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<< 妹と親友への遺言 >> side 大志
40、異変
しおりを挟む「それでさ、アイツ、先生の家で肉じゃがと唐揚げを作って喜ばれたって言って……」
「桜子さん、すっかりアメリカの生活に馴染んでるじゃないですか。この勢いで向こうで結婚して永住しちゃうんじゃないですか?」
「縁起でもない!」と真剣に顔を青ざめさせた俺を見て、水口さんと冬馬が大笑いした。
桜子がボストンに語学留学して約半年。
最初の頃こそ言葉の壁や環境の変化に弱音を吐いていた桜子も、徐々に友達が出来、周囲に順応してそれなりに楽しく過ごせるようになったらしい。
その証拠に、最初はほぼ毎日、長時間だったFaceTimeが電話や短いメールのやり取りだけになり、その回数も徐々に減って来ていたから。
それでも毎日メールでの近況報告はしてくれてるし、今朝みたいにたまにこちらの早朝に合わせてFaceTime をしてくるから、俺のことを大事に想ってくれているのには変わりない。
俺たちの事務所も顧客が増え、安定かつ右肩上がりの数字は上昇気流に乗っていると言ってもいい経営状況だった。
事務員が水口さんだけでは手一杯という感じで、本当ならもう1人雇いたいところだけど、あと半年もしたら桜子が帰って来る。
それまでは、俺と冬馬が自分で出来る事務処理は自分でする事にして、どうにか3人で 凌いでいこうと話し合った。
ーー桜子、お前の戻ってくる場所を確保して待ってるからな。あと半年、そっちでいろんな事を吸収して、いい女に磨きをかけて帰って来い!
俺たちの夢はもう目前だ!
そんな風に胸を躍らせて、残り半年を過ごすものだと思っていた。
桜子が22歳、俺が30歳の秋だった。
「大志、お前ちゃんと食べてるか?」
それは木の葉が徐々に色づき始めた9月末のこと。
外での仕事を終えて事務所に戻って来た俺を見て、冬馬が開口一番にそんな事を言い出した。
「お前、随分痩せたよな。無理しすぎなんじゃないか? ちゃんと寝てるのか?」
「私もそれを思ってたんですよ。夏の終わり頃から急に痩せて来たなって。事務所が大きくなっても八神先生が倒れちゃったら意味ないですからね。身体を大事にして下さいよ」
最近痩せたというのは自分でも気付いていた。スーツのスラックスが緩くてベルトで誤魔化しているから、スーツを新調しようと考えていたところだ。
言われてみれば、最近身体が疲れやすいし、食欲も落ちてきている気がする。
「う~ん、夏バテしたのかな。最近胃もたれもするし、今度検診でも受けてみるかな。冬馬、お前も検診を受けろよ」
「そのうちな。俺、前の事務所で検診を受けさせられてさ。バリウムを飲むのが苦手なんだよ」
「俺だって苦手だよ。やっぱ胃カメラかな」
そんな風に笑いながら話していた1週間後、軽い気持ちで受けた胃カメラの生検で、俺の人生は大きく変わった。
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