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新しい恋。
じゅうなな
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わたしの記憶は……中等部を卒業してからある一部のことに対して忘れているようだ。
チグハグな記憶だけど、商会で手伝いをしたことやお母様達と過ごした日々、お祖母様たちに会いに行ったことなど覚えていることも多い。
ただお母様が言った『シエル、ミレガー伯爵、リーリエ嬢』と言う人達のことは覚えていない。
ちなみに留学していたらしいけど全く記憶がない。
お母様達が教えてくれたのはわたしがバズールと同じ学校に留学して長期休暇で二人で汽車に乗り帰ってくる時に運悪く列車の横転事故に遭ってしまったと言うこと。
わたしは大怪我をしてバズールは頭を強く打ちまだ意識が戻らない。
わたしは何度も彼のお見舞いに行きたいとお願いしたけど会わせてもらえない。
「サマンサ、わたしと同じ病院に入院しているのでしょう?お願い病室を教えてちょうだい。どうして会いに行けないの?」
「まだ……お医者様が面会謝絶で許可を出していないそうです」
「でも身内は会えるものではないの?」
「そうですけど……」
サマンサにこれ以上問いただすのはやめた。
とても申し訳なさそうにしている姿を見ると、これ以上聞くことはできない。
でも会えないと聞けば心配でたまらない。
せめて顔だけでも見たい。
わたしはみんなが寝静まった夜中こっそりと病室を出た。
静かな廊下をたぶんこの部屋だろうと当たりをつけていた場所を目指す。
貴族の男性は大体3階から上の個室に入ることが多いと看護師さんに聞いた。
わたしは2階の個室に入っているので、上の階に行って探すことにした。
部屋は扉が閉められている。
ーー当たり前よね。
少しだけ扉を開けてそっと覗き閉める。
バレれば怒られるし、もし開けた部屋の知らない人と目が合えばどうなるのか……と考えると怖い。でもバズールの顔を一目だけでも見たい。
その思いでこっそり部屋を覗くこと5部屋目でバズールが寝ている部屋を見つけた。
こっそりと部屋の中に入り、バズールの眠っているベッドに近づいた。
バズールの顔にそっと持っていたライトの灯りを近づけた。
「……バズール……」
綺麗な顔のバズール……彼の顔の右側には包帯が巻かれていた。
身体のあっちこっちにも包帯が巻かれていた。息をしているのか近づかなくてはわからないくらいの小さな呼吸をしていた。
「生きていた……」
サマンサは意識が戻らないだけだと言ってたけど、本当は酷い怪我をしていた。だからわたしに会わせないようにしていたのだと理解した。
わたしがショックを受けないようにしていたのだ。
バズールの顔を覗き、わたしは彼に声をかけた。
「バズール?わたし……大事なことを忘れている気がするの……お願い、目を覚まして?バズールがこのままなんて嫌だよ。いつものように『ったくライナは』って笑いながら話しかけてちょうだい。ねぇ、バズール……列車事故の時……何があったのかな?わたし、どうして記憶をなくしたのかしら?
バズール……お願い……」
わたしは眠り続けているバズールに話しかけた。
事故から目が覚めて今わたしの世界は少し歪んで見えること。いつも心の中がモヤモヤして気持ちが悪いこと。
みんながわたしに気を遣ってくれているのが凄くわかるのだけど、とても居心地が悪く、本当は心が痛くて自分でもどうしていいのかわからないこと。
みんなの前では心配かけたくなくて笑っているしかない……
「お腹の傷の所為で傷モノになってしまったけど、お父様がとってもよく効く傷薬を外国から探してくださったの。だから傷もいずれは薄くなってわからなくなるだろうと仰ったの。だからバズールの怪我の痕もその薬で治しましょうね」
わたしはそう言いながらバズールの怪我にそっと触れた。包帯が痛々しい。
動かないで眠り続けるバズール。
事故から2週間が経っている。
バズールの顔にわたしの涙がポトっと落ちていく。
ーーバズールを見ていると切なくて胸が苦しい。
従兄弟が怪我をして辛いから……涙が出るのかな?
こんな姿を見て……辛いのかな?
記憶を失って……大事なものまで失ってしまった気がする。
バズールが気になって、会いにきたけど……あまりにも痛々しいバズールを見ると、心が張り裂けそうなほど辛い。
バズール……お願い、目を覚まして……
わたしは涙するしかない自分に悔しくて……でも何もできなくて。
しばらくして誰かに見つかる前にこっそり自分の病室に戻った。
チグハグな記憶だけど、商会で手伝いをしたことやお母様達と過ごした日々、お祖母様たちに会いに行ったことなど覚えていることも多い。
ただお母様が言った『シエル、ミレガー伯爵、リーリエ嬢』と言う人達のことは覚えていない。
ちなみに留学していたらしいけど全く記憶がない。
お母様達が教えてくれたのはわたしがバズールと同じ学校に留学して長期休暇で二人で汽車に乗り帰ってくる時に運悪く列車の横転事故に遭ってしまったと言うこと。
わたしは大怪我をしてバズールは頭を強く打ちまだ意識が戻らない。
わたしは何度も彼のお見舞いに行きたいとお願いしたけど会わせてもらえない。
「サマンサ、わたしと同じ病院に入院しているのでしょう?お願い病室を教えてちょうだい。どうして会いに行けないの?」
「まだ……お医者様が面会謝絶で許可を出していないそうです」
「でも身内は会えるものではないの?」
「そうですけど……」
サマンサにこれ以上問いただすのはやめた。
とても申し訳なさそうにしている姿を見ると、これ以上聞くことはできない。
でも会えないと聞けば心配でたまらない。
せめて顔だけでも見たい。
わたしはみんなが寝静まった夜中こっそりと病室を出た。
静かな廊下をたぶんこの部屋だろうと当たりをつけていた場所を目指す。
貴族の男性は大体3階から上の個室に入ることが多いと看護師さんに聞いた。
わたしは2階の個室に入っているので、上の階に行って探すことにした。
部屋は扉が閉められている。
ーー当たり前よね。
少しだけ扉を開けてそっと覗き閉める。
バレれば怒られるし、もし開けた部屋の知らない人と目が合えばどうなるのか……と考えると怖い。でもバズールの顔を一目だけでも見たい。
その思いでこっそり部屋を覗くこと5部屋目でバズールが寝ている部屋を見つけた。
こっそりと部屋の中に入り、バズールの眠っているベッドに近づいた。
バズールの顔にそっと持っていたライトの灯りを近づけた。
「……バズール……」
綺麗な顔のバズール……彼の顔の右側には包帯が巻かれていた。
身体のあっちこっちにも包帯が巻かれていた。息をしているのか近づかなくてはわからないくらいの小さな呼吸をしていた。
「生きていた……」
サマンサは意識が戻らないだけだと言ってたけど、本当は酷い怪我をしていた。だからわたしに会わせないようにしていたのだと理解した。
わたしがショックを受けないようにしていたのだ。
バズールの顔を覗き、わたしは彼に声をかけた。
「バズール?わたし……大事なことを忘れている気がするの……お願い、目を覚まして?バズールがこのままなんて嫌だよ。いつものように『ったくライナは』って笑いながら話しかけてちょうだい。ねぇ、バズール……列車事故の時……何があったのかな?わたし、どうして記憶をなくしたのかしら?
バズール……お願い……」
わたしは眠り続けているバズールに話しかけた。
事故から目が覚めて今わたしの世界は少し歪んで見えること。いつも心の中がモヤモヤして気持ちが悪いこと。
みんながわたしに気を遣ってくれているのが凄くわかるのだけど、とても居心地が悪く、本当は心が痛くて自分でもどうしていいのかわからないこと。
みんなの前では心配かけたくなくて笑っているしかない……
「お腹の傷の所為で傷モノになってしまったけど、お父様がとってもよく効く傷薬を外国から探してくださったの。だから傷もいずれは薄くなってわからなくなるだろうと仰ったの。だからバズールの怪我の痕もその薬で治しましょうね」
わたしはそう言いながらバズールの怪我にそっと触れた。包帯が痛々しい。
動かないで眠り続けるバズール。
事故から2週間が経っている。
バズールの顔にわたしの涙がポトっと落ちていく。
ーーバズールを見ていると切なくて胸が苦しい。
従兄弟が怪我をして辛いから……涙が出るのかな?
こんな姿を見て……辛いのかな?
記憶を失って……大事なものまで失ってしまった気がする。
バズールが気になって、会いにきたけど……あまりにも痛々しいバズールを見ると、心が張り裂けそうなほど辛い。
バズール……お願い、目を覚まして……
わたしは涙するしかない自分に悔しくて……でも何もできなくて。
しばらくして誰かに見つかる前にこっそり自分の病室に戻った。
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