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97.解呪のあと

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 何日かして解呪が終わった呪い付き達が一斉にやってきた。
 イーヴォ以外は何となくしかわからない。知らない人達の集団が、知り合いの振りしてるみたいで脳がバグるというか、そんな感じ。そう、とにかく頭がおかしくなった気がしてしまう。

 みんなが親し気に話してくるのがまた、居心地の悪さを助長する。ヘルマンが困った顔して迷惑か聞いてきたので、思い切って話すことにした。

「今の姿だと私は初めましてでしょ? 前に会ったときはマダラだったから。なんだか、知らない人が集団で知ってる人の振りして、私を騙してるんじゃないか、って気分になるの」

 うまく説明できない。

「知らない人なのに知ってて、でも知らない人で、頭が混乱して、自分の頭がおかしくなったような気もする。……例えば先生がね、『ダニエル、久しぶり~元気だった? え、私?ミリだって~』て言ったらさ、どお?」
「……混乱する。騙されてるのか、俺、何見てるんだろうって思うよ」
「そんな感じなの」
「あー、まあ、そうなるよな。初めましてで話した方が良かったな」
「うん、ごめんね。拒否してるわけじゃなくて混乱してるの」

 少しは説明できて良かった。

「ねえ先生、『え、私?ミリだって~』って言ってみて」
「……言うわけないだろう」
「私の混乱が分かりやすくなると思ったんだけど」
「もう十分伝わってる」

 ムスッとした先生と話してたらヘルマンに聞かれた。

「あの、先生とミリが結婚予定と聞いたんですが、本当ですか?」
「そうだよ」
「本当だ。私の妻に触れるなよ」
「ミリ、俺の主、俺、求婚したよな? 俺のこと忘れないでくれよ」
「……イーヴォ、うん、覚えてるよ。3ヶ月考えて。首輪も外すよ。今までありがとうね」
「なんで、そんなふうに言うんだよ。止めてくれよ。俺が悪ぃの分かったんだ。考えるくらいしてくれ、お願いだ、ミリ」

 知らない顔したイーヴォが悲しそうに言う。
 赤茶の髪はチリチリ系の天パで、目はグリグリと大きくて、先生と同じような琥珀色。目玉ちゃんて愛称がそのまま使えそう。
 なんだかよくわからない気持ちでイーヴォと見つめ合ってたら、他の人に腕を握られた。

「俺とも結婚してよ、ミリ。俺だって求婚してただろ? 先生と結婚するんだし、俺が増えたって問題ないよな、お嬢さん」
「えー僕だって求婚したのに。僕は最初から何人夫がいても良いって言ってたんだからね。僕とも結婚してよ」
「俺も。何人でも良い」

 ダニエルとマルクとトビアスも主張を始めた。

「ええ……、考え変わってないの?」
「解呪くらいで変わんないよ。ミリは僕たちのことそんなに軽薄だと思ってるの?」
「……ごめんね、よく分らない。どちらかというと自分に自信がないせい」
「ミリ、俺のお嬢さん、こんなに可愛いのに泣かないでくれよ」

 俯いた私の頬をダニエルに掬い上げられて目が合う。
 レーテと同じくらい美人で金髪碧眼のキラキラしい良い男が優しい顔で笑ってた。目がチカチカしちゃう。誰、この人。
 横から私を覗き込んで来た、金髪巻き毛で濃い青目のギムナジウム少女漫画の美少年風な人が喋り出す。

「僕は怒ってないよ。もっとちゃんと見てほしいんだよ、ミリ。僕と美味しいもの食べに行く約束したでしょ?」
「したっけ?」
「したでしょ! もー、ミリは」

 マルクはプリプリしても可愛いな。こりゃあ、自分でも可愛いって言うはずだわ。

「俺とダンスするって」
「言ったっけ?」
「言った」
「騙してない?」
「してない」

 私の手を握って、マルクの反対側から覗き込むトビアスは琥珀色サラサラヘアーに緑の目で凛々しい顔つき。しかもがっしり体系。呪い付きのときは柔らかい皮膚だったから、体格の良い人だったけど、戻ったら筋肉質だわ。

 ホント、変な感じ。誰だろう、この人達。

「私の妻へ勝手に求婚するな」

 先生が後ろから私を抱きしめて、3人の輪の中から私を引き摺り出した。

「先生、求婚に許可はいらないし、まだ結婚してないだろ。邪魔しないでくれよ」

 ダニエルと先生が言い合ってるのをぼんやりと眺める、私の所にヘルマンがやってきた。ヘルマンは四角い顔して、髪も小さい目も焦げ茶色でわかりやすい。

「ミリ、僕とも結婚してください」
「え、……えーと、なんででしょう?」
「僕もずっと一緒にいたいです。……主でいたらずっと一緒にいられると思ってたんですけど、もう違うので。僕もたくさんのうちの1人でいいです」
「え、あ、あ、えーと、……考えさせてください」
「えーなんでー、なんで、ヘルマンは考えて僕のことは考えないの?」
「あ、え、えー、えーと、……皆さまのこと考えさせてください」
「いつまで考えるの?」
「……えー、元に戻ったことですし、3ヶ月ほど間を置きたいと思います。私にも考える時間をいただきたいので、3か月後に気が変らなければ、またお話しください」
「僕は変わらないよ。求婚を受けてくれるまで毎日、会いにくるね」

 マルクは相変わらずマルクだな。清々しいほどのマルクっぷり。

「……マルク、それはちょっと迷惑かな」
「ちょっとくらいの迷惑ならいいよね」
「良くないよ」
「毎日きていいんだよね?」
「良くありません。一切、会わずに以前の生活に戻ってじっくり考えてください」
「なにそれ。それくらいで僕が変わると思うの?」
「私にも時間が必要なの。わかるよね?」
「もーわかったよ。仕方ないなー、僕が妥協するよ」
「皆様もよろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げて、これで一先ず話は終わったかなと思ったら、今度はハンスが目の前にきた。薄茶の巻き毛はそのままなのに、灰色の目と色白の肌が別人だ。

「ミリ、3ヶ月会えないのはわかったから、その前に一度だけ一緒に出掛けない?  俺たち、解呪が終わって休みもらったから、朝からゆっくり森を散歩しない? 解呪のあいだずっと会いたかったのに、ゆっくりできないまま3ヶ月会えないのは辛いんだ」
「そうだな。会えなくなる前に少しは俺達のこと見慣れておいてよ。お嬢さんに忘れられたくないんだ」
「……うん、わかった」
「私も行く」
「先生はどこでも付いてくるね」
「私の妻と一緒に行動するのは当然だ」
「まだ結婚してないでしょー。先生ってせっかちで面倒だよね。ミリ、僕のほうがのんびりできるから僕にしたら?」
「……私の妻だ」

 マルクが余計なこと言うから、先生が私の腰を抱いて離れなくなってしまった。
 皆で森に散歩に行く約束をはっきり決めたあと、ガヤガヤと揉めながら考えてと手を握られたりして、皆様は帰って行った。
 イーヴォは残り。首輪のことで話があると言われればそうなってしまう。

「先生、ミリと2人にしてくれよ」
「なぜだ?」
「奴隷と主なんだから問題ねぇだろ。ミリ、頼むよ」
「うん、良いかな?」

 先生は渋々と2階へ移動する。私は緊張しながら、真剣な顔したイーヴォと向き合った。


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