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第四章 これから先の人生はイージーモードでお願いします
強がり
しおりを挟む取り敢えず、コットに戻って来た私たちは宿屋に場所を移す。
騎士の一人が魔鳩便をアクセにある屋敷に飛ばした。これで、迎えがすぐに来るわね。勿論、私のことは伏せてもらったわよ。
「仮眠をとる前に、一つこの子たちに訊きたいことがあったのですが……無理みたいですね」
マリアとアインはおねむの時間に入ってるし。寝顔、マジ天使だわ。癒やされる~。子供って、どこか苦手だけど見てる分はいいわね。
「訊きたいことって、この子たちがマリエールちゃんだと気付いたことかしら?」
「ええ。そのことです」
私は頷く。
ずっと疑問に感じていた。姿形が全く違うのに、何故この子たちは私に気付いたのか? 気付かれるような振りをした覚えがないから、尚更わからない。
「簡単よ。この子たちはーー」
「フランシス様!!」
護衛騎士の一人が義姉様の言葉を遮る。フランクと呼ばれた騎士の後ろに立つ騎士だった。
どうやら、私に聞かれたくない内容のようね。スキルに繋がることかもしれないから、警戒するのは理解できるわ。できるけどね……
義姉様たちが私をマリエールと認めても、彼の中で、私はグリード家の人間ではなかったということなのね。だから止めた。主君の家族を護るために。それだけのこと。
ショックを受けてないといえば嘘になる。でもまぁ、初めてのことじゃないし、文句を言っても仕方ないしね。人の価値観なんてすぐに変わんないわよ。だとしても、これだけは言いたい。主である義姉様の言葉を遮るとはどういうことかってね。口を開き、そう言おうとした時だった。
「フランク、部下の躾がなっていないわね。主である私の言葉を遮り、あまつさえ、私の義妹であるマリエールに対しその態度、決して許すことはできないわ」
義姉様は凍るような低い声でそう恫喝すると、同時に言葉を遮った騎士は、膝を付き座り込んでしまった。苦しそうだ。
「……威圧」
驚いたわ。まさか、義姉様が【威圧】を使えるなんて。見えない鎖で、座り込んだ騎士は縛られている。肉食獣に食べられる瞬間の草食獣のようね。これじゃあ、指一本動かせないわね。
座り込んでいる騎士を、義姉様はとてもとても冷たい目で一瞥してから、もう一人いる騎士に視線を向けた。
「フランク、今回の件、義お母様にも義お父様にも報告します。宜しいですね」
否と言える者はこの場に誰もいない。
「申し訳ありませんでした。罰は後でいかほどにもお受け致します」
頭を深々と下げるフランク。そのフランクを冷たい目で見下ろす義姉様。
「謝る相手が違うでしょ」
義姉様の言葉に、フランクは私の方に体を向け、さっきと同様頭を深々と下げた。
「マリエール様、部下が失礼なことを言い、申し訳ありませんでした」
「別に構いませんよ。慣れていますし……義姉様、私は下がりますわ」
「…………マリエールちゃん……」
義姉様が私を引き止める。その声に気付きながらも私は部屋を出た。そのまま、自分がとっている部屋に向かう。廊下を歩いていると、溜め息が漏れた。
慣れている……
その言葉を口にした時、胸の奥が鋭い痛みがはしった。本当は慣れてなんかいない。ただの強がり。それでも、私はその言葉を口にする。
今までの人生の中で、私は何度も何度も呪文のように同じ言葉を繰り返してきた。各々意味合いは違うけどね。私にとってその言葉は、回復呪文と同じようなもの。
私から強がりを取り上げたら、いったい何が残るのかな……
「………何も残らないわね」
一人自問自答する。誰もその声を聞いた者はいなかった。
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