偽りの婚姻

迷い人

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3章 オマジナイ

37.気づかない訳ない

 王妃様専属薬師と言う名は残されているが、要注意人物とされた私はパーシヴァルに拾われたこともあり、王宮の周囲を囲む警備地域とされる一の郭に居を構えている。 王宮の外周と言うが、馬車で数十分かかるのだからかなりの距離だ。

 馬車に揺られ道を行く。
 時間がユックリと過ぎていく。

 パーシヴァルが率いる隊は、周囲から嫌味を込めて『ヒュブリス部隊』と呼ばれているが、ソレを面白がったパーシヴァルは、ヒュブリス部隊と言う名称を正式採用しており、正門には自戒として雷の紋章が掲げられている。

 馬車が止まればアイザックが手を差し出す。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 その手を借りて馬車を降りた。

 目の前の広い土地には、訓練施設、騎士団宿舎、新しく建てられた幹部棟に温室がある。 パーシヴァルはまるで全てを予言していたかのように、シヴィルの生活が彼の手の届く範囲で済ませられるように準備を整えていたのだ。

 ふぅ……。

 漏れる溜息。

 自分にとってパパと慕う相手の息子ではあるが、彼に対して何かを考えること等無かった。 いや、考える事はあったが、その感情の大半は『嫉妬』でしかなかった。 なぜ、私はこれほどまで彼の加護を受けているのだろう? そう考えれば、苛立ち、焦り、呆れ、あらゆる感情が心に渦巻く……。

「まだ、受け入れられませんか?」

 微妙な表情をしていたのでしょうか? くすっと笑いながらも、アイザックの声は何処か責めているようにすら感じた。 私の部下としてつけられたが、元はパーシヴァルが信頼を寄せる部下なのだから、仕方がないのかもしれない。

「いいえ、感謝はしていますわ。 それでも複雑な思いがありますの……」

 パーシヴァルは、私を『妹のようなものだから』そう告げるが、その枠は余裕で越えている。 父に対する憎しみを向けてくるナイジェルの件もそうだ。

『アノ人から奪われたとする者と、アノ人から与えられた者、対極にある争いは俺のものだ。 だけど、自覚してくれていなければ守るのは難しい。 大人しく守られてはくれないだろうか?』

 ある日、パーシヴァルは私に告げた。

 理解はできるが、やはり……度を越えていると私は思ってしまう。 ナイジェルが王宮に留まる以上、私は自分を守るために別の方法を選ぶことだってできた。 そもそも王宮にいたのは身を守るため。 なら王宮から出ればいい。 国から出ればいい。 だが、それは辞めて欲しいと周囲から散々言われた。

「わかっているんでしょう?」

 いつもニコニコ顔のアイザックが、真顔で見つめてきた。 無言の私にダメ押ししてくる。

「ボスは、陛下と同じ類の人間ですよ? 今は嫌われないように、必死に先生に合わせていますが、いつまでも気づかないふりをするのは辞めて差し上げていただけませんか?」

 誰も言わない言葉をアイザックは、ニコニコとした幼い笑みに隠して言う。

 恋愛どころか、親や子守以外との付き合いが殆どない私だけれど、流石にあそこまでストレートに好きと言われ、大切にされ、私の過ごしやすい居場所を作ってくれた。 そんな苦労を好意なしにできる訳ないことぐらいは分かる。

「でも……父に対する恩返しと言う奴かもしれないではありませんか……。 ソレを勘違いしてはとても恥ずかしいと言うか、そこで失敗したら2度と顔を合わせるなんて出来ませんよ……」

 やり過ぎと言ってもおかしくはないに保護されているとは思う。 だけど、父の行動がどれ程価値があるか? ソレをはかるのは人それぞれだと言うことを、死んだ父に今も忠誠を誓っている者達を見れば否定しきれない。

 アイザックが、わざとらしく盛大に溜息をつく。

「1度の失敗で諦めず、チャレンジすればいいでしょう!」

 なぜか、私がパーシヴァルを好きでたまらないと言う話になっているのが、少しばかり気になり反論しようとすれば、アイザックはそれを許してはくれなかった。

「他の女性が、自分が受けている恩恵と同じものを与えられたら?」

 そう言われて黙り込み、そしてうっかりと想像してしまった……それはとても嫌な気分になる訳で……。

「アイザックは意地悪ね……だけど独占欲と恋は違うと思うの」

「そんなの試してみないと分からないでしょう。 どうです? 折角ですから今度夜会にでも出てみませんか? ボスが他の女性と仲良くするのが嫌か? それが、もしルーカス様なら? 殿下であれば?」

「……でも」

「でもって、まだ何かあるんですか?」

「それって私に何の得があるの?」

「ぇ、っと……得って?」

「誰かを好きになって、心が乱れて、周囲が見えなくなって、幸せが理解できなくなる……そういうのは嫌だわ」

「好きになって、好きを返されて、幸せになると言う将来だってあるでしょう?」

「私は……幸せでなくても、不幸でないならソレで良いもの」

 白き美貌の魔女。

 母を一目見た男性は心奪われた。 母にとってソレは鬱陶しい事でしかなく、魅了の魔法を使っている等と言うものではなかった。 それでも人は母の美貌を、その魔女としての利用価値を欲し、貢いできた。 中には隣国の王族もいたらしい。

 そんな母が愛したのは、父だけ。 だけど父は母を愛してはおらず、それでも父を手に入れたかった母は、無理やりに関係を迫り私を作った。

 決して母を愛していた訳ではない父だからこそ、父の因子を組み込んだ私と言う子供を作るために、母は様々な魔力的な行為を施したと言う。 そして……父は私の父となり、母の夫となった。

 顔立ちこそ、クローンと言われるほどに母に似ているが、髪色や瞳の色は父のものだし、少年のような恰好をさせていた母は、私を可愛がってくれていたと思う。 仕事だからと滅多に顔を出さない父、その父を愛する母……。

 パーシヴァルのように、野良魔女は別だが組織に属する魔女は子を持つことを許されていない。

 父を探し求める母の狂気は、魔女の森を破壊。 母の感情の暴走は、他者の精神を汚染し、狂気の深みに落とし、幾人もの魔女をただ破壊するだけの生き物へと変えた。 魔女組織は、手に負えなくなった母を納めるために、父に頭を下げて母を宥めるように願いでていたのだと、それなりに大きくなってから知る事となった。



 私は、幾度となく父を求めるがゆえに暴走する母を見てきた。

 力持つ者は、人を愛してはならない。

 生憎と私は母ほどの、力は持っていないし、父ほどの頭脳も信念も行動力もない。 中途半端な人間だから、普通に生活する事が許されるだろう。

 だけど、世間はなかなか厳しくて、お友達すらできないのよねぇ……と、私は溜息をつく。

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