好きだと言わずにいられない。

古城乃鸚哥

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重なる音

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 貴史は、奏一から音源を借りて譜面を起こしている。
 奏一自身が初めて聞いた音源はオーボエとピアノの為の楽曲だったが、貴史に渡したのはバイオリンがメロディのものだった。その後貴史は他の様々な楽器の演奏版も購入したらしく、メロディとピアノ伴奏を紐解きながら、最良のベースラインとオブリガートのミックスチュアをひねり出そうとしていた。
 奏一は彼の真剣さに正直驚いた。本気で取り組みたい、といったのは自分の方だし、自分はいつでも本気で取り組んできていた。しかし、改めて「他人」の動向を気にしてみて、貴史の本気に脱帽した。この人はこんなにも、真面目で真摯に、時に孤独に音楽と向き合える人だったのか、と。
 これまでも尊敬はいしてた。奏でるチェロの音色は美しいし、心地よい。音楽に対する理解もあるし、彼の解釈は奏一の好みに近い。そして何より、人望があって誰からも好かれるその人柄に、奏一は密かに憧れていた。
 だが、よく考えてみれば、彼個人がどのように音楽に向き合っているのか、そういうことは気にしたことがなかったし、それを目の当たりにする機会もなかった。貴史は、陰ながら地道に努力する人間なのだと知った。そして、自分も負けてはいられない、と練習にさらに身が入るようになった。
 合わせる時は、本当に真剣に合わせた。他の音が気にならないように、音楽棟の個室を借りる。はじめようか、という貴史の一声の後、二人とも談笑の余韻を消して真剣な表情になる。そっと肩に手をおくような奏一の始まりの合図アインザッツから、貴史が自然に音を絡ませてくる。彼の伴奏は、追奏と先導が絶妙なバランスだった。奏一が弾きたいように走ると間違いなくついてきて、でも、時には貴史がメロディをエスコートする。ただの旋律と伴奏、という関係ではない二つの音に、奏一は感嘆するばかりだった。
 練習の初めには毎回必ず、一曲通して弾き切った。それから二人で感想を言い合って、どこをどうするとか、あれはよかったとか、課題を連ねる。その場ですぐに直せることは直して、合わせて、やっぱり戻して、などと試行錯誤を重ねていく。ただ合わせるだけで楽しいと思う、そういう領域から早々に脱して、より高みを目指して二人で歩んでいく。その感覚が奏一には心地よくも刺激的で、そしてどこか懐かしかった。


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