泣き虫龍神様

一花みえる

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雪時雨【2月短編】

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「いてっ」
「みっ!?」
    朝ごはんが終わって食器を洗っていると、指にピリリと痛みが走った。手を拭いてみるとぱっくりと傷が出来ていた。どこかで切った記憶はない。どうやらこれは手の乾燥が原因のようだ。その証拠に手のひらがカサカサになっている。
    確かに最近寒いし、面倒でお湯ではなく冷水で洗い物をしていた。そのせいで俺の指は切れてしまったのだ。
「みぃー……りょーた、いたい?」
「ちょっとだけな」
「あわわわわ」
    切れたといってもほんの少しだし、放っておけばいいだろう。そう思っていたが。
「おくしゅりぬる!    こっちきて!」
「うわわ」
    なぜか、おみが大慌てで俺を引きずっていく。何をそんなに急いでいるんだろうか。じたばたしながら薬箱を引きずり、中身をひっくり返して傷薬を探している。
     ふにゃふにゃ言いながらようやく見つけた軟膏を取り出し、俺の指に塗り始めた。
「いたいのいたいの、とんでけー」
「大丈夫だって」
「んにゅにゅ」
     正直、これくらいの傷は傷のうちに入らない。なのに、おみは血相を変えて治療を始めた。
「ありがとな、おみ」
「いたいの、いやだもんね」
「まあ、そうだな」
     言われてみればこの傷は確かに小さい。でも利き手の人差し指だから何かする時は必ず物に触れる。じわじわと襲ってくる痛みは確実にストレスになるだろう。
    それを知っていたのだろうか。だから、おみはここまで必死になって治療しているんだろうか。
「りょーた、おててかさかさ」
「本当だ」
「むー」
     傷薬のあとに、今度はハンドクリームも塗ってくれる。小さくてぷくぷくの手は俺よりも体温が高くて心地が良い。
    気持ちいいなぁ。たまにこうやって世話してもらうとなんだか癒される。
「あー、気持ちいい」
「ほんと?」
「うん。癒される」
「ほほー」
    じんわりとおみの体温が伝わってきて、俺の手もほかほかしてくる。なんだか眠たくなってきた。また朝だというのに。このまま昼寝をしてしまいたい。
    今日はこのまま、おみを抱っこして日向ぼっこをしようかな。カサカサだった手も少しマシになってきたし。これならおみのことを撫でても問題ないだろう。
「またぬりぬりするね」
「うん、ありがとう」
「みぃ」
    甘えるように手をぎゅうと握りしめられた。俺も同じように握り返す。その日は夜まで俺の手はずっとぽかぽかだった。
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