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4巻
4-1
1 王都リベリカ、初日から二日目
四十路のおっさんこと俺ノートは、フェンリルのヴォルフ、大精霊のマナ、エレキバードのライ、スライムのアクアといった気の置けない従魔達と共に、各地で異世界ならではのグルメを味わいつつ気ままな旅をしている。
……気ままな旅、と言いたいとこなんだが、実際そんな気楽な感じでもない。
神様からもらった九個のチート能力のせいで悪目立ちしているというのもあり、王様に会う必要が出てきたんだよな。
まあ、そんなこんなで王都リベリカにやって来た俺。
そうして、それまで同道してくれたファスティ領主達といったん別れて、ファスティ領の衛兵隊長で俺とは腐れ縁のマークと一緒に宿探ししてるわけなんだが……
◇
さーて、時刻は所謂、逢魔が時と言われている時間帯の、夜に近い感じか。薄暗いというより、もっと暗い成分が多くなっているな。
急いで宿屋に行って部屋を確保しないと!
……そう意気込んで探すも、従魔OKの所は空いてなかった。
仕方がないからマークに、ビスタ、オルフェ、オグら魔馬達を任せて、マークだけ厩のある宿に入ってもらった。
それで、俺と従魔達だけで商業ギルドに向かう。
俺が何をしようとしているかというと、まあ、何も変わったことをしようとしているわけではなく、単に空き家があれば借りようと思って相談に行くだけなんだが。
道行く人に、商業ギルドの場所を聞きながら歩くこと約四十分。辺りはすっかり暗くなってしまったが、ようやく商業ギルドを見つけた。
中に入るとさすがに利用者は疎らだったので、待つこともなく受付に行くことができた。
「こんばんは、本日はどのようなご利用でしょうか?」
受付嬢からそのように尋ねられ、俺は答える。
「こんばんは、相談があって来ました」
「どのような相談内容か、教えていただくことはできますか?」
「ええ。宿屋に行ったのですが空きがなく、それならいっそのこと、空き家を借りられないかと思って来たんだけど」
「そういう理由ですか……え~と、少しお待ちいただけますか?」
「大丈夫ですよ」
「それでは席を外しますので、ここでお待ちください」
受付嬢はそう言い残して、奥に座っている男性の所へ向かっていった。
その男性と話をしているようだが、たぶんあの男、サブギルドマスターか何かなんだろうな。もしくは物件担当というのもありえる線か?
話が終わると、二人してこっちに向かってきた。受付嬢が話しかけてくる。
「お待たせしました。こちらは住居、空き家等を一括管理している、シャーレさんと言います。ここからは彼と話し合ってください」
「ご紹介に与りましたシャーレと言います。よろしくお願いします」
「こんな時間にすまないけど、よろしく」
俺がそう応えると、シャーレはさっそく本題に入る。
「確認をいくつかさせていただいてもよろしいでしょうか」
「わかった」
「それでは、最初になぜ空き家を? ……という質問は、宿屋に空きがなかったからと聞いていますが、確かですか?」
「確かだ。俺の連れは一人宿屋に泊まっているが」
「お連れ様は泊まっているのに、あなたは泊まれなかったのですか?」
「あぁ。俺には従魔がいるのでな。こいつらが一緒に泊まれないなら、俺だけが泊まるわけにもいかないんだ」
シャーレは頷き、別の質問してくる。
「なるほど。それでは次ですね。空き家はいくつかあるのですが、希望の広さを教えてください」
「俺の周りにいるこの従魔達と、できれば連れと馬も入れるくらいの広さがあれば……ってところだな」
「なるほど。使う日数は?」
「それなんだが、特に決まってないんだ」
「そうですか……わかりました。それでしたらここは、半月ごとのお支払にしましょうか」
シャーレの提案に俺は乗っかることにした。
「それで頼みたい。今から内見できたりするのか?」
「申し訳ありません。明日からになります。本日はそうですね……商業ギルドの裏手か、冒険者ギルドの裏手なら使用できますので、そちらを使ってはいかがでしょうか?」
シャーレは従魔達を見ながら言った。俺の事情をいろいろ汲み取ってくれてありがたいな。
ともかく物件巡りは明日だな。
そうと決まれば、晩ごはんの用意をしないとなー。
商業ギルドの裏手にやって来た。さっそくテントを設営して結界を張ると、食事の準備を始める。
遅くなってしまったから、手早く出せる物にしよう。
オムライスと、鶏の魔物であるコケットの焼き鳥と、あとは付け合わせにスープでいいかな。
チキンライスはすでに作ってあるから、卵で巻くだけですぐにオムライスはできる。焼き鳥はストックしてあるしな。これならみんなをそこまで待たせなくて済む。
パパッと作っちゃったけど、味は悪くないんじゃないかな。
オムライスをおかわり用も含めて二十皿ほど作り終えて、【アイテムボックス】に入れて従魔のみんながいる所に歩いていく。
そのタイミングで、全員がテーブルに集まった。
「みんな、食事が遅れて悪かったな。多めに作ったからいっぱい食べてくれ」
そう声をかけてオムライスを出すや否や、アクアがオムライスに突撃した。ライもオムライスに飛び込み、マナもそれに続く。
ヴォルフが首を傾げ、どこか悲しげに念話してくる。
『主よ、我のがないように思うのだが。我は主に対して、何か悪いことをしただろうか……』
「いや、してないぞ。ヴォルフには申し訳ないが、もう少し待ってもらおうと思ってさ。というのも、中身のことを聞いてからにしようと思ったんだよ。……例えば、肉多めとか少なめとか全体の大きさとかな」
『どういうことだ?』
さらに首を傾げるヴォルフ。
「焼き鳥はよいけど、あの黄色いオムライスには肉がほとんど入ってないからな。ヴォルフのは、特別に希望を聞こうと思ってな」
『気持ちはありがたいが……それよりも我も空腹だ。何かすぐに食べられる物をもらえないだろうか?』
「わかった。じゃあ先に焼き鳥を出しておくよ。オムライスは完成次第持ってくるからな!」
それから俺は、ヴォルフ用のオムライスを作ることにした。
俺達の物に比べて倍ほど大きいオムライスを作り、スープを持って戻る。焼き鳥の皿はすでに空っぽだったのですぐにオムライスを渡すと、ヴォルフは勢いよく食べ出した。
その後は何事もなく、俺達は揃って寝ることにしたのだった。
◇
朝になった。
朝食を終え、そのまま商業ギルドに向かう。昨日の受付嬢を探していると、向こうから見つけてくれた。
「昨日の方ですね。少々お待ちいただいてもよろしいですか?」
「大丈夫ですが……昨日の方は?」
昨日担当してくれたシャーレがいないか尋ねると、受付嬢が答える。
「彼は物件の候補をリストアップしているのですが……もうすぐ来ますのでお待ちください」
「そうですか。それでは、あちらで待たせていただいてもいいかな」
「わかりました。戻り次第伝えます」
それからテーブルがいくつか置いてある所で待つこと十分くらい。姿を見せたシャーレが近づいてきた。
「お待たせしたようで申し訳ありません。準備が終わりました。今一度詳細をお聞きした後に、物件を見に行くという流れで大丈夫ですか?」
「それで大丈夫ですよ」
そうして、昨日の話をさらに細かく詰めてから、俺の要望に近い物件をいくつか見に行くことになった。
……その後内見をしたんだが、結論から言うと、用意してくれた物件を全部見に行くことはなく、二軒目の建物を借りることにしたんだよな。
俺、マーク、ヴォルフ、アクア、ライ、マナと魔馬達三頭が十分に入れ、何よりも風呂が小さいながらもあったことが決め手だった。
ちなみにお家賃は半月で20万ダル。
まあ、とにかく王都での拠点も確保できたことだし、マークを呼びに行くとしよう。
そのあとは、ファスティ領主の所にも行かないとな。
さっそくマークが泊まっている宿屋にやって来た。
受付でマークを呼び出してもらうとしよう。
「すみません。こちらにマークという者が宿泊していると思うのですが、呼んでいただけませんでしょうか」
俺が用件を伝えると、店員かオーナーかよくわからない人が確認してくる。
「あなたはどちら様でしょうか?」
「そのマークって奴と一緒にここまで旅をしてきた者で、名前はノートと言います」
そう説明すると、その人は頷いて「ここで待っているように」と言ってから階段を上っていった。
しばらくして、マークが下りてきた。
「ノート、どうしたんだ? 何かトラブルでもあったのか?」
「トラブルがあったこと前提になっているのが気になるが、まあいい。いやな、王都での拠点になる空き家を借りたので呼びに来たんだ」
「拠点? 借りた?」
マークは首を傾げている。
「テント暮らしは、王都に来てまでやりたくなかったからな。商業ギルドに聞きに行って、空き家を借りたんだよ。それで、マークはどうするのかって思ってな。先に言っておくけど、オグ達も入れるからその辺の心配はいらないぞ」
「そこまで大きい屋敷を借りたのか?」
「屋敷というほどではないけどな。たぶん、前は何かの店だったんじゃないかな。一応厩舎はあるし、全員で入ってもそんなに窮屈ではないだろう。まあ、そんなわけで建物を借りたから、マークがどうするか確認したいんだよ。ちなみにこのあと俺は、ファスティ領主の王都邸に向かうつもりだ」
「そうか。慌ただしいな」
「現状、俺達がどこにいるかわかってないんだからな。確実に領主は慌てると思うし」
「私の居場所は伝えてあったが……私もノートの家に移らせてもらうよ」
「わかった。玄関の鍵は二つ借りてあるので、一つ渡しておく。準備ができたら移動しておいてくれ」
「わかった、そうするとしよう」
マークの返事を聞いてから、俺は宿屋から出た。
空を見るとまだ昼飯には早い。よし、領主の所に向かうとしようか。
2 カインズの采配
ファスティ領主の王都邸に向かって歩いていると、貴族街に差しかかる所で、兵士の一団に呼び止められた。
「おい、お前! どこに向かっているんだ!?」
貴族街にスムーズに入れるわけはないよなーと構えていたので、イラつきはしなかったが、やっぱりこうなるよな。
俺は、声をかけてきた兵士に平然と答える。
「領主邸に向かうつもりですが?」
「お前が? そんな話は聞いとらん!」
そう怒鳴りながら、「帰れ」のジェスチャーをする兵士。
んー、かなりイラつきはするが、このあとこいつがどんなふうになるのか、楽しみにもなってきたな。
あいつの後ろには……ファスティ領主の執事、カインズが見えていることだし。
いい機会だし、俺の敬語の練習相手になってもらおうかな。
「そうですか。それなら、領主邸にいる執事のカインズさんを呼んでいただけませんか?」
「しつこいな。お前のような下賎の者が、我々王国兵士と話そうとすること自体間違っているんだ! さっさと帰らないと痛い目に遭わすぞ!!」
そこで、兵士の真後ろにいたカインズが話に加わってきた。
「誰が誰を痛い目に遭わせるというのです?」
すると兵士は、自分の言葉に酔っているのか、背後にいる相手が誰かも確かめないまま言葉を発する。
「誰だ! 私の邪魔をするならお前も取っ捕まえ、て……」
おっ、気づいたようだな。まあ、もう遅いが。
カインズが冷たく言う。
「ほう、私を取っ捕まえると言いましたか? よろしい。やってもらいましょうか」
この兵士は、周りの兵士とは身なりが違うから隊長っぽいが……しかし前々から思ってたが、この国の兵士の隊長はバカが多いよな。以前相手にした奴もそうだったけど、こいつも大概だ。
あーあー、汗だくになってるよ。
「いえ、あの、あなたに言うつもりなどはなく、その……」
「私に言うつもりがなかった? なら誰に向かって言うつもりだったのですか? 私は貴族街のほうから来ましたし、仮に私でなかったとしても、あなたの後ろから声をかけられるのは貴族の方々でしょうね。つまり、あなたは畏れ多くも貴族に何か言うつもりだったのですか?」
「いえ。滅相もない! 平民に言うつもりだったので……」
「貴族街から来る平民ですか? その場合はつまりは……誰かしらの貴族お抱えの商会の者に、罵声を浴びせかけようとしていたと……」
「いえ! そうではなく」
「ふぅ。あなたの話はよくわかりませんね」
このままだとヤバいと思ったのか、隊長は八つ当たり気味に俺を睨みつけると、カインズに向かって言う。
「あとでしっかりとお詫びしますので、ほんの少しだけお時間をいただけませんか?」
そうして隊長は、俺を睨みつけたまま怒鳴る。
「おい、貴様! お前が来たせいでややこしいことになっただろうが! こっちに来い!」
兵士達の休憩室のある建物に、俺を連れていこうとする隊長。
いや、こいつまだわかってないのか? 後ろでカインズが怒りの表情を浮かべているぞ? まっ、わかってたらこんなことはやらないよなー。
「さっさとこっちに来い! お前ごときのせいで、このあとこちらの方にお詫びをしないといけなく……」
隊長は最後まで言葉を言えなかった。
というのも、カインズの怒りの言葉で掻き消されたからだ。
「あなたは、誰に向かって口を利いているのですか?」
隊長はまだ状況が呑み込めず、首を傾げる。
「は、はあ。いえ、あなたにではなく、この平民に言っているのです。先ほども申しましたが、ちょっとお待ちいただけないでしょうか。すぐにこの者を牢屋に入れますので」
「ほう。この方は、我が主、ファスティ領主様の大事な客人。そんな大事な方を牢屋に入れると? しかも、平民と言いましたが、あなた自身はどうなのですか? 貴族街の兵士はいつから貴族になったのでしょう?」
隊長は目を白黒させる。
「いや、えっ? あの、その、私は王国兵士であって貴族では……いや、それよりも本当にこちらの方は領主様の客人で?」
「そう言っています」
カインズがそう答えたところで、俺も会話に入る。
「カインズさん、俺からもこの隊長に話してもいいかな?」
「ええ。ノート様もこのような言い方をされたら、言いたいことの一つや二つ出てくるでしょう。ご存分にお話しくださいませ。その後、こちらでしっかりと話をつけますので」
よし、カインズから許可を得たし、俺も言ってやるかな。
俺は冒険者ギルド証を出しながら話す。
「あんたの言う『ごとき』の俺は、Aランク冒険者のノートという。Aランクの冒険者は貴族に次ぐ立場と聞いていたのだが……王国兵士の認識ではそうではないらしいな。しかも、言うことを聞かないという理由で牢屋に入れられると……? 俺は貴族や王国兵士の常識に疎いので知らないんだが、これが正しいことなのか教えてくれないか?」
隊長はようやく事態を理解したのか、慌てて答える。
「え、えっ? いやっ、あのっ……その、知らぬとはいえ大変失礼なことを……」
だが、俺は隊長を無視すると、カインズに向かって言う。
「カインズさん、俺の……いや、私の今後の行動に差し支えることをたった今されてしまったので、領主にお伝え願えますか? 領主の要請である、王との謁見ができなくなりましたと。なぜ、と問われたならばこうお伝えください。『貴族街にすら入れない私が、どうやって王と会えると思われるのか?』と」
やらかした隊長だけでなく、周りにいた兵士全員が顔を真っ青にした。
カインズはそれを横目に見ながら俺に話す。
「ノート様、それはいけません。このようなことであなたが来なくなったとなれば、この隊の者全員とその家族、一族までもが…………何卒ご再考を」
カインズは役者だな。
俺はさらにカインズに問う。
「それでは、私は如何ように行動いたしましょうか?」
「私にお任せくださいませんか。ノート様にも、周りの人間にも、悪くないようにいたしますので」
「では、お願いします」
そう言って、俺は見る側に回る。
カインズが兵士達に向けて話しかける。
「あなた達も連帯責任を負いたくないでしょうから、いくつか指示させてもらいます。これは、ファスティ領主様の筆頭執事カインズからの要請です。最初に、その隊長を拘束なさい。続いて……あなたでよいです。上役に当たる者を呼んできなさい。それからファスティ領主邸に行ってください。火急だと伝えて、ファスティ領主様にここへ来てもらうのです。そのとき、下手をすると大事になると言いなさい」
ふと隊長のほうを見ると、抵抗する気力もなくなっているようだな。素直に兵士達に拘束されている。まあ、兵士達も、自分達とその家族にも累が及ぶ可能性があると言われてるから必死に動くわけだ。
しかし、累が及ぶというのはカインズが言っているだけで、俺的には周りにまで話を持っていく気はないんだがな。
待っていると、ヴォルフから見知った者が近づいていると念話が入った。方角を聞けば貴族街からだったので、ファスティ領主だろうと判断して待つことにした。
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