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十五話

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「よくやった俺のカテリーナ」

 

 高圧的な声が、静かになったザールの街に響きます。
 振り向くと、そこには元第二王子。
 私のかつての婚約者、スティーヴ殿下の姿があったのです。
 俺のカテリーナ?
 聞き捨てならない言葉が、元婚約者の口から発せられました。
 周囲を見回すと、王家の紋章がついた鎧の兵士たちに囲まれつつあります。
 追跡してきていた、王国最強の近衛兵団に追いつかれてしまったのです。


「俺は最初から、お前が本物の聖女だと思っていた。さあ、俺と一緒に城に帰るぞ?」

「スティーヴ殿下、どういうことでしょうか?」

「シャイナは所詮、拾われた子供だったということだ。ノービス公爵が目をかけていたのに、あの程度とは使えん。夜はまあまあだったが俺を騙すとはな。まあ、お前が思いがけず聖女だと分かったのは収穫か。さっさと戻るぞ? 他国との交渉がある」

「嫌……いやです、戻りません、どうして、どうしてそんなこと言うんですか?」

「国のためなんだぞ? 我儘を言うな」

 強引に私の腕を掴もうとするスティーヴでしたが、アーサーが腕を払い阻止しました。

「どの口でそれを言った? お嬢様に近づくな腐れ野郎」

「触るな下民。汚れがつくだろうが」

「くっ……お逃げくださいお嬢様!!」

「できるのか? 逃げたら両親や生意気なこいつらの首をはねる。いいのかカテリーナ!!」

 逃げるわけない。
 今の私には聖女の力と、精霊神様の加護がある。
 いくら強力な近衛の兵だとしても、私の力があれば……。

「聖女の力を使うのかカテリーナ? 近衛兵はなにも知らない、いわば善良な市民と同じで俺に従っているだけだ。そんな人間を攻撃するのか、聖女のお前が!!」

「卑怯ですぞ!! あまりに卑劣な策。小童王子のスティーヴ、貴方にこのような策を教えた覚えはない。今すぐ考え直して、お嬢様を解放するのじゃ」

「うるさいガリウス。貴様の講義はいつも退屈だったよ。それに、俺はもう王子じゃない」

 王子じゃない?
 スティーヴの言葉の意味がわかりません。
 ですが、彼は王しか持つことを許されない王冠を天に掲げ、自慢げな顔で宣言したのです。

「父が崩御した。つまり俺が今、第一継承者ということ!! 戴冠の儀はまだだが、この国の次期国王は俺に決定したということだ!! あはははっ、あはははあははは!!」

 なんということ。
 お亡くなりになった王から剥ぎ取るように王冠を取って持ってきたというのですか?
 そこまでして、王になりたいのですか?

 ……もしかして、スティーヴは。

 兄である第一王子サラン様のときも、スティーヴはニコニコと笑ってらっしゃった。
 今回、実の父の死についても。

 勝ち誇るスティーヴを前に、私の中で全てが繋がったのでした。
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