『第一体操、家族の掟』 〜79歳から2歳まで、毎朝6時30分に全員集合します〜

『第一体操、家族の掟』

〜79歳から2歳まで、毎朝6時30分に全員集合します〜

 朝は、音より先に気配で始まる。
 まだ暗さを少し残した空気のなかで、
 誰かの足音が床を鳴らし、
 誰かの咳が壁に触れて戻ってくる。

 六時三十分。
 それは時計の針ではなく、
 八つの体温が揃う時刻だ。

 七十九歳の指先は、
 昨日より少しだけ震えている。
 それでも、地面を踏む足は止まらない。

 二歳の腕は、
 世界を殴るみたいに回る。
 誰かに当たりそうで、
 でも、その軌道の中にしかない無邪気がある。

 四歳の瞳は、
 今日という一日を押印しようとする。
 紙の上の赤い丸に、
 自分が「ここにいた」と刻みつける。

 五十四歳の膝は、
 小さく軋みながらも、
 まだ跳ぼうとする。
 跳べない日は、揺れてでも、
 動きをやめない理由になる。

 二十九歳の肩は、
 見えない衝撃を受け止める。
 守るとは、大げさな言葉ではなく、
 ただ、そこに立ち続けることだと知っている。

 誰かが遅れ、
 誰かが早く、
 誰かが迷い、
 誰かが支える。

 それでも、
 なぜか揃う。

 音がある日も、
 音がない日も、
 雨の中でも、
 狭い部屋でも、

 揃う。

 それは正しさではない。
 完璧さでもない。

 ただ、
 そこに人がいるからだ。

 影が並ぶ。
 少し歪んで、
 少し重なって、
 それでも一列になる。

 昨日より少しだけ変わって、
 それでも同じように立っている。

 呼吸が重なる。
 足音が揃う。
 声にならない何かが、
 八つ分、そこにある。

 ラジオが鳴る前でも、
 鳴らない日でも、
 もう知っている。

 これは、音ではない。

 人で揃っている。

 そしてまた、
 朝が来る。

 六時三十分。

 今日も、全員いる。それだけでいい。

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