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十一章
9、猫が好き【2】
「ところで翠子さんは、なぜそんなに焦っているんだ? 猫は犬とは違うから、放っておいても静かに寝ているだろ?」
かつて猫を飼っていたことがあるから、俺でも分かる。
だが、その問いかけに翠子さんは目を丸くした。
「あら。だって、旦那さまは猫がお好きなんでしょう?」
「好きだぞ。向こうが俺を嫌うだけだ」
まぁ、あれは愛情を押し付けすぎたのだが。預かっているエリスはどうだろうな。三條組の組員はことごとく嫌われていたが。正直、俺も自信はない。
「エリスはきっと平気です。いい子ですもの。ですから、旦那さまに早く会わせてあげたいんです。わたくし、旦那さまの笑顔が見たいんです……」
翠子さんは、はっとした様子で手で口を押えた。
どうやら、俺に対して怒っていたのを思い出したみたいだ。
それにしても、俺の為に気が急いていたのか。まったく、帰り道で散々意地悪したというのにな。
どうしてそう、まっすぐに好きでいてくれるんだ?
果報者かよ、俺。
◇◇◇
夏みかんのゼリーは、いつ食べても美味しいですね。
旦那さまは集中して食べなさいと仰るけれど、平気なんですよ。
気もそぞろでも、ちゃんと味わっていますもの。
爽やかな柑橘の香りに仄かな苦味。でも甘酸っぱくて口中でとろけるんです。お清さんのお菓子の見立ては、いつも抜群です。
ゼリーを食べ終えたわたくしは、お皿を洗い、旦那さまの手を引いて部屋へと向かいました。
急いで、急いで。
早く旦那さまをエリスに会わせてさしあげなくちゃ。
すると、ふいに旦那さまが廊下で立ち止まりました。
どうなさったのかしら? と振り返ると、わたくしの体が壁に押しつけられます。
そのまま屈みこんだ旦那さまが、接吻なさいました。
「……甘い」
「旦那さま?」
「いや、さすがにエリスの前でいちゃいちゃしたら、嫉妬されるかもしれないだろ。だから」
「え、でも。旦那さまは猫がお好きなんですよね?」
「ああ、好きだよ」
「だったら……んっ……」
わたくしの問いかけは、再びくちづけで塞がれました。甘いと文句を仰っているのに、口腔内に旦那さまの舌が入ってきます。
壁に肩を押し付けられて、身動きが取れません。ただ舌を絡められて、貪るようなくちづけを受け続けるだけです。
さっきお庭で採った猫じゃらしが、わたくしの頬をかすめます。
わざとなのか、それとも偶然なのか分かりませんけれど。口中を舌で、頬を猫じゃらしの草で撫でられて、わたくしは旦那さまの腕にしがみつきました。
まるで体の中と外、両方から触れられているようで。
背筋にぞわりとした感覚が走ります。
それを聡い旦那さまが、見逃すはずがありません。
柔らかいのに少し痛い猫じゃらしで、喉元を撫でられます。
しかも舌は奥深くまで侵入してきて。
立っているのもつらい状態のわたくしの腰を、旦那さまが支えました。
だめです……これからエリスと遊ぶんです。
そう言いたいのに、わたくしの口から出てくるのは、熱っぽい喘ぎ声だけでした。
「翠子さんが疲れてもいけないから。この辺でやめておこう」
耳元で囁かれ、ようやく解放されました。
わたくしは壁にもたれて、肩で息をしています。
「歩ける? 翠子さん」
「……歩き、ます」
「なら、よかった」と旦那さまは、猫じゃらしをゆらゆらと揺らしながら、お部屋へと入っていきます。
もうっ。なんて憎らしい方。
かつて猫を飼っていたことがあるから、俺でも分かる。
だが、その問いかけに翠子さんは目を丸くした。
「あら。だって、旦那さまは猫がお好きなんでしょう?」
「好きだぞ。向こうが俺を嫌うだけだ」
まぁ、あれは愛情を押し付けすぎたのだが。預かっているエリスはどうだろうな。三條組の組員はことごとく嫌われていたが。正直、俺も自信はない。
「エリスはきっと平気です。いい子ですもの。ですから、旦那さまに早く会わせてあげたいんです。わたくし、旦那さまの笑顔が見たいんです……」
翠子さんは、はっとした様子で手で口を押えた。
どうやら、俺に対して怒っていたのを思い出したみたいだ。
それにしても、俺の為に気が急いていたのか。まったく、帰り道で散々意地悪したというのにな。
どうしてそう、まっすぐに好きでいてくれるんだ?
果報者かよ、俺。
◇◇◇
夏みかんのゼリーは、いつ食べても美味しいですね。
旦那さまは集中して食べなさいと仰るけれど、平気なんですよ。
気もそぞろでも、ちゃんと味わっていますもの。
爽やかな柑橘の香りに仄かな苦味。でも甘酸っぱくて口中でとろけるんです。お清さんのお菓子の見立ては、いつも抜群です。
ゼリーを食べ終えたわたくしは、お皿を洗い、旦那さまの手を引いて部屋へと向かいました。
急いで、急いで。
早く旦那さまをエリスに会わせてさしあげなくちゃ。
すると、ふいに旦那さまが廊下で立ち止まりました。
どうなさったのかしら? と振り返ると、わたくしの体が壁に押しつけられます。
そのまま屈みこんだ旦那さまが、接吻なさいました。
「……甘い」
「旦那さま?」
「いや、さすがにエリスの前でいちゃいちゃしたら、嫉妬されるかもしれないだろ。だから」
「え、でも。旦那さまは猫がお好きなんですよね?」
「ああ、好きだよ」
「だったら……んっ……」
わたくしの問いかけは、再びくちづけで塞がれました。甘いと文句を仰っているのに、口腔内に旦那さまの舌が入ってきます。
壁に肩を押し付けられて、身動きが取れません。ただ舌を絡められて、貪るようなくちづけを受け続けるだけです。
さっきお庭で採った猫じゃらしが、わたくしの頬をかすめます。
わざとなのか、それとも偶然なのか分かりませんけれど。口中を舌で、頬を猫じゃらしの草で撫でられて、わたくしは旦那さまの腕にしがみつきました。
まるで体の中と外、両方から触れられているようで。
背筋にぞわりとした感覚が走ります。
それを聡い旦那さまが、見逃すはずがありません。
柔らかいのに少し痛い猫じゃらしで、喉元を撫でられます。
しかも舌は奥深くまで侵入してきて。
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だめです……これからエリスと遊ぶんです。
そう言いたいのに、わたくしの口から出てくるのは、熱っぽい喘ぎ声だけでした。
「翠子さんが疲れてもいけないから。この辺でやめておこう」
耳元で囁かれ、ようやく解放されました。
わたくしは壁にもたれて、肩で息をしています。
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