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しおりを挟む知らない間に私の目前に黒いフードを深くかぶった人間が立っていた。ひっと思わず悲鳴が出そうになったときにフードを取ったその顔は王妃……
「私よ。大きな声は出さないで」
顰めた声でそう言った。いったいどうやって入ってきたのか。扉前には我が国の護衛達が立っているはず。
「びっくりさせてごめんなさい。あなたと本音の話がしたいけれど昼間は侍女や侍従の耳目があるから」
「ど…どこから入ってきたのですか」
「話すと長いから座ってもいいかしら」
「…どうぞ」
そう言うと、王妃は着替えに使う小さいスツールに腰を掛けた。
「私は東の国の生まれなの」
「存じてます」
「険しい山脈に阻まれて、あまり東の国について知られてないけれど、もう滅んでしまった東の国の王族は幻術使いの才能が受け継がれているの。私はあまり出来が良くなくて、短い場面、短い時間しか使えないけれど、私の寝室に私が寝ているように惑わして、この部屋の扉を開けて入っても、護衛には空いてないように見せるぐらいはできるの。これはもういなくなった私の家族以外誰もしらないこと」
「そんな秘密を私に教えてもいいのですか?」
「そうね。あなたと私は被害者同盟だから」
被害者同盟たしかに……
「まずは謝ります。私の息子が大変失礼なことをしています」
確かに失礼だが、それは言ってもいいものか。と思ったら王妃がくすりを笑った。
「いいのよ。思った通り言って。ここでは弱小国の王女と後ろ盾も何も無い力の無い王妃がいるだけだから」
はっきり言うなー
「では、失礼通り過ぎているので、婚約はさっさと解消して下さい」
「あなたの国では、テオバルトが先祖返りであるとつかんでいるの?」
「申込を頂いたときにはわかりませんでしたが、後々されてることがひどいので調べましたら……」
「そうよね。婚約者に対する態度ではないわよね」
そうそう、そう思うならさっさと……
「でも、私には婚約をどうこうする権力がないのよ」
やっぱり……
「私がテオバルトを生んだ後、彼を育てたのは乳母と侍従なの。今の私は離宮に住んでいて、今日のような公務の時だけよばれる存在なのよ」
やっぱり……
「あの、それでよかったのですか。いくら亡国の王女だと言ってもあなたは母親ですよね」
「もちろん、抵抗したわ。乳母はしかたないけれど子供は手元に置きたいと。国王は聞く耳持たなかったけれど」
怖い!私もそうなるの?それじゃ王妃は子供を産むだけの存在なの!ひどすぎる。
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