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第五章 呪いが解けるまで楽しむ予定です
ガチギレです
しおりを挟む「はぁ~~!? うっせーな。わざわざ面倒くさいことしなくても、いつも通りやりゃあいいだろーがよ」
素直に提出してくれないとは思ってたけど、これはないわ……
開口一番、そう吐き捨てたのは第一部隊の隊長さん。
虎の獣人だからか、ガタイはとても良い。だけど、頭はとても残念だった。脳筋も極めればこうなるのね。勉強になったわ。
でも、思ったより怖くないのよね。ケルベロスさんやヒドラさんの方が、断然怖かった。比べることができないくらい。この虎、隊長さんよね?
「そういうわけにはいきません!! 予算書を提出してください、隊長。今日中に!!」
ニコさんも負けてはいない。子供と大人ぐらいに体格差があるけど、言うべきことは怯まずに告げる。こういう人が上司だと部下は幸せよねって、心底思うわ。そんな上司を自ら放棄するなんて、ほんと馬鹿よね。
「うっせーな!! いつも通りやれって言ってるだろーが!! 出したことにしてよ」
「できません。今日中に提出されないのなら、今年の予算はおりません!! それで、宜しいのですか!?」
平行線の言い合いが続いている。これ、話し合いじゃないよね。
「あぁ!? そんなことしてみろ、腕をもいでやる」
殺気を放ちながら、虎獣人はニコさんの胸ぐらを掴み上げる。足先が宙に浮いた。息苦しさからか、ニコさんの顔が赤く変色する。
「ニコさんから手を離してくれますか? 隊長さん。隊長ともあろう方が、脅迫ですか……レベル低くないですか? 色々な意味で」
私は魔界に関わりがない。だから、口は出すまいと思ってたけど、ニコさんに危害を加えるなら話は別よ。
ニコさんを掴む腕を掴み、私は言い放つ。【身体強化】の魔法を掛けた手でね。わずかに、虎獣人の手が緩む。
「はぁ!? うっせーな、部外者は引っ込んでろ!!」
虎獣人は掴まれた腕をそのまま振り、ニコさんごと振り払うつもりだった。でも、それはできない。【身体強化】を全身に掛けたからね。ビクともしない。
「ニコさんを離しなさい。これ以上力を入れると、折れますよ」
私は更に強く、虎獣人の腕を掴みながら命じた。
「人間風情が!! 舐めたことを抜かすな!!」
雄叫びと同時に、虎獣人の覇気が格段に上がった。
本当に、脳筋よね。
私はわざと力を少し抜く。すると、虎獣人は私とニコさんを力任せに振り払った。吹っ飛ばされる私とニコさん。
でもそれは、私が狙っていたことだった。だって、あのままだとニコさんが怪我する危険性があったからね。
私はニコさんの背後に回り込み、その体を抱き止めた。激しく咳き込む、ニコさん。私はその背を撫でる。
「大丈夫ですか? 呼吸、元に戻ってきましたね、ニコさん。あ……首、少し痣になってますね、ほら、これで綺麗になりましたよ」
ニコさんの首元に【回復魔法】を掛けた。
「私のことはいいです!? マリエールさんこそ、怪我はありませんか!?」
私の両腕を掴み、確認するニコさん。本当に良い人だ。人じゃないけど。
「てめぇら!! 俺を無視するんじゃねぇ!!」
あ~~脳筋が怒鳴ってるわ。あれで、隊長なんて、よっぽど人手不足なのね。神獣様が牙を剥き出しにしている時点で引かないなんて、馬鹿としか言いようがないわ。状況を正確に判断できないのは、隊長としては失格なんじゃない?
全く。面倒くさいけど、こんな脳筋相手には、言葉よりも拳の方が有効だからね。行くとしますか。
「神獣様、ニコさんをお願いします。少し遊んできますわ」
「なっ!? 何を言ってるんですか!! マリエールさん、危ないです!!」
慌てて、ニコさんは私を止めようとする。
「大丈夫。ケルベロスさんやヒドラさんに比べて、遥かに弱いと思うから。それじゃあ、行ってきますね」
でも、油断はしない。どんなに脳筋でも、一部隊の隊長をしてるんだからね。
あんまり待たすと、隊長さん突っ込んで来そうだわ。こっちを、殺気丸出しで睨んでるしね。いつの間にか、観客増えてるし。プライドをへし折るにはいい舞台よね。
「マリエール」
厳しい声で、神獣様が私の名を呼ぶ。いつもとは違う雰囲気。
もしかして、怒ってる? 勝手なことをしたから?
「……我慢できませんでした。申し訳ありません」
素直に謝る。私のことを大事に思ってくれてるから、怒ってるんだってわかってるから。
「全く……止めても無駄だとわかってはいるが、無茶はするな。こやつのことは心配しなくてよい」
「はい。行ってきます」
私は鍛錬場の中央で待つ虎獣人に視線を向けた。
「神獣様!!」
背後でニコさんの悲鳴が聞こえる。
「ニコよ、心配する気持ちはよくわかる。人間が獣人に、それも上位種の虎獣人に勝てるとは誰も思うまい。だが、マリエールは強いぞ。黙って、見ておれ」
神獣様、最高のエールだよ。ありがとう。
応援ありがとうございます!
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