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第一章 ラバネス半島編

22.トランベル王国へ!

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店舗へ乗り込んできた荒くれ者達を雇ったのは、トランスベル王国の王宮の手の者だった。

どうやら僕が渡した魔法陣の解析が上手くいかなかったようだ。

この世界にはひらがなも、カタカナも、英語もないんだから、僕が魔法陣に描いた文字を解読できないんだけどね。

僕とアグウェルは今後の対策について話し合う。


「シオン様はどのように対処するおつもりですか?」

「父上とロンムレス宰相に経緯を説明して、ブリタニス王国の王宮に助けてもらう手段も考えたんだけど、下手をするとブリタニス王国とトランスベル王国の外交問題にも発展しかねないから、二人に相談するのも難しいかなと思ったり」

「そうですね。父君にいらぬ心配をかけることにもなりますね」

「『ロンメル商会』から直でトランスベル王国へ『ボーン食器』を卸して、価格を下げることも考えたんだけど、トランスベル王国の王宮が欲しがっているのは製造方法だから意味ないし」

「いっそトランスベル王国の城を蒸発させては」

「ダメダメ、そんなことすればトランスベル王国に住む人々が大混乱になるじゃないか」


僕は慌てて手の平を前に出して、アグウェルを止める。


やっぱりアグウェルは魔族だから、どこか血の気が多いというか、なんというか……


「うーん、トランスベル王国の王宮の人達の考えを上手く誘導できたら簡単なんだろうけど、そんなに簡単に人の心を動かすことなんてできないしなー」

「それならリムルに任せてみるのはいかがでしょう。娘は妖魔族、サキュバスですから人を魅了するチャームのスキルを使うことができます」

「それなら人を傷つけることもないし、戦争になることもないと……じゃあ、リムルにお願いしようかな。ちょっとリムルを呼んできて」

「はい、リムルもシオン様のお役に立てて喜ぶことでしょう」


アグウェルはニヤリと笑むと黒霧になって消えていった。

それからしばらくすると、室内に隅に黒霧が現れて、アグウェルとリムルが姿を現した。

そしてリムルが豊満な胸を押しつけるようにして僕にギュッと抱きつく。


「お父様から話は聞いたわ。シオン様のために私、頑張っちゃう」

「あくまで誘導するだけだからね」

「それなんだけど……私、自分に惚れさせるチャームしか使えないの。だから国王をメロメロにしてくるわね。そうすれば私のいう事なら何でも聞いてくれるようになるから」

「ダメダメ。そんなことをすれば王国を乗っとるのと同じだよ。それは絶対にダメだからね」


慌てて僕はリムルを止める。

僕に注意されて、リムルは可愛く唇を尖らせる。


「じゃあ、どうすればいい? シオン様が決めて」


国王をチャームで傀儡にして国を動かすなんて、完全な悪者だからダメだし……リムルは人を魅了するチャームしか使えないから人心操作魔法は使えないと……


「そのチャームは簡単に術をかけられて、簡単に術を解くことはできるの?」

「うん、そこは私の意のままにできるって感じ。どっぷり好きにさせることもできるし、昔からの幼馴染の好きみたいな感じにすることもできるよ」


それなら手立てがあるかもしれないな。

リムルに抱き着かれたまま、僕は顔をアグウェルの方へ向く。


「トランスベル王国の王家には、王子っているかな?」

「はい二人おります。ロナウド王太子とカムシン第二殿下です。ロナウド王太子は十七歳で武闘派ですね。カイロス第二殿下は十六歳で読書家です。どちらも頑固という点は変わりませんが」


国王陛下を魅了するのは他国を操ることになるからダメだよね。

でも王子達に味方になってもらうぐらいならいいかも……


「アグウェル、僕を二人の王子殿下の元まで運んでいくことはできる?」

「私のように霧化して一瞬で移動することは叶いませんが、空を高速で移動してトランスベル王国へ向かうことは可能です。王子二人の居場所は既に把握していますので」


それって空を飛ぶってことだよね。

魔法で空を飛ぶって、ファンタジー世界でやってみたいこと上位の一つじゃん!


「ぜひ連れてって」

「仰せのままに」


アグウェルは僕を抱きかかえると、窓を開けて一気に空へと飛翔した。
その後にリムルも続いてくる。

振り返ると店舗の建物がグングンと遠ざかっていく。
前を向くと、大空が無限に広がっていた。

アグウェルと平行して空を飛ぶリムルが頬を膨らませる。


「私がシオン様を抱っこしたかったのに」

「シオン様は我の大事な主様です。私がシオン様のお世話をするに決まっているのです」

「いつもお父様ばかりズルイー」

「まあ、まあ、言い争いはよそうよ。それより見てよこの空を大きさ」


僕が両手を広げてはしゃぐと、アグウェルがしっかりと支えてくれる。


「あまり動きますと、落ちてしまいますのでご注意を」


その言葉に、思わず下へ視線を向けると、地上の建物が点のように見え、僕は怖くなって アグウェルにしがみついた。


「絶対に落さないでね」
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