『離婚して7年後、再婚を報告したら元夫が「俺が捨てたゴミを誰が拾うんだ?」と言ってきた。新しい夫が名刺を差し出した瞬間、元夫は凍りついた』

『離婚して7年後、再婚を報告したら元夫が「俺が捨てたゴミを誰が拾うんだ?」と言ってきた。新しい夫が名刺を差し出した瞬間、元夫は凍りついた』

カップの底に残った苦いコーヒーを
ゆっくり飲み干したのは、
あの日の続きを、やっと終わらせるためだった。

「久しぶり」
その声は、昔よりも軽くて、
けれど同じ場所に突き刺さる。

「再婚するんだって?」
「……うん」

指先が少しだけ冷たい。
けれど、もう震えはしなかった。

「誰が拾ったんだよ」
笑いながら言う。
昔と同じ顔で。

「俺が捨てたゴミをさ」

その言葉は、
一度死んだはずの痛みを
ほんの少しだけ揺らした。

だけど、

胸の奥に落ちた音は、
昔みたいに割れなかった。

ただ、静かに沈んだ。

――ああ、まだこの人は、ここにいる。

七年前のまま、
同じ場所で止まっている。

私は、違うのに。

カップを置く音が、小さく響く。
それが合図みたいに、

隣にいた人が、
ゆっくりと名刺を差し出した。

「その言葉、訂正していただけますか」

低くもなく、高くもない声。
ただ、まっすぐで、

逃げ場のない音だった。

白い紙が、
テーブルの上に置かれる。

たったそれだけのことなのに、

空気が変わる。

温度が、一度下がる。

呼吸の仕方を、
忘れたみたいに、

沈黙が落ちる。

元夫の視線が、
紙の上を滑って、止まる。

その瞬間、

何かが壊れる音がした。

それはきっと、
プライドとか、
思い込みとか、

「自分が上だ」という
見えない骨組みみたいなもの。

「……は?」

掠れた声が、
やっと出てくる。

でももう遅い。

七年は、
ちゃんと流れていた。

私は、
あの場所に置き去りにされていない。

拾われたわけでもない。

救われたわけでもない。

ただ、

歩いてきただけだ。

自分の足で、
ゆっくりと、
何度も立ち止まりながら。

「ゴミじゃないですよ」

隣の人が、静かに言う。

「最初から」

その言葉に、

胸の奥の、
ずっと固まっていた何かが、

やっとほどける。

あの日、捨てられたのは、

私じゃない。

価値でもない。

ただひとつ、

誰かを正しく見ることのできなかった、

その視線だった。

私は、
それを拾わなかった。

だから今、ここにいる。

名前を呼ばれて、

当たり前に、
隣に座っている。

それだけでいいと、
思える場所に。

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小説 38 位 / 219,160件 現代文学 2 位 / 9,163件

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