勇者の料理番

うりぼう

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魔獣唐揚げとチキン南蛮

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討伐に出て早一週間が経った。

その間倒した魔獣は初日の奴らとそれよりも小さいのを何体かのみ。
小さいといっても大きさは象くらい。
前回倒した魔獣はそれよりも二回り以上は大きい。

ちなみに魔獣の肉を食べるのはまだ叶っていない。
小さい魔獣はどうやら身体が小さい分毒袋の範囲が広く、取り除くのも困難で食用には向かないらしい。
小さいのは子供なのかな。
子供でも大人でも毒袋の大きさは変わらないんだと、たまが説明してくれた。

だがしかし。
そうだがしかし!

(やっとこのチャンスが巡ってきたー!!!)

視界に入る所にいるのは大きな鳥型の魔獣。
嘴が鋭く、足の爪は人を二、三人余裕で掴めるくらい大きく、鉤状のそれは同じく鋭い。
刺されたら絶対痛い。
痛いどころじゃなく死ぬの確実だけど。

顔はハゲワシみたいな感じで、なんだろう、何かに似てる。
あれだ、前に映画で見たキングコングに出てきたトカゲの顔に似てる。
毛は首の辺りからまだらに生え始めている。
羽根は真っ黒で、それを広げた風圧だけでこちらが飛ばされてしまいそうだ。
羽根もひとつひとつが矢のように鋭く、それを投げたり口から何か変な液体を撒き散らかして攻撃をしてくる。
変な液体を被ると身体が麻痺して動けなくなるようだ。

「太陽!鶏肉だよ鶏肉!」
「鳥は鳥だけど、あれどう見ても美味そうじゃないんだけど」
「食べてみないとわかんないじゃん」

鳥型の魔獣を遠巻きに見ながらテンション上がる俺に嫌そうな顔をする太陽。

魔獣は今一匹のみ。
飛んで逃げる恐れがあるから魔獣を囲うようにドーム状に結界が張られている。
魔獣はそれに気付いていないようだ。
周囲にはこの魔獣を見つけた先遣隊が他の魔獣が来るのを警戒している。
倒すなら今が絶好のチャンスだ。

「ちゃんと身体に肉付いてるし、鳥だもん食べれる食べれる!どうせ顔なんて食べないし」
「ウェイン、あれっていけるやつ?」
「この前の魔獣よりは受け入れやすいかな」

初っ端から猪だが狼だかわからない、おまけに毒を持ってるやつよりも鳥に似た魔獣の方が確かにハードルは低い。
もしダメだったらダメでちゃんと他の料理も準備するのだからここは文句を言わずに狩っていただきたい。

「あれを倒したら今晩は唐揚げだよ!あとチキン南蛮!」
「唐揚げ……!チキン南蛮……!」

途端に輝く太陽の目。
現金だなあ、人の事言えないけど。

「我も食べたい。早く倒して来い」
「……なんっかそう命令されるとむかつくなあ」
「お主も食べたいんだろう?」
「食べたいけど!」
「じゃあよろしく!」
「……しょうがねえなあ」
「一撃でね!じゃなくても良いけど、なるべくストレス与えちゃダメだよ!」
「わかってるって」

ぐるっと頭を回し、両手を上に挙げて伸びる太陽。

「じゃあ行ってきますか」
「行ってらっしゃい!」

太陽を見送り、早速夕飯の仕込みに取り掛かる。
といっても肉はこれからだから、先にタルタルソースと味噌汁、それに米と副菜の準備しようかな。

タルタルソースは簡単だ。
茹で卵と玉ねぎとピクルスをマヨネーズ、塩コショウ、酢、砂糖で味付けして混ぜるだけ。
チキン南蛮の漬け汁も作らないとな。
漬け汁は酢と醤油と砂糖を混ぜて軽く火にかけるだけ。

次はサラダ。
ポテトサラダ……はマヨネーズがかぶるから、トマトとレタス切って適当に和えるか。
サラダこれだけじゃ足りないよな。
もう一品何か欲しい。
塩だれキャベツにしよう。
腹も膨れるし量も簡単に作れる。

次は味噌汁だけどどうしようかな、具沢山味噌汁にするか。
白菜と茄子、ネギ、ニンジン、大根にするか。
さーて、あとは太陽が戻ってくるのを待つだけだ。

作っている間に物凄い音が魔獣の方から響いている。
うわあ、すっごい鳴き声。
地響きもすごい。

早く来ないかなあ。
楽しみだなあ。

「しかし、お主も物好きだな」
「何が?」
「魔獣の肉を食べたいと言い出すとは思わなかったぞ」
「物好きだけどおかしくはないでしょ?たまも食べたいって言ったじゃん」
「お主が料理したものならな」

いつものようにたまが人の髪を弄る。
好きだよなあ、髪の毛触るの。
これも力を補充するためのものだと思うのでしたいようにさせてる。
難点は髪の毛と頭触られてると眠くなるところだ。
料理の真っ最中に寝る訳にはいかない。
でも気持ち良い。
頭触られると何でこんなに気持ち良いんだろ。

「……あ」

向こうの方から野太い歓声が聞こえる。
どうやら太陽は無事に魔獣を倒したらしい。
という事は肉がくるのもすぐだな。
既にウェイン王子から肉を解体するように指令が出てるから、ちゃんとお肉の形で持って来てくれるに違いない。

「朝日様、こちらでよろしいでしょうか?」
「!お肉ー!」

それからすぐに騎士団の人達が運んできてくれた肉。
よろしいでしょうか、なんてそんな丁寧にしなくても良いのに。
受け取ったのはちゃんとした肉だ。
良くスーパーで売られているような肉のもっともっと大きい塊バージョン。

「ありがとうございます、助かります!」
「い、いえ、あの……」
「はい?」
「……本当にこれを食べるんですか?」
「もちろんです」

立派なもも肉だ。
見た目的には普通の鶏よりも少し油が少ないけど問題ない。

「朝日ー、腹減った」
「はいはい、すぐ準備するよ」

受け取った肉を早速一口大に切って塩コショウをする。
次に大きい袋を用意して中に肉と醤油、酒、すりおろした生姜とにんにく、それにゴマ油を垂らして揉み込む。
最低でも20分は置いておきたいけど時間がないからここで魔法を使って時間を短縮。

大きな鍋に油をたっぷり入れて温め、良い感じの温度になったらそこに片栗粉をまぶした肉を投入。
じゅわじゅわと良い音がしている。
少しずつ火が通り、きつね色に変わっていく肉ににんまりと笑みを浮かべる。

「美味しそう!熱々の唐揚げって正義だよね」
「ひとつ食べたい」
「ひとつだけだよ?」
「残りは後の楽しみにちゃんと待ってるって」
「じゃあどうぞ。熱いから気を付けてよ?」
「わーかってるって」

二度揚げしたばかりの唐揚げをひとつ太陽に差し出す。

「あっつ、あつっ、ん、うまー!サクッとジューシー!」
「良い感じ?」
「最高!」
「良かった、じゃあ出来上がったものからじゃんじゃん皆さん食べて下さいねー!」

大皿にぼんぼんと揚げたての唐揚げを乗っけていく。
味噌汁、ご飯、サラダもセルフサービスである。
最初は一人前ずつ盛ってたんだけど、うん、正直面倒だったよね。

次はチキン南蛮。
揚げた唐揚げを漬け汁に浸して、タルタルソースをかけるだけ。

(うーん、見た目からして最高!)

早く俺も食べたい。
そのまま食べても良いんだけど、俺はこれが好きなんだよね。
大き目の丼にご飯を盛り、その上にチキン南蛮を乗せていく。

「あ!朝日何それ」
「チキン南蛮丼だけど?」
「一人だけずるい!」
「太陽もすれば良いじゃん、ご飯に乗っけるだけなんだから」
「あ、そっか。ていうか魔獣の肉なんてどうかと思ったけどめちゃくちゃ美味いな!」
「確かに、初めて食べたけど凄く美味しい。朝日の作り方が良いのかな?」
「普通の鶏肉と変わらない処理しかしてませんよ?」
「そうなの?それなのにこんなに美味しいんだ」
「うむ、良い味だ」

丼を食べつつ次々と肉を揚げていく。
最初はおっかなびっくり、誰か先に食えよという雰囲気を醸し出していた騎士達だったが、太陽達が美味しそうに食べているのを見て次々と唐揚げを頬張っていった。

「!!!う、美味い!」
「これがあの魔獣なのか!?」
「こんなに美味いものだったなんて……!」
「最高!こっちのソースかかってるのも美味いぞ!」

一口食べた途端にガツガツと食べ始める皆。
あっという間に山盛りだった唐揚げがなくなっていく。

良い食べっぷりだ。
だがまだまだ足りない様子。
空になりつつある皿を見て残念そうに眉を下げる大人が何だか可愛い。

「まだまだありますからね!」

そう言いながらもう第何弾目かの唐揚げを盛っていく。
これもあっという間になくなるんだろうな。

「たまも自分の分とっとかないと食いっぱぐれちゃうよ」
「残り物には福があるんじゃないのか?」
「今回は多分残らないから早い者勝ち!ほらほら!」

残り少ない唐揚げをたまの茶碗にぽんぽん入れ、俺も自分の分を確保して丼を掻き込んだ。


それから程なくして、再び魔獣の襲撃を受けたのだが。

「肉!」
「肉だー!」
「腹ごなしにちょうどいいぜ!」
「いくぞ野郎どもー!!!」

キュピーンと目を輝かせた騎士団の人達が我先にといつも以上に嬉々として魔獣へと突っ込んでいってる。
もちろん太陽も同じ。

いつも以上に騎士団の皆の動きが機敏だったのは気のせいだろうか。
魔獣を食べられると知ったから完全に狩人みたいな目になってるような……
やっぱり食べ物が絡むといつも以上の力が出るものなんだろうか。

……まあいっか。
美味しいご飯が食べられるのなら何の問題もない。

(次の鳥料理は何にしようかなあ)

これから大量に確保されるだろう鶏肉もとい魔獣肉をどう調理してやろうか。
それを考えていると、やはり笑みが止まらないのであった。
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