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6章 居場所
48.感情を優先するなかれ 06
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帰りましょう。
そう告げた私が連れてこられたのは、闇のような空間に、鼓動のように赤くきらめく魔力脈が張り巡らされた魔人の空間。
「私の帰る場所はここなの?」
「そうだ」
ヴェルは短く言う。
「そっか……」
短く答えた私が、どれほど嬉しかったかきっと彼は分からないだろう。
翌日、王位を望む者達の多くが、ゴーストに襲われる白昼夢を見たと混乱に陥っていた。 彼等は、私の寝室、廊下、庭先、あらゆる場所で全裸の男が泡を吹き転がり、時に失禁と共に意識を失っている者すらいたと言う。
性別は男性に限定されるが、年齢は様々。 秘書や護衛等を連れている者もおり、混沌とした状況に困惑するのも当然と言うもの。
「なぜ、こんなところに……」
唖然とする侍女が、護衛騎士を呼んだのは当然の事だろう。 例え地位ある立場にあっても彼等は招かれた客人ではなく、不法侵入者なのだから。
王位を求める者達。
私を妻とする事で、どれほどの影響力があるのか? 文官達からは、無茶ぶりされそう、口煩そう、そんなことを言われているけれど、魔人の封印を維持する必要が無くなった今も私を不要だと言う者はいない。
当然だ。
3つの魔法機関は8年前から、封印が破壊される危険性を語り、それが壊れてしまえばこの国がどうなるか語り続けてきたのだから。
私がジュリアン王子に語っていた事は、起こりうる未来として魔法系の集まりがあるときには必ず語られていた。 父を筆頭とする騎士団は早い段階で、魔物だけでなく、対ゴースト用の武具を扱うようになった。 と言っても、私が加護を与えるだけと言うものだけど。
だから、魔人の封印が失われた今、今だからこそ、私を確保したいと思ったのだろう。 とは言え、夜這いで言う事を聞かそうと言うのは短慮が過ぎる。 それも人や薬に手伝ってもらおう等と言うのは人としてどうなのだろうか?
夜這いをかけてきた者達は、自らの行動を顧みる事無く、外皮を失い母とよく似ていると言われる顔を晒しているにもかかわらず、彼等は私を化け物と呼び、叫び、責め立てた。
「私が化け物なのは、知っていたでしょう? 今更何を言っているの?」
私は笑い、最も早く駆け付ける事が出来た魔導師長は嘆いた。
「忙しいと言っておろうがぁああああ!! 余計な仕事を増やさんでくれ」
「え~~、でもぉ~~、こんなに大勢を相手するのはぁ~~、むりだしぃ~~」
ふざけて言えば泣かれた。 やれやれ仕方のない魔導師長だ。 そんな冗談とも本気ともいえない会話の中、1人の少年が声をかけてきた。
「あれは、あの映像は触れる事こそできませんでしたが、余りにも鮮明過ぎました。 アレは……あの映像は、魔人が解放された後にやってくると言われた世界なのでしょうか?!」
真摯に見つめ問いかけてくる。
こんなきれいな顔立ちの少年が、強姦未遂なんて……。 綺麗な白髪の髪に、アイスブルーの瞳をした少年だった。
「やってくるだろう景色で、過去に起こっていた景色。 アレは、魔人の記憶から取得に成功した過去の情報なの」
「あの景色は、余りにも悲惨でした。 僕は勘違いしていました……あぁならないように王家は魔人を封じていたなんて……」
その言い方だと、魔物発生の原因がヴェルにあるような口ぶりで、綺麗な顔立ちの少年にカワイイのぉ~。 等と思っていた心が、ビシッと凍り付いた。
「アレは、魔人が抑えてくれていた被害でしかないよ。 長く国のために犠牲となってきた魔人の復讐なんかじゃない。 それを勘違いしていると大きな失態をするからね」
「……そう、ですね。 はい……」
素直なのは良いが、もう少し物事を考えた方がいいかな? でも、まぁ、若いし……文官達は無知な子がいいとか言っていたし? なんてことを考えて、
「化け物が勝手な事を言うな!! お前が、お前が、この国を呪ったんだろう!!」
「王子の言動に腹を立て、魔人を解放し、我々を地獄に落とそうとしているのだろう!!」
「そんな面倒な事する気はないけど、ただ罵倒されるのは損だから。 魔人にはまず王都を消し去ってくれるよう、お願いしないといけませんね」
にっこりと笑って見せた。
「狂ってる……」
「狂わせるのは、だぁ~れだ」
私は、うふふと笑う。
「聖女様……そろそろ控えて下さい」
「魔導師長、ようやく復活? 仕方ないから冗談は横に置いて本格的に脅迫するかな」
「聖女様!!」
嘆く魔導師長を私は放置し、コホンと咳払い1つして語りだす。
「父様に知られれば、王となる者が知っておくべきこの国の未来を見せられるなんてカワイイ罰で済みませんよ? なにしろ、ここで転がっていた方々は聖女を強姦しようって言う肝っ玉の持ち主。 大きな罪もいとわず、一発逆転妊娠させれば王位も後見人も確定!! と、考えるお馬鹿さん。 でも残念ながら、今は、貴族を罰する王は自ら王位から逃げ出して別荘地に引きこもり。 だから、聖女強姦!! と言う、不祥事に対応する者がいない。 挙句、王になった者は、自らの権力で罪をもみ消す事ができますからね。 なら、これを父様が知ったらどうするかしら? 貴方達を罰するために王になるぐらいするかも? そうなると、私は聖女で王女……これって大変ね。 あらあら大変、罪が増えちゃう~~」
言えば、父様の親馬鹿っぷりと、激情を知る者達は顔色を変わった色に染め上げた。 ふわふわとした親馬鹿っぷりだけを知る者は鼻で笑ったけれど、年配の者達は困惑し、強姦犯を横に置きそれだけは勘弁して欲しいと頭を下げた。
「とりあえず、アレを見て私を化け物と罵った者は、王に相応しくないと思うの」
私が言えば、がっくりと肩を落とし、本当に頭部が薄くなり始めた魔導師長がぼそりと風に飛ばされるような声で言う。
「そうですねぇ……。 政治に関与しない王が良いと、文官の方々が言っているそうだけど、なら文官の方々がしっかりと将来を見据えないといけないのだから、もう一度講習会を行い、各部署で自分達が出来る対策資料を出してもらわないとね。 魔導師長!」
「もう、やだ、おうちに帰って寝たい……」
「これは、困りましたね。 仕方がないので、こうしましょう! 私、聖女止めてこれからは魔物狩りとして生きていきます。 ご依頼は屋敷の方にお願いします。 価格は応相談。 馬鹿をやった方々は2割増しで仕事をお受けしますね。 では、皆様、ごきげんよう。 もう2度と会えないことをお祈りしていますね」
深々と礼儀正しく私は淑女の礼をしその場を去った。
そう告げた私が連れてこられたのは、闇のような空間に、鼓動のように赤くきらめく魔力脈が張り巡らされた魔人の空間。
「私の帰る場所はここなの?」
「そうだ」
ヴェルは短く言う。
「そっか……」
短く答えた私が、どれほど嬉しかったかきっと彼は分からないだろう。
翌日、王位を望む者達の多くが、ゴーストに襲われる白昼夢を見たと混乱に陥っていた。 彼等は、私の寝室、廊下、庭先、あらゆる場所で全裸の男が泡を吹き転がり、時に失禁と共に意識を失っている者すらいたと言う。
性別は男性に限定されるが、年齢は様々。 秘書や護衛等を連れている者もおり、混沌とした状況に困惑するのも当然と言うもの。
「なぜ、こんなところに……」
唖然とする侍女が、護衛騎士を呼んだのは当然の事だろう。 例え地位ある立場にあっても彼等は招かれた客人ではなく、不法侵入者なのだから。
王位を求める者達。
私を妻とする事で、どれほどの影響力があるのか? 文官達からは、無茶ぶりされそう、口煩そう、そんなことを言われているけれど、魔人の封印を維持する必要が無くなった今も私を不要だと言う者はいない。
当然だ。
3つの魔法機関は8年前から、封印が破壊される危険性を語り、それが壊れてしまえばこの国がどうなるか語り続けてきたのだから。
私がジュリアン王子に語っていた事は、起こりうる未来として魔法系の集まりがあるときには必ず語られていた。 父を筆頭とする騎士団は早い段階で、魔物だけでなく、対ゴースト用の武具を扱うようになった。 と言っても、私が加護を与えるだけと言うものだけど。
だから、魔人の封印が失われた今、今だからこそ、私を確保したいと思ったのだろう。 とは言え、夜這いで言う事を聞かそうと言うのは短慮が過ぎる。 それも人や薬に手伝ってもらおう等と言うのは人としてどうなのだろうか?
夜這いをかけてきた者達は、自らの行動を顧みる事無く、外皮を失い母とよく似ていると言われる顔を晒しているにもかかわらず、彼等は私を化け物と呼び、叫び、責め立てた。
「私が化け物なのは、知っていたでしょう? 今更何を言っているの?」
私は笑い、最も早く駆け付ける事が出来た魔導師長は嘆いた。
「忙しいと言っておろうがぁああああ!! 余計な仕事を増やさんでくれ」
「え~~、でもぉ~~、こんなに大勢を相手するのはぁ~~、むりだしぃ~~」
ふざけて言えば泣かれた。 やれやれ仕方のない魔導師長だ。 そんな冗談とも本気ともいえない会話の中、1人の少年が声をかけてきた。
「あれは、あの映像は触れる事こそできませんでしたが、余りにも鮮明過ぎました。 アレは……あの映像は、魔人が解放された後にやってくると言われた世界なのでしょうか?!」
真摯に見つめ問いかけてくる。
こんなきれいな顔立ちの少年が、強姦未遂なんて……。 綺麗な白髪の髪に、アイスブルーの瞳をした少年だった。
「やってくるだろう景色で、過去に起こっていた景色。 アレは、魔人の記憶から取得に成功した過去の情報なの」
「あの景色は、余りにも悲惨でした。 僕は勘違いしていました……あぁならないように王家は魔人を封じていたなんて……」
その言い方だと、魔物発生の原因がヴェルにあるような口ぶりで、綺麗な顔立ちの少年にカワイイのぉ~。 等と思っていた心が、ビシッと凍り付いた。
「アレは、魔人が抑えてくれていた被害でしかないよ。 長く国のために犠牲となってきた魔人の復讐なんかじゃない。 それを勘違いしていると大きな失態をするからね」
「……そう、ですね。 はい……」
素直なのは良いが、もう少し物事を考えた方がいいかな? でも、まぁ、若いし……文官達は無知な子がいいとか言っていたし? なんてことを考えて、
「化け物が勝手な事を言うな!! お前が、お前が、この国を呪ったんだろう!!」
「王子の言動に腹を立て、魔人を解放し、我々を地獄に落とそうとしているのだろう!!」
「そんな面倒な事する気はないけど、ただ罵倒されるのは損だから。 魔人にはまず王都を消し去ってくれるよう、お願いしないといけませんね」
にっこりと笑って見せた。
「狂ってる……」
「狂わせるのは、だぁ~れだ」
私は、うふふと笑う。
「聖女様……そろそろ控えて下さい」
「魔導師長、ようやく復活? 仕方ないから冗談は横に置いて本格的に脅迫するかな」
「聖女様!!」
嘆く魔導師長を私は放置し、コホンと咳払い1つして語りだす。
「父様に知られれば、王となる者が知っておくべきこの国の未来を見せられるなんてカワイイ罰で済みませんよ? なにしろ、ここで転がっていた方々は聖女を強姦しようって言う肝っ玉の持ち主。 大きな罪もいとわず、一発逆転妊娠させれば王位も後見人も確定!! と、考えるお馬鹿さん。 でも残念ながら、今は、貴族を罰する王は自ら王位から逃げ出して別荘地に引きこもり。 だから、聖女強姦!! と言う、不祥事に対応する者がいない。 挙句、王になった者は、自らの権力で罪をもみ消す事ができますからね。 なら、これを父様が知ったらどうするかしら? 貴方達を罰するために王になるぐらいするかも? そうなると、私は聖女で王女……これって大変ね。 あらあら大変、罪が増えちゃう~~」
言えば、父様の親馬鹿っぷりと、激情を知る者達は顔色を変わった色に染め上げた。 ふわふわとした親馬鹿っぷりだけを知る者は鼻で笑ったけれど、年配の者達は困惑し、強姦犯を横に置きそれだけは勘弁して欲しいと頭を下げた。
「とりあえず、アレを見て私を化け物と罵った者は、王に相応しくないと思うの」
私が言えば、がっくりと肩を落とし、本当に頭部が薄くなり始めた魔導師長がぼそりと風に飛ばされるような声で言う。
「そうですねぇ……。 政治に関与しない王が良いと、文官の方々が言っているそうだけど、なら文官の方々がしっかりと将来を見据えないといけないのだから、もう一度講習会を行い、各部署で自分達が出来る対策資料を出してもらわないとね。 魔導師長!」
「もう、やだ、おうちに帰って寝たい……」
「これは、困りましたね。 仕方がないので、こうしましょう! 私、聖女止めてこれからは魔物狩りとして生きていきます。 ご依頼は屋敷の方にお願いします。 価格は応相談。 馬鹿をやった方々は2割増しで仕事をお受けしますね。 では、皆様、ごきげんよう。 もう2度と会えないことをお祈りしていますね」
深々と礼儀正しく私は淑女の礼をしその場を去った。
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