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2章

第44話

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──2日後──

セルティラス伯爵家に、ライラ・セルティラスの有罪が確定となったと報告があった。
私達や教師陣の証言、そして何よりライラの部屋から見つかった魔道具の存在が、有罪とする決定的な証拠となったそう。

計画的ではあったものの、殺人の意思は無かったということが認められ、本来は即刻処刑されるところを終身刑に留まった。しかし魔道具とはいえ禁忌に触れ、魅了魔法をも使用した彼女に言い渡されたのは、ただの終身刑ではなかった。
『終身極刑』─魔力を抑え、魔法の使用を禁止する魔道具を付けられた上で、肉体労働をさせられる刑のこと。奴隷のように扱われ、食事もまともな物を与えられない。最悪死に至る可能性もあるわね。
はっきり言って、死んだ方がマシと考える者もいるほど過酷な刑。

ライラの所為でセルティラス伯爵家にも影響があるかと思われたけれど、お父様が光の魔力により強い魅了状態にあった為、非は無いと判断されたわ。
寮暮らしのライラから離れているにも関わらず、お父様は魅了状態にあった。おそらく光の魔力を相手に付与するという形で、魅了魔法のような効果を生み出していたのでしょう。その証拠に、伯爵家に戻った私がお父様を見ると、ライラの魔力が周囲に漂っていたのよね。
けれど昨日、王城から帰ったお父様は、ライラに出会う前の状態になっていた。光魔法の使い手はライラのみなので、相反する闇魔法を扱うことが出来る者が、王城にもいるのでしょう。私は魔法を使わなくて正解だったようね。

そしてライラはセルティラス伯爵家から除名され、平民に戻された。罪人という最低の地位まで成り下がったと言うべきかもしれない。


「へレア。」


伯爵家内を移動中に声をかけてきたのは、お母様だった。
学園に向かう前よりも、穏やかな様子に見えるわ。
ライラが伯爵家から去った事により、余裕が生まれた様子。何よりお父様が平常に戻り、お母様が気を張り巡らせる必要も無くなったことが、最も大きな理由でしょう。


「お母様。」
「……ありがとう。」


そう言って私を抱きしめるお母様。何もかも知っているようね…。
ライラの一件において私が暗躍していたことは、生徒会の4人しか知らないはず……なのだけれどね…。
流石はお母様といったところかしら。……いいえ、私のお母様だから、なのでしょうね。

場所を移動し、お母様の部屋へと移る。


「学園での一件について、貴女に関する情報は何もなかったわ。けれど私には分かる。貴女が深く関わっていると…。私が持てる手を尽くしても知ることが出来ないほどに、完璧に動いていた。そうでしょう?」
「……お母様には、隠し事は通じないような気がします。」


私は生徒会の4人と同様に、全てを話した。
お母様は驚くことなく、ただただ私の話を聞いていたわ。まるで推理した内容の答え合わせをしているかの表情で…。


「流石は私の子ね。いずれ知られてしまうならば、王太子殿下達に話すことも一つの手。へレアの判断は正しいと私は思うわ。それにゼルヴィーサ様……だからなのね………。」
「お母様?」
「いいえ、何でもないわ。」


ゼルヴィーサ様が…、何なのでしょうね。何か知っている様子だけれど、聞いても答えてはくれないと察した。


「貴女が動いたから、誰も何も失わずに済んだわ。本当にありがとう。……手伝ってあげられなくてごめんなさいね。」
「学園内での出来事だったのです。お母様を巻き込む訳にはいきませんよ。それにお母様は、伯爵家の維持に注力されていました。伯爵領が今も平和なのは、お母様あってのことです。」


お母様は優しく微笑む。
ライラの件がひと段落ついた今、お父様は元に戻り、お母様も仕事の量が減ったはず。学園が休校となったこの2週間を、家族でゆっくりと過ごすのも良いわよね…。

少しの談笑の後、お母様と別れ、昼過ぎから私は王城へと向かった。
王城の敷地内にある地下牢、その入口近くにてメリーア様と合流する。


「私はメリーア様と彼女の会話を、少し離れた位置から聞いているだけにします。」
「…それだけでいいの?」
「はい。会いたいとは、思いませんから…。」


正直、複雑な気持ちだったわ。
ライラが罪を犯したことは事実。けれど彼女の計画を壊し、人生を不幸の底に陥れたのは私。罪悪感が無いというわけではなかった。
今でも彼女への怒りはある、故に謝るつもりは毛頭ない。そもそも全ては自業自得なのだから…。

私はライラが学園で拘束されたあの時、二度と会わないと心に決めたわ。彼女と顔を合わせると、何か大切なものを奪われるような気がするのよね…。
それでも地下牢に来たのは、ライラの心境を知りたかったから。

兵に案内してもらい、地下牢を進んで行く。


「ここです。」
「案内ありがとうございます。」


兵が戻って行くのを見届け、メリーア様は牢へと向き直る。


「さて……。御機嫌よう、ライラさん。」
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