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第七章 痺れを切らした婚約者が襲来しました

一夜明けて

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 一夜明けてーー。

 睡眠は取ったはずだけど、私も神獣様も妙に疲れていた。主に精神的にね。

「……なぁ、マリエール、奴は来ると思うか?」

 やけに疲れている私を心配する皆を宥めながら食事を終えると、私と神獣様は皆から離れて路地裏に移動した。聞かれたら困るから、念のために、音が漏れないよう結界を張る。

「たぶん、いえ、宣言した以上、間違いなくカイン殿下は魔国に来ますね」

 カイン殿下は一度口にしたことを翻すことはまずない。昔から、有言実行だったのよね。当時は、そこが男らしくて、頼りがいがあって、私は彼を愛していたの。

「あの障壁を超えてか?」

 私の心の声を聞くことが聖獣様は、嫌悪感が混じった声で尋ねてくる。

 聖獣様が、私を番にしたいって考えているのは本当かもしれない。直接的なことは言われてないけど。ちょっと、嬉しいかな。私の気持ちが、愛だとはわからない……少なくとも、アレクカインに抱いていた気持ちとは違うけど。

 少し逸れたわね。障壁って、ケルベロス様のことね。正式なルートなら。別ルートに入っても大丈夫な気がするけど。さりげに、毒無効のスキル持ってそうだわ。

「超えて来るでしょう。あのカイン殿下ですよ。レベルがカンストしててもおかしくはありませんわ」

 だって、カイン殿下も私と同じように転生を繰り返してきたのよ。

「……そうだな。間違いなく突撃してくるな」

「それがいつかはわかりませんが、二、三日中には来るのでは?」

 冷静に考えて、そう答えた。

「そんなに早くか!?」

 私の答えに、神獣様は驚く。

「魔国までのダンジョンを考えれば、神獣様の反応は当然ですわ。でも、最大難関であるケルベロス様は、間違いなく倒されますわ。なら、後は簡単ですよね。あのカイン殿下が罠を回避するなんて朝飯前ですし、罠で殺られるなんて思えなませんわ。そんな間抜けな姿、想像できない」

「……マリエールにそう言われたら、否定できんな」

 神獣様は面白くなさそうに答える。

 そこまで話していて、私は大切なことを忘れていた。カイン殿下の闇を。

「それよりも、神獣様にお願いがあります!! 至急、魔王陛下に連絡を取ってください!!」

「魔王にか?」

「早く!!」

「わかった」

 できるのね、よかった。私に急かされるように、神獣様は魔王様と連絡を取ってくれた。

『どうしたのじゃ? 慌てて。なんじゃ、念願が叶ったのではないのか……ヘタレよの』

 何もない空中に浮かぶ魔王様の姿に、私はホッとする。だって、ケルベロス様に危険が及べば、必ず魔王様はケルベロス様の所に駆け付けるからね。魔王様がまだ執務室にいるってことは、まだカイン殿下がダンジョンに来ていないってこと。

『魔王様!! 今すぐ、ケルベロス様を避難させてください。カイン殿下が突撃して来ますから。彼の闇は深いです。ケルベロス様にとどめを刺す可能性が高いです』

『元勇者がなぜ、突撃して来るのだ?』

 魔王様の質問はもっともだわ。でも、

『その話は後です!! 早く!! いいですか!! くれぐれも、直接相手をしないでくださいませ。私たちもすぐに戻ります!!』

 魔王様は私を見た後、神獣様に視線を移した。神獣様は小さく頷く。

『わかった、マリエールの言う通り、今からケルベロスの保護に向うのじゃ。安心せよ、元勇者には手を出さぬ』

 そう魔王様は告げると、通信を閉じた。

 間に合えばいいんだけど……間に合うよね。

「神獣様、私たちも戻りましょう。神獣様?」

 動かない神獣様に、私は訝しげな声を上げる。

「……このまま、逃げないか?」

「それ、本気で言ってますか?」

 思いもしなかった返事に、私の声は自然と低くなる。

「夢の中は、まだ仕方なかった。だが、直接会うというなら話は別だ」

 神獣様の瞳は濁りもなく、私を真っ直ぐに見詰めている。私は小さく息を吐く。

「神獣様が私を心配する気持ちはありがたいです。だからといって、友人である魔王様に迷惑を掛けてよろしいのでしょうか? せっかく、落ち着いた生活をしている魔族の方々に、迷惑を掛けていいとお考えですか? もし、そう考えているのなら、私は神獣様との距離を考え直さなければなりません」

 はっきりと、私はそう告げた。

「マ、マリエール!! 我が悪かった!! すまぬ!! だから、我を嫌わないでくれ!!」

 神獣様がとても焦っている。クゥ~ンって鳴き声が聞こえてきそう。自慢の尻尾も完全に下っている。

「……私が神獣様を嫌うわけはありませんわ。このまま見て見ぬ振りをするのなら、距離を取るかもと言っただけです」

 もう一度、繰り返す。

「それは嫌だ!! 一緒に戻るぞ!!」

「はい!! 神獣様!!」

 神獣様の体が大きくなる。私が乗りやすいように、伏せをする。

「乗れ!! しっかり、掴まっていろ!!」

 そう私に注意すると、神獣様は走り出した。

「「「マリエール!?」」」

 背後から焦る皆の声がした。

「すみません!! 急用ができたので、先に王都に戻ります!!」

 私はそう大声を上げると、落ちないように、神獣様の毛を自分の体に巻き付け結んだ。


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