『六十秒の決断』 その夜、テレビは戦争を告げた
『六十秒の決断』
その夜、テレビは戦争を告げた
赤いテロップが
居間の壁を染める
湯呑みの湯気が
一瞬だけ止まった
「米軍、イランを攻撃」
キャスターの声は平らで
時計の針だけが
やけに正確に進む
六十秒
それだけで
爆撃は始まったらしい
遠い砂漠の夜空に
閃光が走る
こちらでは
味噌汁の匂いが
まだ消えない
承認はあったのか
議会は
誰かの手は
問いは
湯気のように
天井でほどける
父はリモコンを握り
娘は現場でマイクを持ち
孫は画面を見つめ
誰も
ボタンを押していないのに
何かが始まっている
通知と承認の違いを
ニュースが説明する
通知は
言い切ること
承認は
待つこと
六十秒の決断は
待たない
遠い国の空に
火が落ちる
この部屋では
蛍光灯が
かすかに唸る
「正義だ」
「違憲だ」
言葉が飛ぶ
だが
瓦礫の下の沈黙は
放送されない
父はふと思う
退職の日
自分も
一人で決めた
これからは毎日一緒だと
承認を
求めただろうか
遠い爆撃と
近い沈黙
どちらも
同じ速さで
落ちてくる
六十秒
それは
ミサイルの軌道より短い
でも
一つの家庭を
凍らせるには
十分な長さ
テレビの光が
消える
窓の外
春はまだ
決断を急がない
風が
カーテンを揺らす
誰かが言う
「どう思う?」
その問いが
ようやく
遅れて届く
世界は揺れたまま
朝を迎える
六十秒で始まった夜は
何年も
尾を引く
それでも
食卓に
湯気は立ちのぼる
まだ
話し合う時間は
残っている
遠い空に落ちた火と
ここに残る温もり
そのあいだに
わたしたちは
立っている
その夜、テレビは戦争を告げた
赤いテロップが
居間の壁を染める
湯呑みの湯気が
一瞬だけ止まった
「米軍、イランを攻撃」
キャスターの声は平らで
時計の針だけが
やけに正確に進む
六十秒
それだけで
爆撃は始まったらしい
遠い砂漠の夜空に
閃光が走る
こちらでは
味噌汁の匂いが
まだ消えない
承認はあったのか
議会は
誰かの手は
問いは
湯気のように
天井でほどける
父はリモコンを握り
娘は現場でマイクを持ち
孫は画面を見つめ
誰も
ボタンを押していないのに
何かが始まっている
通知と承認の違いを
ニュースが説明する
通知は
言い切ること
承認は
待つこと
六十秒の決断は
待たない
遠い国の空に
火が落ちる
この部屋では
蛍光灯が
かすかに唸る
「正義だ」
「違憲だ」
言葉が飛ぶ
だが
瓦礫の下の沈黙は
放送されない
父はふと思う
退職の日
自分も
一人で決めた
これからは毎日一緒だと
承認を
求めただろうか
遠い爆撃と
近い沈黙
どちらも
同じ速さで
落ちてくる
六十秒
それは
ミサイルの軌道より短い
でも
一つの家庭を
凍らせるには
十分な長さ
テレビの光が
消える
窓の外
春はまだ
決断を急がない
風が
カーテンを揺らす
誰かが言う
「どう思う?」
その問いが
ようやく
遅れて届く
世界は揺れたまま
朝を迎える
六十秒で始まった夜は
何年も
尾を引く
それでも
食卓に
湯気は立ちのぼる
まだ
話し合う時間は
残っている
遠い空に落ちた火と
ここに残る温もり
そのあいだに
わたしたちは
立っている
あなたにおすすめの小説
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
【完結】潔く私を忘れてください旦那様
なか
恋愛
「子を産めないなんて思っていなかった
君を選んだ事が間違いだ」
子を産めない
お医者様に診断され、嘆き泣いていた私に彼がかけた最初の言葉を今でも忘れない
私を「愛している」と言った口で
別れを告げた
私を抱きしめた両手で
突き放した彼を忘れるはずがない……
1年の月日が経ち
ローズベル子爵家の屋敷で過ごしていた私の元へとやって来た来客
私と離縁したベンジャミン公爵が訪れ、開口一番に言ったのは
謝罪の言葉でも、後悔の言葉でもなかった。
「君ともう一度、復縁をしたいと思っている…引き受けてくれるよね?」
そんな事を言われて……私は思う
貴方に返す返事はただ一つだと。
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。