『王妃の有給休暇〜二度と職場(王宮)には戻りません〜』

『王妃の有給休暇~二度と職場(王宮)には戻りません~』

王宮の窓は、今日も静かだった。
磨かれた床、整えられた書類、
誰も気づかぬように積み上げられた“誰かの努力”。

その中心にいた彼女は、
ある日ふと、羽根ペンを置く。

「愛はない。だが務めは果たせ」

その言葉は命令の形をして、
長い冬のように胸に降り積もっていた。

だから王妃は微笑んだ。
怒りでもなく、涙でもなく、
ただ事務的に、一枚の紙を差し出す。

――有給休暇届。

王は剣の重みを知っていた。
王冠の責任も理解していた。
けれど、

誰かが黙って背負っていた疲労には、
最後まで気づけなかった。

王妃が去った朝、
王宮は初めて“音”を立てる。

止まる時計。
山のような書類。
途絶える外交。
眠れぬ灯火。

それでも彼女は振り返らない。

風の吹く領地で、
土に触れ、笑い、
自分の名で働き、
自分の意思で眠る。

誰かのためだけではなく、
自分の人生を生きるために。

やがて王は知る。

完璧だったのではない。
彼女は、壊れそうな王国を
たった一人で支えていたのだと。

そしてようやく、
愛とは所有ではなく、
敬意の上にしか育たないことを学ぶ。

休暇明けの王妃は、
もう冷たい人形ではない。

誰よりも自由で、
誰よりも誇り高く、
玉座の隣に立つ。

その唇は静かに笑う。

「陛下。勤務中ですので」

けれど最後に、
ほんの少しだけ優しく続ける。

「愛を語るなら――
今度は、対等な契約を結んでからにしてくださいませ」

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小説 33 位 / 222,797件 現代文学 3 位 / 9,404件

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