど休み?」
「そうだけど」
「私、ちょっと有給取れないか確認してみる。少し待っててくれないかな」
「それはいいけど」
ティッシュの箱を掴みながら、赤くなった目元を押さえ、慶弥さんはどうしたのかと不思議そうに首を傾げる。
「こんな時に一人にさせたくないの」
「瑞穂……」
早速ルサルカに電話して、ディナー前で忙しくしてるであろう高橋さんに電話を取り継いでもらう。
そして電話口に出た高橋さんに、連絡が遅れたけれど直営店への移動が決まった話、それに伴って早めに転居先を探す必要があることを伝え、明後日まで有給が取れないか相談した。
高橋さんは突然の有給申請に困惑していたけれど、異動の件はやはり耳に入っていたようで、事情を汲んで急な希望を受け入れてくれた。
「大丈夫だった。月曜まで休み取れたから、この週末はゆっくり出来るよ」
「気を遣わせて、悪かったね」
「いいってば。私がしたいからするの」
「ありがとう」
「うん」
バツが悪そうに苦笑する慶弥さんに顔を寄せ、擦りすぎて赤くなった目元にキスをして何度も彼を抱き締める。
きっと辛いだとかしんどいとか、そんな言葉で片付けられないほどの後悔に押し潰されて来たんだろう。私が彼にしてあげられることなんて、そう多くないのかもしれない。
だけど彼は、誰にも打ち明けられない後悔を私に話してくれた。
彼が前に進みたいと言うなら、一緒にその一歩を踏み出したい。強くそう思う。
「ねえ、お腹空かない?」
「……あの人たちの分作るだけ作って、自分は食べるの忘れてた」
「そうなんだね。実は私も、物件探したり映画見てたらご飯食べるの忘れちゃって。なにか食べたいものある?」
「一緒に作ろうよ」
「よし。じゃあ、とびっきり美味しいの作ろう」
二人でソファーから立ち上がり、キッチンに移動すると、目が赤いと言いながらも慶弥さんに玉ねぎを刻ませたりして、笑い声を上げながら出来るだけ楽しい雰囲気にする。
これから先も、私なんかでは力になれないことはあるかもしれないけれど、慶弥さんは私だから話してくれたんだと思うから。
この人の隣で、地に足をつけてしっかりと歩いて行こうと、改めて慶弥さんとの未来について、現実的に考える決心をした。
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