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12.自分の心

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どのくらい経っただろう……あれからずっと人形のようにベッドに転がっていた。
ふと顔を動かすと、ご飯がいつものように置いてある。いつからあるのか分からない。
でも、今度こそ食べる気にもならないし、何をする気にもなれなかった。

このままではいけないと思う自分と、もういいじゃないかと思う自分がいる。
このままご飯食べなかったら死ぬのかなぁ、と漠然と思う。それもいいのかなぁ。
結局こうなることが私への復讐だったのかな。誰にも知られずに、自ら死を選んで。

でも、そもそもなんでこんな死にたくなるぐらい追い詰められているんだろう。
とりあえず、考えることは放棄できない。そんなの前の私と変わらないから。もっと考えろ私。

何が1番傷付いたのか考えて考えて考えて。


なんのことはない、単純な話であることに気が付いた。


ーーーそう。私はジルヴェール様に惹かれていたんだ。


トリスティン様の二の舞になりたくなくって、気持ちに蓋をしていた。
所詮復讐に利用されているだけなのを知って、本当は凄く凄くショックだった。優しくされただけですぐに舞あがる単純な自分も嫌だった。
突き止めて考えればシンプルな話だった。私は、また自分が傷付くのが嫌なだけだったんだ。

自分の気持ちが分かって、スッキリした。
そっか。私そうだったんだね。全く、いつもいつも単純で男に騙される私って本当バカだよねぇ。
それで、産まれて初めて囁かれた愛の言葉が自分に向けたものではなかった事がショックで、ご飯も喉を通りません。

ガチ箱入り令嬢だった前の私だったら、ここまできたら完全に自ら命を経っていたと思う。
ところがどっこい、前世の記憶がある私はここで言う庶民感覚を手にいれております。手痛い失恋ぐらい死ぬよりはマシだ。人間生きていたらいい事もきっとあるはず。

そうそう、ここは真摯にお願いしてみよう。令嬢の私は死んだことにして、平民としての第二の人生を歩ませてもらうのだ!
いくら意地悪をしていたとはいえ、これだけ復讐されたのだから完全にペイだと思いたい。と言うか、交渉よ交渉! 取引を行う上ではこちらが被った損害をきっちり報告して、そちらの被害はすでに補填されておりますよ~っとアピールせねば。

ベッドに転がったまま、気持ちが晴れやかになるのを感じながら今後の予定を詰めていた。
うんうん! 女は泣いたら強くなるもんね。


……ガチャリ


おぉっ! ビックリしたー!! 急に扉が開いてビックリしたけど、身体は反応しなかった。

……完全にエネルギー切れだね。私どのくらいこうしていたのかな?

「……フィー……お願い。何か食べて……」

……いやいや、ジル様こそ何か食べた方がいいのでは?と思わず突っ込みたくなるぐらい顔色も悪くフラフラだった。

「……ぁ」

だめだ! 水分も飲んでないから声が咄嗟に出ないっ!

「フィー。お願い……」

配膳を持って近づいてくるジル様の目には、何故か涙が溢れていた。
えっ!?? なんで??? 私がこうして死ぬのが復讐じゃないの? それとも、流石に死ねー! とかまでは思われてなかったのかなぁ。そうだとちょっと嬉しいな、っておいおい私本当単純だな!

でも、いいんだ。この単純な私が『私』だから。他の誰も愛してくれなくても、私だけでも私を認めてあげないとね!

「……ぁ……んん。ゲホっ!……あ、お水ください」
「……っ! フィーっ! うん。ごめん。飲んで…っ!」

何故か慌ててお水を渡してくれるジル様。相変わらず甲斐甲斐しいですありがとうございます。

ごくごくごくごく
ぷはーーーー生き返る~~水分はやっぱり大事だね。

「……まだ飲む?」
「……うん」

まるで病気になった子どものように頷くと、渡したグラスに水を注いでもらう。

……またこんなに甲斐甲斐しくお世話されたら、勘違いしてしまうよ……おまけに水を飲んでいる私を熱がある目で見つめてくるから、ドキドキしてしまう。
単純で妄想癖有りの痛い女である私に、さらに勘違い女っていう痛い項目を追加したくない。
ここは、脳内シュミレーションに基づいて真摯に平民へのジョブチェンジを申し出よう。

「……ジルヴェール様……お願いがあるんです」
「っ! 何!? フィーの言う事ならなんでも聞くよっ!」

何故か顔を輝かせ食い気味に話をするジル様に、ちょっぴりビビった。

「私をこのまま死んだことにして、どこかの街で平民として暮らせるように見逃してもらえませんか?」
「……っ! 何故そんなっ……!」

案の定ジル様の顔は、以前から何度か見る能面のような顔になった。だが私も学習したのだ!これはジル様がものすごく怒っている顔であると!

「ジルヴェール様がお怒りになるのは、それだとリーリウム様への復讐が果たせないためですか? ……それでしたら、その復讐はもう果たせたと思います。……ジル様の目論見通り、私は貴方に惹かれてしまいました。愛するリーリウム様の為の復讐ためだと分かって絶望して死にたくなるほどに……でも! こうして食事の心配をしてくださるってことは、私の死までは望んでいないんですよね!? 私は見事第二の失恋もしたことですし、リーリウム様への意地悪ももうこれで十分償ったと思うんです! もう絶対に絶対にお二人の邪魔をしません! なので内緒でこっそりこのまま平民として暮らしていけるように、是非是非お力をお貸しください」

最後に、前世での伝家の宝刀、究極のお願いスタイル土下座で決めてみた。


……

あれ?

おかしいなぁ。何も言ってくれない……

っは! そうかっ!! 肝心なことを忘れていた!!

結局ジル様もリリー様への報われない恋心を抱いてのこの復讐。お互い失恋同士だったわけで。いやぁ、前世での恋物語でもよくあるけど、上手くいかないものだよね恋って。
そうだよね。ジル様も辛かったんだよね。お兄様に愛する人を譲ったんだもんね……

「……ジル様も、リーリウム様へ叶わぬ恋をお持ちでお辛かったんですね……」

反応がないのにいつまでも土下座は辛いので、そっと身を起こすと正座したまま相手の気持ちに添えるように呟く。
うんうん。私は分かっているよ~。その気持ちわかるよ~。ほらほらだから安心して~。
交渉ではこうした相手の気持ちに添うことも非常に大事だと思う!

「……」
「えっと……ジル様…??」

あれれ? 何で何も言わないのかなぁ??
もしかしてリリー様の事を思うと胸が苦しくなるという恋の病ってやつですか?と、1人納得していたら、ものすごい衝撃でジル様に押し倒された。


え!!?? なんで???
もしかして、地雷踏んじゃった!? 叶わぬ恋って知ったような口聞くな、とか言われちゃう?

……そういえばトリスティン様にもよく、子どもの浅知恵で物事を話すなって言われ続けていた……

私、やっぱり何も変わっていないのかも……

そう思って、覆い被さるジル様を恐々見上げる。



すると。

そこには、今まで見たことがないぐらい蕩けた顔をしたジル様がいた。


ーーーなんでだろう?
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