19 / 55
エディ様の病気。②
二人で歩く廊下はとても長く感じた。
ーー会話がないのよ。続かないのよ。
天気の話でもした方がいいのかしら?
目線を逸らすため窓の方をチラッと見た。
「アネモネの花……」
わたしが呟いた。
「えっ?」
「ほら、アネモネの花が沢山咲いているんです。わたしは青いモノが好きなんです。お母様に似た瞳の色……サリーがいつもお花が枯れないようにと部屋に飾ってくれます。最近はアネモネの花なんです……」
わたしは立ち止まり静かに花を見ていた。
「ふふ、アネモネって青、ピンク、赤に白、それに紫まであるんですね。わたしの部屋に飾ってくれるのはいつも青と赤、そして白なんです。今度サリーにお願いして紫とピンクも飾ってもらおう」
「どうして青以外……赤と白なんだろう」
スティーブ様の言葉に「さぁ?サリーの好きな色なのかしら?」と答えた。
そしてまた歩き出した。
エディ様は自室ではなく、今は公爵家お抱えの診療所に入院している。
公爵家にはたくさんの使用人と騎士団の人達もいる。
そのため病気をする人や生傷が絶えない人が多い。数人の医師を常駐させて診療所と入院出来る部屋がある。
その中に公爵家専用の個室も作られているのだ。
屋敷からは長い廊下を歩き、その個室へと行ける。
普段執務室と自分の部屋、あとは屋敷の決まった場所しか移動しないわたしには、こんなところに庭園があることすら知る由もなかった。
「今度余裕ができたらゆっくりあのお庭でお茶でも飲みたいな」
スティーブ様が隣にいることも忘れて独り言を言っていたらしい。
「すまない、母上が君に自分の仕事まで押し付けていることはわかっているのに…助けられない自分が恥ずかしい」
「ふふ、ここでの仕事はわたしの将来に役立つと思います。それに最近はイザベラ様に色々と押し付けていますから。彼女が嫁いでもすぐに役立つ様にしておきますね?」
「な、なんで……違う。俺はイザベラとはそんな関係じゃない」
「はあー、もうどうでもいいです。この屋敷で、食事ももらえない、ずっと酷いことをされる、そんな覚悟をして嫁いできました。だけど思ったより酷い待遇はなかったし、イザベラ様も上手に付き合えば苦にならなくなったし。まぁ、蓋を開けてみたらお義母様とお義父様が碌でもないので驚きましたが」
わたしの言葉にビクッとしていた。
「知っているのか?」
「お義父様は未だにレテーシア様に夢中?お義母様は心を壊されている?それを見て見ぬ振りする子供達?最低ですよね?」
「ぐっ……どうすればいいのかわからないんだ。父上にとって愛する人はレテーシア様。母上はそんな二人に壊されてしまって……父上を諌めるだけの力は俺にはないんだ……」
「まあ、確かに。わたし達はまだ子供でしたもの。わたしも大人の恋愛のことはよくわからないから口では強く言ってしまいました」
「「どうしたらいいのか……」」
困った顔になってお互い目が合ってしまった。
「ごめんなさい、どうにか出来ていたらお義母様があんな風になっていないですよね?」
言い過ぎだとわたしも少し反省した。
これはわたしが口を出していい問題ではないのに。ついスティーブ様を責めてしまった。
わたしにはお母様がいないから、だから、守ってあげて欲しくて……
また二人静かに歩いた。
「ここだ」
エディ様の部屋に入ると
「エディ様?」
そっとベッドに近づくと、かなりの高熱だとわかるくらいぐったりしていた。
「セ…レン?」
とてもキツそうなのになんとか笑顔を作ろうとするエディ様。
「今日はエディ様を治すために来ました……たぶん熱がもっと上がってキツいと思いますが、それを乗り越えれば治ります。わたしの癒しの力ってカッコよく治せないのが辛いところなんですが絶対治りますので……」
わたしが言いにくく伝えると「セレン、ありがとう、お願い」と言った。
「うん、絶対治すからね」
わたしは肺のところに手を翳した。
「………っう」
少しずつ熱が上がってきてさっきよりもグッタリとしている。息も荒くなって苦しそう。
スティーブ様も本当は止めたいんだろうなと思いながらわたしはずっと魔力を込めた。
十分ほど、エディ様は苦しんだ。
「ぷっ、はあ」
エディ様がにっこりと微笑んだ。
「はああ、思った以上にキツかった。だけど助かったよ。僕かなり酷くてもしかしたら……と医者にも言われていたんだ。自分でも危ないかなって感じてた。どんなに薬を飲んでも悪化するだけだったし……」
「間に合ってよかったです。なんだか胸騒ぎがしたの……わたしの癒しの力って痛みが伴うから……自然に治るものは手を出さないようにしているの」
「ありがとう、だけど突然僕が治ったら医者は驚くだろうね」
「……大丈夫。ここのお医者様はみんなわたしの力をご存知だから……」
「え?そうなの?」
「うん、騎士様って酷い怪我をして再起不能になる方もいるでしょう?そういう人だけはわたしが治療しているの」
「そっかぁ、じゃあなぜ僕は早く治療しなかったの?」
「うん、病気の治療は……トラウマがあってあんまりしないの。怪我は平気なんだけどね」
「トラウマ?」
「うーん、ま、色々あるんだ」
わたしがこれ以上話したがらないからエディ様は聞いてこなかった。
わたしはお母様を助けられなかった。その頃わたしの癒しの魔法は簡単な病気や怪我しか治せなかった。
必死で治そうとしたけど……やはり治すことは出来なかった。
お父様もお兄様も責めることはなかった。
だってお母様はもう治療の施しようがないくらい悪くなっていたから。
でも、それでも、助けてあげたかった。
それからは………怪我は治しても病気は治さなかった。
だけどエディ様の体調がかなり悪いと聞き嫌な予感がしたのだった。
だから……久しぶりに頑張った。
ーー会話がないのよ。続かないのよ。
天気の話でもした方がいいのかしら?
目線を逸らすため窓の方をチラッと見た。
「アネモネの花……」
わたしが呟いた。
「えっ?」
「ほら、アネモネの花が沢山咲いているんです。わたしは青いモノが好きなんです。お母様に似た瞳の色……サリーがいつもお花が枯れないようにと部屋に飾ってくれます。最近はアネモネの花なんです……」
わたしは立ち止まり静かに花を見ていた。
「ふふ、アネモネって青、ピンク、赤に白、それに紫まであるんですね。わたしの部屋に飾ってくれるのはいつも青と赤、そして白なんです。今度サリーにお願いして紫とピンクも飾ってもらおう」
「どうして青以外……赤と白なんだろう」
スティーブ様の言葉に「さぁ?サリーの好きな色なのかしら?」と答えた。
そしてまた歩き出した。
エディ様は自室ではなく、今は公爵家お抱えの診療所に入院している。
公爵家にはたくさんの使用人と騎士団の人達もいる。
そのため病気をする人や生傷が絶えない人が多い。数人の医師を常駐させて診療所と入院出来る部屋がある。
その中に公爵家専用の個室も作られているのだ。
屋敷からは長い廊下を歩き、その個室へと行ける。
普段執務室と自分の部屋、あとは屋敷の決まった場所しか移動しないわたしには、こんなところに庭園があることすら知る由もなかった。
「今度余裕ができたらゆっくりあのお庭でお茶でも飲みたいな」
スティーブ様が隣にいることも忘れて独り言を言っていたらしい。
「すまない、母上が君に自分の仕事まで押し付けていることはわかっているのに…助けられない自分が恥ずかしい」
「ふふ、ここでの仕事はわたしの将来に役立つと思います。それに最近はイザベラ様に色々と押し付けていますから。彼女が嫁いでもすぐに役立つ様にしておきますね?」
「な、なんで……違う。俺はイザベラとはそんな関係じゃない」
「はあー、もうどうでもいいです。この屋敷で、食事ももらえない、ずっと酷いことをされる、そんな覚悟をして嫁いできました。だけど思ったより酷い待遇はなかったし、イザベラ様も上手に付き合えば苦にならなくなったし。まぁ、蓋を開けてみたらお義母様とお義父様が碌でもないので驚きましたが」
わたしの言葉にビクッとしていた。
「知っているのか?」
「お義父様は未だにレテーシア様に夢中?お義母様は心を壊されている?それを見て見ぬ振りする子供達?最低ですよね?」
「ぐっ……どうすればいいのかわからないんだ。父上にとって愛する人はレテーシア様。母上はそんな二人に壊されてしまって……父上を諌めるだけの力は俺にはないんだ……」
「まあ、確かに。わたし達はまだ子供でしたもの。わたしも大人の恋愛のことはよくわからないから口では強く言ってしまいました」
「「どうしたらいいのか……」」
困った顔になってお互い目が合ってしまった。
「ごめんなさい、どうにか出来ていたらお義母様があんな風になっていないですよね?」
言い過ぎだとわたしも少し反省した。
これはわたしが口を出していい問題ではないのに。ついスティーブ様を責めてしまった。
わたしにはお母様がいないから、だから、守ってあげて欲しくて……
また二人静かに歩いた。
「ここだ」
エディ様の部屋に入ると
「エディ様?」
そっとベッドに近づくと、かなりの高熱だとわかるくらいぐったりしていた。
「セ…レン?」
とてもキツそうなのになんとか笑顔を作ろうとするエディ様。
「今日はエディ様を治すために来ました……たぶん熱がもっと上がってキツいと思いますが、それを乗り越えれば治ります。わたしの癒しの力ってカッコよく治せないのが辛いところなんですが絶対治りますので……」
わたしが言いにくく伝えると「セレン、ありがとう、お願い」と言った。
「うん、絶対治すからね」
わたしは肺のところに手を翳した。
「………っう」
少しずつ熱が上がってきてさっきよりもグッタリとしている。息も荒くなって苦しそう。
スティーブ様も本当は止めたいんだろうなと思いながらわたしはずっと魔力を込めた。
十分ほど、エディ様は苦しんだ。
「ぷっ、はあ」
エディ様がにっこりと微笑んだ。
「はああ、思った以上にキツかった。だけど助かったよ。僕かなり酷くてもしかしたら……と医者にも言われていたんだ。自分でも危ないかなって感じてた。どんなに薬を飲んでも悪化するだけだったし……」
「間に合ってよかったです。なんだか胸騒ぎがしたの……わたしの癒しの力って痛みが伴うから……自然に治るものは手を出さないようにしているの」
「ありがとう、だけど突然僕が治ったら医者は驚くだろうね」
「……大丈夫。ここのお医者様はみんなわたしの力をご存知だから……」
「え?そうなの?」
「うん、騎士様って酷い怪我をして再起不能になる方もいるでしょう?そういう人だけはわたしが治療しているの」
「そっかぁ、じゃあなぜ僕は早く治療しなかったの?」
「うん、病気の治療は……トラウマがあってあんまりしないの。怪我は平気なんだけどね」
「トラウマ?」
「うーん、ま、色々あるんだ」
わたしがこれ以上話したがらないからエディ様は聞いてこなかった。
わたしはお母様を助けられなかった。その頃わたしの癒しの魔法は簡単な病気や怪我しか治せなかった。
必死で治そうとしたけど……やはり治すことは出来なかった。
お父様もお兄様も責めることはなかった。
だってお母様はもう治療の施しようがないくらい悪くなっていたから。
でも、それでも、助けてあげたかった。
それからは………怪我は治しても病気は治さなかった。
だけどエディ様の体調がかなり悪いと聞き嫌な予感がしたのだった。
だから……久しぶりに頑張った。
あなたにおすすめの小説
【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む
浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。
「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」
一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。
傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語
沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―
柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。
最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。
しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。
カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。
離婚届の上に、涙が落ちる。
それでもシャルロッテは信じたい。
あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。
すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。
こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。
彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。
皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。
だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。
何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。
どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。
絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。
聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──……
※在り来りなご都合主義設定です
※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です
※つまりは行き当たりばったり
※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください
4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。