『カウント・トゥ・ゼロ —二十七回目の静かな退席—』

『カウント・トゥ・ゼロ —二十七回目の静かな退席—』

静かな部屋に
音のない規則がある

呼吸よりも正確に
朝の光よりも淡々と
私は線を引く

一本
また一本

それは感情ではなく
ただの記録

「今回だけ」
その言葉はやわらかくて
どこまでも軽い

掌からこぼれる水のように
形を持たず
責任も持たない

けれど私は
それを拾い上げる

乾いた紙の上に
黒い線として

怒りは書かない
悲しみも残さない

ただ数だけが増えていく

二十一
二十二
二十三

その間にも
笑い声があり
温もりがあり
食卓があり

すべては
“続いているように見える”

あなたは言う

「今回だけ」

まるでそれが
無限に許される呪文のように

私は頷く

やさしく
正確に
間違えず

二十四
二十五
二十六

数字は冷たい
裏切らない
揺れない

だから私は
それだけを信じる

ある朝
世界は何も変わらず始まる

コーヒーの湯気
指先の温度
窓の外の光

そしてあなたは
また同じ言葉を選ぶ

「今回だけ」

その瞬間
何かが壊れるわけではない

むしろ
すべてが完成する

最後の一本が
引かれるだけで

二十七

音は小さく
ほとんど聞こえない

けれど確かに
終わりはそこにある

怒りは来ない
涙も来ない

ただ静かに
すべてが意味を失う

あなたの声も
仕草も
名前さえも

必要がなくなる

私は立ち上がる

何も奪わず
何も壊さず

ただ
持っていたものを
元の場所に戻すだけ


カップ
記憶

そして
あなた

世界から
一人分を引く

それだけで
均衡は保たれる

あなたは後で気づく

許されていたのではなく
数えられていたことに

けれどその理解は
もう届かない

私はもう
どこにもいないから

新しいページが開く

何も書かれていない白

静かで
正確で
完璧な余白

また
ゼロから始まる

誰かが
気づかないまま
終わるまで

24h.ポイント 6,611pt
3
小説 190 位 / 221,339件 現代文学 4 位 / 9,312件

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