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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
一触即発
しおりを挟む「ーーそうか。話すことは出来ないんだな。……分かった。なら、マリエール嬢、君に直接訊こう」
学園長先生は真っ直ぐ私を凝視する。その視線の意味を私は即座に理解した。
つまり、私に魔法具を使用するのも吝かではないってことね。さすがに殿下には使えないわね。
でもーー私なら使える。
そりゃあそうよね。私は婚約者でしかない。殿下の取り替えは出来ないけど、婚約者の取り替えは可能だものね。王太子妃の教育もまだギリ間に合うし。
「申し訳ありませんが、お話することはありませんわ」
それらを理解した上で、きっぱりと断った。笑みを添えて。
「そうか。それは残念だ」
学園長先生の目はとても冷たい。
学園長先生は悪目立ちしている私を、今まで色々気に掛けてくれていた。教育者の立場だけでなく、大切な殿下の婚約者だからじゃなく、親友の娘だからでもなく、私個人を気に入り見てくれていた。
だけどそれは、個人的な話に過ぎない。
ここから先は、公人としての話。
ただそれだけ……。
「そうだな。俺も残念だ」
殿下が私の前に立つ。背に私を庇ってくれた。
まさに、一触即発。
「そこを退きなさい。と言っても、カインは素直に退かないよな」
心底困った風の学園長先生。
「分かってるじゃないか」
殿下は緊張と警戒を解かない。反対に引き上げる。
「ああ。よく分かっている。
カイン。君が心からマリエール嬢のことを愛していることは。
でもーーこれとそれは別の話だ。分かるよね、カイン」
その言葉と同時に、背後に人の気配がした。頭で理解するよりも早く体が動く。反射的に。私は一歩後ろに引き体を斜めにずらした。掴もうとするサクヤの手から逃れると同時に、攻撃を繰り出していた。全てが流れるような動きだった。
人の体には急所と呼ばれる場所がある。そこを突かれると、どんな玄人でも一溜まりもない。私は容赦なく、そこを攻撃していた。崩れるようによろけるサクヤの体を受け止めた時に、私は彼女を攻撃していたことを知った。
「…………ごめんなさい」
小さな声で呟く。
その間も、殿下は視線を学園長先生から外さない。外せなかった。外した途端、何らかの攻撃を仕掛けてくるって分かってたから。
その緊迫した間も、インディー様は微動だにしなかった。サクヤを昏倒させたのに。
「…………全く、面倒なことになりましたね」
心底不機嫌な声が近くからした。言い終わらないうちに、資料室全体が凍り付く。私たちの足元を除いて。当然、学園長先生の足元もだ。
魔法を放ったのはインディー様だった。
「何、ぼけっとしてるんですか。二人とも。さっさと地下に向かいますよ」
不機嫌な声を隠そうとはせずに、インディー様は私と殿下を促す。
その声に弾かれるように、私と殿下はインディー様と一緒にその場をあとにした。
その場を離れる瞬間、学園長先生に目をやる。
え……?
学園長先生は俯いてはいたが笑っていた。見間違いじゃない。口角が少し上がった程度だったけど、確かに笑っていた。それも、さっきまでの黒い笑みでも、ドSの笑みじゃなくて、柔らかい優しい笑みだった。
もしかして、一芝居うってくれたの……?
「……あいつとサクヤに、借りを作ってしまったな」
殿下がポツリと呟く。殿下も気付いてたのね。
「そうですね。全てが終わったら、皆に謝らないといけませんね」
「そうだな」
インディー様にも私たちの会話が聞こえている筈なのに、何も突っ込んでこなかった。言いたいことは沢山あるのにね。
色んな思いを引きずりながら、目指すのは勿論地下。禁錮図書を保管している部屋だ。
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