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3章 オマジナイ
33.雨のせいにする
彼女(?)に会ったのは13年前に1度切り、それも一瞬の出来事。 その人物の危険性を理解していたからと言って、出会った瞬間にソレを思い出し、最適解を導き、対処することは難しいのだが、それでも私は器用に避けていた。
「薔薇の香り」
蒸し暑い雨の日。
どこからともなく甘く錆びた匂いがする。
私の小さな呟きにクライン医局長が周囲を見回す。 慌てるクライン医局長とは違い、金色のキツイ巻き髪をした13歳ほどの少年が、にっこりと微笑みを向ける。
「食堂にでも、寄っていきましょうか?」
食堂へと誘導した少年の名は『アイザック・ヒューバー』少年に見えるがれっきとした34歳で、既婚者であり、クライン医局長とは遠縁にあたるらしい。 幼少期に家の都合でクライン医局長と、マリン副局長はヒューバー家に預けられていた期間があるとかないとか……。
まぁ、そんなことはどうでも良いのですけど……。
アイザックは、弟子と言う名目でパーシヴァルが私につけた護衛。 戦闘時における実力の程は不明ではありますが、器用さと俊敏性に長けた合法ショタは、周囲を和ます才能を有り余らせているらしく、初日から王妃様のお気に入りとなった。
今も、お茶とお菓子を王妃様から頂いた帰りである。 嫉妬深い陛下も流石にアイザックの見た目に、どう反応していいか唸りながら対面を終えた。 国王陛下情報としてはまだ新しく、アイザックは自然と集まる視線へ、アイドルよろしく手を振って対応する。
そんな対人関係に優れたアイザックが急ぐ。 知らなければ気にならないだろうが、知っていて世紀の殺人鬼と遭遇したい者などいないだろう。 来た道を戻り右折し食堂を目指す。
食堂を使うのは、貴族と言う名ばかりの貧乏貴族が殆どで、殺人鬼であるウェイド侯爵家当主と、その価値ある取り巻きが訪れる場所ではないからだと想像にたやすい。
ウェイド侯爵の当主就任から1月。
彼がばらまいた薬による暴走や、不自然な死者などは発見されていない。
多くの被害者を出した薬の匂いを漂わせるのは、今は侯爵のみとなった。
他の者には毒になった血肉を贄とした白薔薇で作られた薬も、まだそれほど強い魔力を保有しなかった頃から毎日少しずつ飲むことで身体に馴染んでいるのだろう。 魔力が少なく生きる事も難しかった子供が、化け物と近しい存在となる程度に有効だったというのは、薬師として興味深くはあるが……、一度は殺されかけただろう身としては近寄りたい相手ではない。
食堂へと向かう私達の背後から、憂鬱な雨など気づいていないような明るい声がする。 大抵彼は6人程度の男女に囲まれていた。 彼に対して個人的な興味があるか? と聞かれれば全くと言っていい程にないのですが、ないからこそ彼を見かけたときに、彼ではなく彼の周囲を見てしまう。
毎日毎日、飽きることなく彼は誰かに囲まれている。 ソレは毎日毎日同じ人と一緒にいる訳ではないが、毎日6人と決まっている。
後ろを通り過ぎる彼等を、目の端に引っ掛けるようにながめた。
「シヴィル君、どうかしたかね?」
問われて無言のまま首を横に振る。
食堂により軽くお茶をする。
長居をして、また甘い血の匂いをさせた男と遭遇するのは面白くない。 と言うのも当然あるが、医局長が仕事もせずに薬草弄りをしているのだから、周囲も訳が分からないと言う視線を向けてくる。 まぁ、正直言って私も訳が分からないと思っている1人だから、文句を言う気もない。 とりあえず、好きだとか、子を産んでくれとか、そういう発言もないから、受け入れているに過ぎない。
子供……あぁ、なるほど……。 あの薔薇の香りは、女性の持つ体臭と少しだけ似ている。 子を孕み育て産む女性と似ていると思い出す。
「あぁ、なるほど……」
「どうかしたんですか先生?」
「いえ、彼の周囲の女性がなぜ毎日違うのか? 彼がなぜ毎日のように魔力に微量な変化があるのかが判ったと言うだけのことです」
「今更ですか先生?」
「それはどういうことだね?」
「そんなことも分からないんですかクライン医局長? だから未だに童貞なんですよ。 むしろ先生ほどの医師が童貞なんてどうなんですかね? なんですか? 女性の裸をみても内臓と骨と魔力回路にしか見えないんですか? この童貞め!」
「こらマテ……」
アイザック(外見14歳程度、実年齢34歳)曰く、クライン(外見30程度、実年齢28歳)の、オネショの片づけをしてやった!とか、昔はお兄ちゃんお兄ちゃんと可愛らしかったのに、どうしてこうなったのか? とか……クライン医局長には勝ち目のない話を延々としはじめられてはと焦るクライン医局長。
「世間って狭いなぁ~」
他愛ない会話。
意味のない会話。
3人で歩いていた。
意識的に避けようと歩いていたにも関わらず、あれから20分程度経過した今、ウェイド侯爵は正面から人に囲まれながらやってきた。 何をどう巡ったのか分からないが、王宮は歩きなれた人間でも迷子になるのだから、そういうこともあるだろう。
避けた方が良いのでしょうか?
向こうは7人(侯爵+6名)の団体様だ。 他の人たちであれば、左右に避けてウットリ眺めるのだろうが……、そんな気分になるわけもなく、別の道を選ぶには渡り廊下から外に出るしかない。 雨の中を突っ込んでいくのは、流石にわざとらしすぎる。 もういっそ、嫌いだから避けていると世間様に周知した方が早いのではないでしょうか? 等色々と考えていれば
「先生、寂しかったら会話に入ってきてくれていいんですよ」
暢気そうにアイザックが声をかけてきた。
「遠慮させてください……」
「そうですか、残念ですねぇ~。 そう思いませんか医局長」
「思うか!!」
アイザックは避けると言う選択はないように、普通にごく普通に話し続ける。 内容はアレだが……。
「まぁ、いいですけど……クライン医局長。 女性を抱くと言うことは医師として多くの事が得られるものです。 僕は妻がいるのでお付き合いできませんが、良い店を紹介するぐらいはできますよ?」
ニッコリ、少女と見間違うような笑みで微笑んだ。
「シヴィル君……」
「えっと、私は女性とそういう関係になる趣味はありませんので遠慮させてください」
「いや、そうじゃないんだが……」
「とりあえず、そんな死亡ルートに声をかけないでください。 はい、伏せて」
そんな事をいいながらアイザックは、自分より20cmほど背の高いクラインの頭に手を伸ばし、お辞儀をさせる。
「なっ?」
お辞儀したクライン医局長の頭上に、凄い速さで小石が飛んでいく。 そして、避けられた先には……悲劇の侯爵、美貌の侯爵として絶賛人気上昇中のウェイド侯爵の額があった。
パンッ
飛んでいった小石が、粉みじんに砂のように砕けた。
「なんですの?!」
金属のはじける音に令嬢達が怯え、新侯爵に媚びる貴族当主達が軽快する。
「いやぁ~。 申し訳ない。 うっかり躓いてしまいまして」
何処から現れたのか分からないが、雨に濡れた髪をかきあげパーシヴァルが張り付けた笑顔で告げる。
どんなドジっこですか!! 凶悪過ぎるわ!! なんて突っ込みは控え、パーシヴァルの腕の中に引き入れられた私は、そっと身を隠すかのように彼に寄り添う。
「あぁ、良くあることですよね」
ウェイド侯爵は、私に同意を向けるように視線を落とすが、
「物騒な世の中ですから、お互い気を付けないといけませんね」
私と余り変わらない背丈であるアイザックが、ニッコリと人好きのする笑みで返し、そしてすれ違う。
すれ違い様に
「死ね」
と呟くパーシヴァルの声が聞こえたような気がしたが、きっと雨のせいだろう……。
「薔薇の香り」
蒸し暑い雨の日。
どこからともなく甘く錆びた匂いがする。
私の小さな呟きにクライン医局長が周囲を見回す。 慌てるクライン医局長とは違い、金色のキツイ巻き髪をした13歳ほどの少年が、にっこりと微笑みを向ける。
「食堂にでも、寄っていきましょうか?」
食堂へと誘導した少年の名は『アイザック・ヒューバー』少年に見えるがれっきとした34歳で、既婚者であり、クライン医局長とは遠縁にあたるらしい。 幼少期に家の都合でクライン医局長と、マリン副局長はヒューバー家に預けられていた期間があるとかないとか……。
まぁ、そんなことはどうでも良いのですけど……。
アイザックは、弟子と言う名目でパーシヴァルが私につけた護衛。 戦闘時における実力の程は不明ではありますが、器用さと俊敏性に長けた合法ショタは、周囲を和ます才能を有り余らせているらしく、初日から王妃様のお気に入りとなった。
今も、お茶とお菓子を王妃様から頂いた帰りである。 嫉妬深い陛下も流石にアイザックの見た目に、どう反応していいか唸りながら対面を終えた。 国王陛下情報としてはまだ新しく、アイザックは自然と集まる視線へ、アイドルよろしく手を振って対応する。
そんな対人関係に優れたアイザックが急ぐ。 知らなければ気にならないだろうが、知っていて世紀の殺人鬼と遭遇したい者などいないだろう。 来た道を戻り右折し食堂を目指す。
食堂を使うのは、貴族と言う名ばかりの貧乏貴族が殆どで、殺人鬼であるウェイド侯爵家当主と、その価値ある取り巻きが訪れる場所ではないからだと想像にたやすい。
ウェイド侯爵の当主就任から1月。
彼がばらまいた薬による暴走や、不自然な死者などは発見されていない。
多くの被害者を出した薬の匂いを漂わせるのは、今は侯爵のみとなった。
他の者には毒になった血肉を贄とした白薔薇で作られた薬も、まだそれほど強い魔力を保有しなかった頃から毎日少しずつ飲むことで身体に馴染んでいるのだろう。 魔力が少なく生きる事も難しかった子供が、化け物と近しい存在となる程度に有効だったというのは、薬師として興味深くはあるが……、一度は殺されかけただろう身としては近寄りたい相手ではない。
食堂へと向かう私達の背後から、憂鬱な雨など気づいていないような明るい声がする。 大抵彼は6人程度の男女に囲まれていた。 彼に対して個人的な興味があるか? と聞かれれば全くと言っていい程にないのですが、ないからこそ彼を見かけたときに、彼ではなく彼の周囲を見てしまう。
毎日毎日、飽きることなく彼は誰かに囲まれている。 ソレは毎日毎日同じ人と一緒にいる訳ではないが、毎日6人と決まっている。
後ろを通り過ぎる彼等を、目の端に引っ掛けるようにながめた。
「シヴィル君、どうかしたかね?」
問われて無言のまま首を横に振る。
食堂により軽くお茶をする。
長居をして、また甘い血の匂いをさせた男と遭遇するのは面白くない。 と言うのも当然あるが、医局長が仕事もせずに薬草弄りをしているのだから、周囲も訳が分からないと言う視線を向けてくる。 まぁ、正直言って私も訳が分からないと思っている1人だから、文句を言う気もない。 とりあえず、好きだとか、子を産んでくれとか、そういう発言もないから、受け入れているに過ぎない。
子供……あぁ、なるほど……。 あの薔薇の香りは、女性の持つ体臭と少しだけ似ている。 子を孕み育て産む女性と似ていると思い出す。
「あぁ、なるほど……」
「どうかしたんですか先生?」
「いえ、彼の周囲の女性がなぜ毎日違うのか? 彼がなぜ毎日のように魔力に微量な変化があるのかが判ったと言うだけのことです」
「今更ですか先生?」
「それはどういうことだね?」
「そんなことも分からないんですかクライン医局長? だから未だに童貞なんですよ。 むしろ先生ほどの医師が童貞なんてどうなんですかね? なんですか? 女性の裸をみても内臓と骨と魔力回路にしか見えないんですか? この童貞め!」
「こらマテ……」
アイザック(外見14歳程度、実年齢34歳)曰く、クライン(外見30程度、実年齢28歳)の、オネショの片づけをしてやった!とか、昔はお兄ちゃんお兄ちゃんと可愛らしかったのに、どうしてこうなったのか? とか……クライン医局長には勝ち目のない話を延々としはじめられてはと焦るクライン医局長。
「世間って狭いなぁ~」
他愛ない会話。
意味のない会話。
3人で歩いていた。
意識的に避けようと歩いていたにも関わらず、あれから20分程度経過した今、ウェイド侯爵は正面から人に囲まれながらやってきた。 何をどう巡ったのか分からないが、王宮は歩きなれた人間でも迷子になるのだから、そういうこともあるだろう。
避けた方が良いのでしょうか?
向こうは7人(侯爵+6名)の団体様だ。 他の人たちであれば、左右に避けてウットリ眺めるのだろうが……、そんな気分になるわけもなく、別の道を選ぶには渡り廊下から外に出るしかない。 雨の中を突っ込んでいくのは、流石にわざとらしすぎる。 もういっそ、嫌いだから避けていると世間様に周知した方が早いのではないでしょうか? 等色々と考えていれば
「先生、寂しかったら会話に入ってきてくれていいんですよ」
暢気そうにアイザックが声をかけてきた。
「遠慮させてください……」
「そうですか、残念ですねぇ~。 そう思いませんか医局長」
「思うか!!」
アイザックは避けると言う選択はないように、普通にごく普通に話し続ける。 内容はアレだが……。
「まぁ、いいですけど……クライン医局長。 女性を抱くと言うことは医師として多くの事が得られるものです。 僕は妻がいるのでお付き合いできませんが、良い店を紹介するぐらいはできますよ?」
ニッコリ、少女と見間違うような笑みで微笑んだ。
「シヴィル君……」
「えっと、私は女性とそういう関係になる趣味はありませんので遠慮させてください」
「いや、そうじゃないんだが……」
「とりあえず、そんな死亡ルートに声をかけないでください。 はい、伏せて」
そんな事をいいながらアイザックは、自分より20cmほど背の高いクラインの頭に手を伸ばし、お辞儀をさせる。
「なっ?」
お辞儀したクライン医局長の頭上に、凄い速さで小石が飛んでいく。 そして、避けられた先には……悲劇の侯爵、美貌の侯爵として絶賛人気上昇中のウェイド侯爵の額があった。
パンッ
飛んでいった小石が、粉みじんに砂のように砕けた。
「なんですの?!」
金属のはじける音に令嬢達が怯え、新侯爵に媚びる貴族当主達が軽快する。
「いやぁ~。 申し訳ない。 うっかり躓いてしまいまして」
何処から現れたのか分からないが、雨に濡れた髪をかきあげパーシヴァルが張り付けた笑顔で告げる。
どんなドジっこですか!! 凶悪過ぎるわ!! なんて突っ込みは控え、パーシヴァルの腕の中に引き入れられた私は、そっと身を隠すかのように彼に寄り添う。
「あぁ、良くあることですよね」
ウェイド侯爵は、私に同意を向けるように視線を落とすが、
「物騒な世の中ですから、お互い気を付けないといけませんね」
私と余り変わらない背丈であるアイザックが、ニッコリと人好きのする笑みで返し、そしてすれ違う。
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