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2章

第40話

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「……本当に魔力が多い…。水魔法の使い手と聞いているけれど、この魔力量ならば上位魔法は余裕では…。」


私をじっと見つめ、独り言を言い始めるエイファ様。ここは素直に聞いてみるべきでしょうね…。


「エイファ様。何故……」
「何故初対面の私が、へレアさんのことを知っているのか…ですか?」
「……その通りです…。」


私は宮廷魔法師の実力者という意味でエイファ様を知っている程度。あとは現ジェーテス侯爵家当主様の妹君ということくらいね。
けれどエイファ様は、私の名前以外にも何か知っているような雰囲気を出している。『聞いている』ということは、誰かから教えてもらったと考えるべきよね。


「実は、時々ゼルヴィーサ様がへレアさんのことを話されるのですよ。」
「ゼルヴィーサ様が…?」
「ええ。我々宮廷魔法師は、魔法研究も手伝っています。その際ゼルヴィーサ様とご一緒するのですが、友人であるへレアさんの話をよくされるのてす。」


何だか恥ずかしくなるわね…。あのゼルヴィーサ様が、私の話を?
魔法以外に基本的には興味を示さない人が…、……なるほどね。
私はゼルヴィーサ様と同じ水魔法の使い手というだけではなく、魔力量も多い。共通点があるのと、最上級魔法を使える可能性があるから興味を持たれているのかもしれない。
それに闇魔法も使えると知られてしまった。闇魔法の事は話さずとも、私自身のことを他者に話していても不思議はないわね。


「魔法関係以外に興味がないゼルヴィーサ様が…と、我々も驚いているのですよ。なので研究者の皆さん含め、我々宮廷魔法師も、へレアさんに一度会ってみたいと思っていたのです。」
「そうなのですね…。」


王国一の魔法使いが興味を持った人となれば、気になるのも当然でしょう。
とはいえ、宮廷魔法師が何故私に視線を向けるのか分かったわ。全てゼルヴィーサ様の所為なのね…。


「へレアさんは、最上級魔法を使えるのですか?」
「さすがに無理ですね…。エイファ様は使えるのですか?」
「残念ながら私も不可能です。一体どれ程の魔力を持っていれば使えるのでしょうか…。現状はゼルヴィーサ様以外使えないのですよ。」


エイファ様の言葉に少し驚いた。
宮廷魔法師の中にも最上級魔法が使える者はいると思っていたけれど、まさかゼルヴィーサ様だけだったなんて…。
私は確かに魔力量が多い。闇魔法はどれも魔力を消耗するものばかりが故に、生まれ持って魔力量が多くなるのは必然でしょう。
しかし最上級魔法は使ったことがない。使う機会も必要も無かったから試したことはないけれど、発動することが出来てもおかしくはないわね。


「宮廷魔法師の皆さんにとって、ゼルヴィーサ様はどのようなお方なのですか?」
「そうですね…。魔法以外に全く興味がなく、真面目ですが人付き合いが不器用な方……でしょうか。」
「はは…。分かる気がします。」


褒めているのか貶しているのか…。
とはいえ、エイファ様の言うゼルヴィーサ様の印象は私と同じね。
彼は思ったことをそのまま言ってしまうので、人付き合いがあまり上手いとは言えない。逆に言えば裏表がなく素直な人ということ。私は好感を持てると思うけれど、遠回しな言い方が多い貴族界では稀有な存在となっていた。


「しかし一番はやはり…、この国最強の存在であるということですね。1対1ならば、誰も彼に敵いませんよ。」
「その通りですね。」


私から見てもゼルヴィーサ様は異常な強さを持っている。今後彼が魔物討伐などで戦果を挙げた際には、《賢者》の2つ名が与えられる可能性もあるわね。


「ん……っ、…ここは…?」
「クレスディア殿下!お目覚めになられたのですね。私はへレアです。分かりますか?」
「…ああ、大丈夫だ。」
「私は宮廷魔法師のエイファ・ジェーテスです。ここは学園内にある王族専用の部屋になります。」
「殿下は寮へ向かう途中、倒れられたのです。」


目を覚ましたクレスディア殿下が、周囲を見渡しつつ起き上がる。
存外早かったわね。『専門の者』は宮廷魔法師ほどの実力者……なのかもしれない。連絡が陛下に伝わってから数時間程度で学園まで来られるのだから。

そして寮にてライラの部屋にあったブレスレットを破壊したのでしょう。道具を用いての『黒魔法』…改め『呪い』は、本人が術を解くか呪物とも呼ばれる呪いの道具を破壊することで解除される。
魅了魔法の道具より厄介なのは、呪物の破壊が難しいというところと、解呪を試みても術者本人でなければ解呪は不可能なことね。
クレスディア殿下が目覚めたということは、解呪に成功した何よりの証拠。しかしライラが解いたという可能性は確実にない。手元に呪物たるブレスレットがないのだから。ならば破壊出来たということでしょう。
通常の魔力を弾く黒魔法の呪物を、破壊可能な『専門の者』…。一度会ってみたいわね。


「……そういえば…、急に目の前が真っ暗になって……。あれは何だったんだ…?」
「殿下。事情は後ほどお話いたしますので、今は休まれてください。」


私を気にしてか、エイファ様はこの場で話さないことにした様子。普通は黒魔法を知っていないので、安易に話さないのは正しいことね。
ここで私が黒魔法を知っていると話すのは、彼らをより警戒させてしまうので得策ではない。それに私が知っているということを知られるのも面倒。


「私はもう大丈夫だ。だから……」
「いえ、再び倒れられてはいけないので、大人しく寝ていてください。」
「うっ…、分かった…。」


私はキッパリと殿下に言い放った。
解呪されたとはいえ、呪いによって体力が奪われているはず。今日一日は安静にしてもらうとしましょう。

殿下が目覚めてかなりほっとした。
今頃、ライラの方はどうなっているのかしら…。
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