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二章

5、休み時間に

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 わたくしは意を決して、先生の膝にまたがりました。

 足を大きく開くなんて、せいぜい乗馬の時くらいです。まだうちが裕福だったころは、馬に乗せてもらったことがありますが。
 あの時は、ちゃんと乗馬服を身に着けていました。

「いい子だ」

 先生がわたくしの唇に指を触れます。
 そのままくちづけを交わされました。

 その時、ふと懐かしい香りが鼻をかすめました。
 微かな、檸檬れもんと……薄荷はっかでしょうか。知っている香りなのに、どこでかいだことがあるのか思い出せません。

 わたくしの袴の布地と先生のズボンの布地を通して、ひきしまった太腿の筋肉の感触が伝わってきます。
 
 徐々に深くなっていくくちづけ。先生の舌に口腔を弄ばれている感覚に、頭がくらくらします。

 もう香りのことは、考えられなくなりました。

「だんな……さま」
「ここは学校だよ。笠井さん」
「翠子と呼んでください」

 笠井さんなどと呼ばれると、ここが学校であるという現実に引き戻されてしまいます。
 薄暗い部屋で、先生が微笑んだのが分かりました。馬鹿にするでもない、嘲笑うでもない、優し気な笑みです。

「困った人だな。翠子さんは」

 ねっとりとした動きで、先生の舌がわたくしの舌にからみつきます。
 つたないながらも、それに応じると、先生は少し驚いたようでした。
 一度唇を離して、わたくしを見つめます。

「君は教え甲斐がある。数学だけを指導していたのでは、分からなかったな」
「旦那さま……」

 わたくしの黒髪をかきあげて、旦那さまの手が首に添えられます。

「や……、だめです。着物が乱れてしまいます」
「痕はつけない、着物も崩さない」

 そう仰ると、わたくしの首筋に唇を触れました。
 壁とドアを隔てた廊下から、楽しそうに話す生徒たちの声が聞こえます。
 ここは学校なのに、まだ放課後にもなっていないのに。わたくしは先生の膝にまたがり、くちづけられて感じています。

 なんて恥ずかしいことなのでしょう。罪深いのでしょう。
 分かっているのに、先生……旦那さまのキスをはねつけることができません。

 拒否する権利がないから? 本当にそれだけでしょうか。

「さっきは済まなかった。あなたが教室で『旦那さま』と言いそうだったから、つい『団子』などと茶化してしまった。皆の前でひどいことを言ったと思う」
「そんな。つい口走ってしまったのはわたくしです」

「いや、そんな簡単に切り替えられるわけがないのにな」
「先生。わたくし気を付けますから」

 先生の頬に手を伸ばし「安心してください」と、わたくしは微笑みました。
 ふいに、ぐいっと体が引き寄せられて、強く抱きしめられます。

「このまま離したくない」

 先生が、わたくしの耳元で囁きます。
 ああ、わたくしは高瀬先生のことを大事に思い始めたのかもしれません。いかめしい先生の笑顔を、もっと見たいと思っているのかもしれません。

 あまりにも先生が接吻を繰り返すから、わたくしは唇が少しはれぼったい心地がしました。
 指先で唇に触れていると、先生が目を細めます。

「そうだな。唇がはれていたら、教室に戻った時にばれるかもしれないな」
「ええ。ですから、もう」

 膝から降ろしてもらえると思ったのに、先生はわたくしの袴をたくしあげました。
 突然のことに悲鳴を上げようとすると、大きな手で口をふさがれました。
 そのまま担ぎ上げられて、さっきまで先生が腰を下ろしていたソファに降ろされます。

「先生、なにを?」

 手で押さえつけられたままなので、わたくしの声はくぐもっています。

「ここは学校だからな。節度は守ろう」

 そう言いながらも、わたくしの膝にキスをなさいました。
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