【完結】今夜さよならをします

たろ

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バズール編②

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「ったく、なんなんだよ」

 ライナの奴、中等部を卒業したらシエルの働いている屋敷で働くなんて言い出した。

 それもメイドとして……

 あいつは男爵家の娘とは言え、商会を経営して成功させている父親とフェルドナー伯爵家の娘であった母親の大切な一人娘なんだ。
 メイドとして働く必要なんてない。

『なんで学校に行かないんだ!』

『え?シエルと少しでも同じ時間を過ごしたいの』

 結婚すればずっと一緒なんだからあと三年間くらい俺と同じ学校に通ってもいいだろう?

 ーー俺はその言葉を飲み込んで、ライナの鼻を思いっきりつまんだ。

『お前みたいなお嬢様が人の世話なんて出来るわけがないだろう?シエルだって婚約者がお前みたいに鈍臭くて使えないと思われたら恥かくぞ』

『………そこは大丈夫かも………面接で奥様にシエルとの婚約のことは話さないと決めたから………』

『なんで?』

『仕事中、恋愛とかで疎かになっては困るからって。それに周りも気を使うことになるでしょう?』

 ライナが下唇をぐっと噛んだ。

 ーーやべえ、つい感情的になってライナに酷いことを言った。

 ライナはシエルのことが大好きだ、優しくて頼りになってライナのことを愛してくれている。
 ーー俺なんかもっと好きなんだけどな。

 俺はベッドに寝転がって、クッションや本を無造作に壁に投げつけた。

「あーー、くっそぉ、ライナのことなんか嫌いになれたらいいのに。従姉妹じゃなきゃ会わずに済むのに」

 失恋して会えなければよかった。なのに従姉妹でライナはよくうちの屋敷に来る。

 お祖母様とライナは大の仲良しでいつも一緒にお茶をしたり買い物に出かける。ついでにうちの母上までもライナのことを可愛がっている。

「娘がいないからライナがとても可愛いの」

 だから来るなとも言えない。会いたくないとも言えない。

 ライナは普通に俺に接してくる。

「バズール、ねぇ、このドレス可愛でしょう?」

「見てみて、わたしね、ハンカチに刺繍を刺してみたの」
 あいつは事あるごとに俺に色々報告してくる。

 兄妹がいないあいつにとって俺はやはり兄妹でしかないみたいだ。

 デートで劇を見にいった。美術館に行った。祭りに出かけた。初めて手を繋いだ。

 そんな報告を聞くたびに俺の心ははち切れそうになる。

 ズキズキと痛んで………

 いい加減気持ちを切り替えて婚約者でも作ればいい。そう思ってここ数年過ごしたのに、俺の目の前でどんどん綺麗になって可愛くなっていくライナのことを想わずにいられなくて……忘れることなんてできなかった。

 それでもなんとか気持ちをこれ以上拗らせないように自制して過ごした。

 必死に勉強をして気がつけば生徒会長なんかになって真面目でしっかり者と言われて……

 ただの拗らせ野郎なだけなのに……

 おかげで王太子殿下とも親しくさせてもらいさらに気がつけば側近候補になっていた。

 そんな俺がやっとチャンスが来たのは……

 あのお花畑のリーリエのおかげだ。

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