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40.セイネ6
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フィーは昨日、ルナ様から聞いたことをすべて話してくれた。
言いにくかっただろうに、正直に話してくれたことには感謝しかない。
ルナ様がくれたという短剣を手に取った。
短剣を抜くと、先はよく研いであるのかサメの歯とは思えないほど鋭く光沢があった。
『巨大サメなんて久しく聞く名前だわ』
巨大サメなんて大昔はいたらしいが今では見たこともない。
それにいつもなら鯨などの亡骸の骨で作られたナイフや光の国からの落とし物が一般的だというのに、ここまで丁寧に研がれたサメの歯の剣自体、初めて見た。
私は短剣をしまい、机の上に置いた。
そして、フィーに聞いた。
『フィー、聞いた?ロイド殿下とソレイユ様のこと』
「はい」
『喜ばしいことね』
私は微笑んだ。
リュート様の話を聞いて、ソレイユ様に対しての嫉妬はなくなった。
ロイド様に対しても不思議なほど何も思わない。
自分がどうしたいのか、まだわからない。
でも、リュート様と真剣に向き合いたいと思っていた。
ロイド様はソレイユ様に出会ってからは、私には会いに来なくなっている。でもリュート様は来てくれていた。
歌を歌っていたのがロイド様でなかったとわかっただけで、気持ちが冷めるとは『恋』ではなかったのかもしれない。
今はリュート様のことを知りたい気持ちでいっぱいだった。
この日もリュート様は来てくれた。
リュート様のことを知ろうとたくさん手話をする。彼は嫌な顔一つせず話を返してくれた。
彼は私が歌を歌っていた人魚とは知らないはずである。
知って欲しいとも思うのに、歌も歌えない人間になった私に価値はあるのだろうかと考えてしまう。
価値がないと言われたら、怖い。歌が歌えない私に興味がないといわれたら、どうすればいいのだろう。
真実を言うべきか。
人魚と知られる覚悟はあるのか。
すべてにおいて不安だった。
人魚に戻るために彼を殺す?
それとも・・・ここへくる前に女王が耳元で囁いたことが頭をよぎった。
『殺して、海に連れてきなさい。人魚の秘技で生き返らせれば、ずっと一緒にいられるわ』
彼を殺して海に戻る?本当に生き返るの?そんなことができるのだろうか。
もしかすれば、その方が人魚らしい生き方なのかもしれない。
いえ、違う。そうじゃない。
それは幸せとはいえない。
ならいっそう泡となって消えるべきではないだろうか?
「セイネ?どうかしたのか?」
リャート様が優しく微笑んできたので、私はなんでもないと首を振った。
『リュート様は歌は得意ですか?』
「歌?・・・そうだね。好きだね。セイネは?」
『私も好きです。声が出ていた頃はよく歌っていました』
「そうか。きっとセイネが歌う姿は凛として綺麗なんだろうな」
リュート様はまるで思い浮かべたかのように、目を細めてきた。
そんな顔を見て、恥ずかしくなってつい俯いてしまう。
『どうしてそう思うのですか?』
リュート様は、少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。
「初めてここにきた時、君は不安な表情だった。でも次第に明るく笑うようになった。護ってあげたくなる、そんなイメージだった。だけど、一昨日のお茶会が終わったから、君は変わった。決意をしたと言うべきか・・・」
この方は私を見ていたのか。
「その顔を私は知っている。上に立つ王の顔だ。」
ー王の顔?
そんなことを言われるなんて初めてだった。自分の生き方を肯定してくれた気がする。
「そんな君が綺麗だと思ったんだ。だからきっと歌を歌う姿も綺麗なんだろうな」
『歌えない私には・・・興味は、ないですか?』
思いきって聞いてみた。この方なら・・・。
「歌えなくても君は君だろう」
ーあぁっ、初めからこの方に会えたなら良かった
愚かな考えばかりする自分が情けない。
でも、思うのだ。
私がずっと会いたかったのはこの方はだったのだ。会えたこと、知ることができて本当によかったと・・・。
言いにくかっただろうに、正直に話してくれたことには感謝しかない。
ルナ様がくれたという短剣を手に取った。
短剣を抜くと、先はよく研いであるのかサメの歯とは思えないほど鋭く光沢があった。
『巨大サメなんて久しく聞く名前だわ』
巨大サメなんて大昔はいたらしいが今では見たこともない。
それにいつもなら鯨などの亡骸の骨で作られたナイフや光の国からの落とし物が一般的だというのに、ここまで丁寧に研がれたサメの歯の剣自体、初めて見た。
私は短剣をしまい、机の上に置いた。
そして、フィーに聞いた。
『フィー、聞いた?ロイド殿下とソレイユ様のこと』
「はい」
『喜ばしいことね』
私は微笑んだ。
リュート様の話を聞いて、ソレイユ様に対しての嫉妬はなくなった。
ロイド様に対しても不思議なほど何も思わない。
自分がどうしたいのか、まだわからない。
でも、リュート様と真剣に向き合いたいと思っていた。
ロイド様はソレイユ様に出会ってからは、私には会いに来なくなっている。でもリュート様は来てくれていた。
歌を歌っていたのがロイド様でなかったとわかっただけで、気持ちが冷めるとは『恋』ではなかったのかもしれない。
今はリュート様のことを知りたい気持ちでいっぱいだった。
この日もリュート様は来てくれた。
リュート様のことを知ろうとたくさん手話をする。彼は嫌な顔一つせず話を返してくれた。
彼は私が歌を歌っていた人魚とは知らないはずである。
知って欲しいとも思うのに、歌も歌えない人間になった私に価値はあるのだろうかと考えてしまう。
価値がないと言われたら、怖い。歌が歌えない私に興味がないといわれたら、どうすればいいのだろう。
真実を言うべきか。
人魚と知られる覚悟はあるのか。
すべてにおいて不安だった。
人魚に戻るために彼を殺す?
それとも・・・ここへくる前に女王が耳元で囁いたことが頭をよぎった。
『殺して、海に連れてきなさい。人魚の秘技で生き返らせれば、ずっと一緒にいられるわ』
彼を殺して海に戻る?本当に生き返るの?そんなことができるのだろうか。
もしかすれば、その方が人魚らしい生き方なのかもしれない。
いえ、違う。そうじゃない。
それは幸せとはいえない。
ならいっそう泡となって消えるべきではないだろうか?
「セイネ?どうかしたのか?」
リャート様が優しく微笑んできたので、私はなんでもないと首を振った。
『リュート様は歌は得意ですか?』
「歌?・・・そうだね。好きだね。セイネは?」
『私も好きです。声が出ていた頃はよく歌っていました』
「そうか。きっとセイネが歌う姿は凛として綺麗なんだろうな」
リュート様はまるで思い浮かべたかのように、目を細めてきた。
そんな顔を見て、恥ずかしくなってつい俯いてしまう。
『どうしてそう思うのですか?』
リュート様は、少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。
「初めてここにきた時、君は不安な表情だった。でも次第に明るく笑うようになった。護ってあげたくなる、そんなイメージだった。だけど、一昨日のお茶会が終わったから、君は変わった。決意をしたと言うべきか・・・」
この方は私を見ていたのか。
「その顔を私は知っている。上に立つ王の顔だ。」
ー王の顔?
そんなことを言われるなんて初めてだった。自分の生き方を肯定してくれた気がする。
「そんな君が綺麗だと思ったんだ。だからきっと歌を歌う姿も綺麗なんだろうな」
『歌えない私には・・・興味は、ないですか?』
思いきって聞いてみた。この方なら・・・。
「歌えなくても君は君だろう」
ーあぁっ、初めからこの方に会えたなら良かった
愚かな考えばかりする自分が情けない。
でも、思うのだ。
私がずっと会いたかったのはこの方はだったのだ。会えたこと、知ることができて本当によかったと・・・。
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