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番外編 シャーリー ③

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 わたしは結局何も持たずに屋敷を出ることにした。

 なのに門番は「お待ちください。ここを出るには許可証が必要です」と言って出してくれない。

「うるさいわね、執事が出て行っていいと言ったの!退いてちょうだい!」

「旦那様からの許可証をお見せください」

 門番は何があっても門を開けようとしない。

 わたしは門にしがみついて開けようとするも、門番に腕を掴まれて阻止された。

「わたしはこの屋敷を出て行くの!第五夫人のシャーリー様の言うことを聞きなさい!」

「はあ?第五夫人?そんなものはありませんよ?あなたは召使いのシャーリーでしょう?」

 馬鹿にするような笑いに、悔しさが募る。

「な、なんで召使いなの?」

「だって給金ももらえないタダ働きのシャーリーでしょう?」

「違うわよ」

 悔しくて腹が立って暴れてやりたくなる。

 みんなに愛されて暮らして来たのに、なんでこんなことになってるの?

 全て悪いのはお父様。そしてリオのせいよ!

 わたしは美しく、いつも周りにたくさんの人がいて、楽しい日々を過ごしてきた。
 好きなものを買って好きなことをして、好きな人と恋をして、わたしの一生は輝かしいものだった。

「さっさと部屋に戻って頼まれた仕事でもしないと今度から飯すら食べさせてもらえなくなるぞ」

「そうそう、第五夫人なんて嘘つかれてこの国にやって来た間抜けなシャーリー。今までは、まだまともな暮らしをさせてもらっていたんだろう?
 もうバレてしまったから旦那様もあんたに優しくすることはないと思うよ」

「どう言うこと?」

「今までも何人かアンタみたいな女がこの屋敷にやって来たが、みんな最後はこき使われて娼館に売られていくんだ」

「うそ、うそよ!そんなことウィリーがするはずがないわ!わたしのことを愛しているのよ!」

「もうそんな妄想はやめて現実を見た方がいいよ」

 門番達は気の毒そうな顔をする。
 わたしが可哀想?そんな女に見えるの?

「さあ、さっさと自分の部屋に帰りな。もうこの屋敷からは一歩も出られないんだ。出られる時は娼館に行く時だからね」

「退いて!わたしは出て行くわ!」

 門番の体に体当たりした。

「はあー、乱暴なことはしたくなかったが、すまないな」
 門番はそう言うとわたしのお腹に拳をあてた。

「ぐっ…」

 痛いっ!

 お腹が痛くて蹲った。あまりの痛みに耐えられなくて涙がでる。

「痛いだろう?もう諦めて屋敷に戻りな。もう一発なぐられる前に」

 わたしは痛みが少し治まってからよろよろと立ち上がった。

 もう今は部屋に戻るしかない。

 ライルに会おう。そして話してみよう。
 彼がわたしを売るなんてあり得ない。

 そうよ、執事の話を真に受けるなんて、間違っていたわ。

 仕方なく部屋に帰ろうと思い屋敷に戻ると

「お早いお帰りで、部屋はあちらですよ」

 執事が言ったのは、いつものわたしの部屋ではなく使用人達が住む北にある部屋の一つだった。

「わたしの部屋は?」

「あなたは一度出て行かれたのです。だからもうありません。この屋敷に置いて欲しければ北の部屋に住むことです」冷たい言葉。

「別にここに置いて欲しいわけではないわ。出て行こうとしたのに許可証がなければ出られないと言われたの。だからライルと話したいと思ったの」

「『旦那様』です。名前を呼び捨てにするなどあってはならないのです。召使いのあなたが」

「め、召使い?違うわ」

「ライルにあわ……「『旦那様』です!何度言ったらわかりますか?」

 ビシッ!

 執事が持っている鞭で手の甲を叩かれた。

「痛いわ!酷い!なんてことをするの?」

「教育です。召使いとしてこれからはきちんと教えて差し上げなければいけませんね。まずは言葉遣い。『旦那様』と言えるようになりましょう」

「ふざけないで!ライルに会わせて!」

 ビシッ!

「もう痛いじゃない!」

「『旦那様』です」

「だ、旦那様に会わせてちょうだい」

「召使いが会えるわけがないでしょう?」

「はああ?なに?せっかくライルのこと旦那様と呼んであげたのに!」

 ビシッ!

「もう痛いじゃない!」

 ーーーこんな生活望んでなかった!

 ちょっと失敗すればこうして鞭で叩かれる。

 部屋も狭いし薄暗くてちょっとカビ臭い。

 ベッドと簡素な棚があるだけ。

 これならリオと暮らしていた方がよっぽどマシだったわ。

 仕事なんてしたこともなかったのに、毎日山のような書類整理をさせられる。適当にすればまた鞭で打たれる。

 誰か助けてよ!

 ライルの姿はたまに屋敷で見るけど近くに行かせてもらえない。

 常に誰かの目があってそこから逃げることができない。

 ライルの第一夫人から第四夫人まではいつも華やかなドレスを着て楽しそうに暮らしているのに……

 わたしは簡素なワンピースを着て朝から晩まで書類と向き合うだけの日々。

 逃げることもできない。


 そんな時、知っている顔を見かけた。
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