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第四章 これから先の人生はイージーモードでお願いします
不審者
しおりを挟むどんな精神状態でも、どんな場所でも寝れる。
これって、ハンターには必要不可欠な要素なんだよね。だって、睡眠不足は集中力が欠ける原因でしょ。これがなかなか上手くいかなくて、苦労している人って実は多いのよね。幸いにも、私は全然平気。なので、あんなことがあった後も、ちゃんと仮眠がとれた。
「仮眠はとれたようですね、マリエール様」
陽が完全に暮れ、大方の人間がベッドに入ろうとする時間。
一人、宿屋から出ようとしたら、後ろから声を掛けられた。振り向かなくてもわかる。足を止め、振り返る。やっぱりフランクだった。目深く被っていたフードを取り一瞥する。
「義姉様たちの護衛長をしている貴方が、ここにいていいのですか? フランク様。まだ、増援は来ていないのでしょう」
思っていたよりも冷たい声で答えた。あえて、護衛騎士に様を付ける。うん、これは嫌味だよ。これくらいの意思表示はしても責められないよね。
フランクは僅かに顔を歪めるだけで、すぐに登場した時の表情へと戻る。
「増援は来ていませんが、フランシス様の御父上が来られたので護衛の心配はいりません」
そういえば、夕方騒がしかったわね。私は関わらないよう食事は別にとったから、誰が来たのか気付かなかったわ。ふ~ん、来てたのね。愛されてるわね、義姉様は。でも、これとそれは違う。
「心配はなくても、グリード公爵家の騎士として、それは許されないと思いますが」
さっさとどこか行って欲しい。邪魔なんだけど。時間も勿体ないし。
「フランシス様の御命令です。とても、心配なさっておいででした」
つまり、お目付け役ってこと!? 義姉様に悪いけど、いらないお世話だわ。
「お断りしますわ」
なので、義姉様に悪いけど、語尾を強めてキッパリと断った。そのまま踵を返して行こうとしたが、フランクは付いてくる。
「お供します」
「お断りします!!」
足を止め、再度同じ台詞を繰り返した。それも強く、睨み付けながら。すると、フランクは表情を変えずにこんなことを言い出した。
「同行して、何か困ることがあるのですか?」
一瞬、怒りで言葉に詰まった。
そう……貴方も、部下と同じ考えなのね。いや、それよりも悪質。私が野盗の仲間かもしれないって疑ってるのね。
確かに、私が姿を変えてここにいるってことに関して、不審感を持っていることはわかっていた。義姉様の手前、そのことを彼は口にはしなかった。部下とは違い。だとしても、まさか、野盗と私を繋ぎ合わせようとはね……かなり無理があると思うけど。
あらためて、理解したわ。
彼らにとって、私はグリードを名乗ってはいるが、只の不審者なのね。だからできれば、護るべきグリード公爵家の皆様には、近付けさせたくはないってわけね。護衛として。
よくよく理解したわ。
落ち着きなさい、マリエール。ここで、感情的になったら駄目。相手がどう考えようと構わない。するべきことをするだけ。いつもと同じようにね。気持ちを切り替えなさい。
私は自分にそう言い聞かせた。表に出ようとした怒りの感情がスーと引いていく。怒りはある。悲しみもある。痛みもある。それに蓋をしただけ。今はそれでいい。
「…………わかりましたわ。好きになさい。但し、付いてこれなけば置いて行きます。宜しいですか」
別に喧嘩を売ってるつもりはない。でも、フランクにとったら、喧嘩を売られたと思ったみたい。僅かに目を見開いた後、眉をしかめて答えた。
「構いません」と。
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