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第八章 今度こそ絶対逃げ切ってやる
誓約の剣
しおりを挟む「……誓約の剣か」
硬い声で神獣様がポツリと呟くように答える。
「さすが神獣様、よくご存知で」
「三本も必要なのか?」
まだ硬さはあったけど、少し呆れた口調で神獣様は尋ねる。
「姿を見せてますからね。最低限三本は必要でしょう」
そんな会話を神獣様としていたら、ラックさんがやや青い顔で訊いてきた。
「誓約の剣って、マジか!? どこで、そんなもん手に入れた!? っていうか、使うの躊躇わないか、普通」
軽い感じのラックさんはどこにいったのやら。
「禁止魔法にされてから長いですから、もう廃れてる魔法になりますよね。とはいえ、使えないわけではありませんよ、ラックさん。誓約の剣……名称はマシですけど、非人道的なゲス魔法ですからね、戸惑うのも理解できます」
この魔法の由来は、騎士が主に剣を捧げるのが由来しているらしい。
つまり、主に命を捧げるってこと。
ここまでなら、美談だよね。でも、この魔法は違う。一度捧げれば、取り消しはきかない。そこに、騎士と主は存在しないのだから。
存在するのは、蹂躙される者とする者だけだ。
主が命令を一つ下すことに、小さな剣は蹂躙される者の心臓を突き刺す。もし、命令に反した場合、それは自分の命を奪うだけでなく、血縁関係者、この場合は孫ぐらいまでかな、全員呪いを受けて苦しむの。最悪、命をおとす。
そして、その呪いを解ける魔術師はいない。
「わかってて使うのか!?」
「カインは使う気満々ですね」
「……止める気はないのか?」
そう尋ねられて、私は首を傾げる。
「なぜ、止める必要が? 私が提案したのに? 自身の破滅と家族の破滅、防ぎたいのあれば、私たちのお願いをきいてくれたらいいだけのこと。そもそも、大人しく退場した私たちにちょっかいを出すからこうなるのです」
「マリエールちゃん、もしかして、かなり怒ってる?」
「そうですね、不快ではありますよ。あまり良い思い出があった国ではありませんが、それなりに愛着はあります。理不尽な死に方をした死体を見たくはありませんから」
諦め切り捨てた人たち。
嫌いじゃない。でも、好きにはなれない。だけど、私関係で死ぬのを見たくはない。それなりに、一度は家族でありたいと思った人たちだから。
「…………魔王様や神獣様が、マリエールちゃんに一目置く理由が、なんとなくわかった気がする」
力なく答えるラックさん。とても疲れているみたい。
「どういう意味です?」
「マリエールちゃんはとっても優しいってこと。カインよりよっぽど王様向きだよね」
ますます、意味がわからない。今の私を見て、優しさってどこにあるの? 普通、非道さに引くところだよね。
「……ラックさん、頭打ちました?」
反対に私が引くわ。
「酷っ!! マリエールちゃんは優しいよ。悪ぶってるけど、カインとマリエールちゃんは一番楽な方法をとらなかったよね。血を流さない道を選んだ。それって、優しいと言えない」
ラックさんの言葉に、私は目を見開く。
こんなこと言われたの初めてだから。
「…………ラックさん」
そう呟いた途端、ラックさんが視界から消えた。犯人はカイン。綺麗に吹っ飛ばされてる。
「おい!! 俺の女にさっきから何してる!?」
ガチギレしたカイン。
どうやら、私たちが話しているうちに終わったみたい。って、今は安堵している場合じゃないわ。
「ラックさん!! 大丈夫ですか!? 今、回復魔法掛けますね」
私はラックさんに駆け寄り、慌てて回復魔法を掛けた。傷が治ったのを確認してから、私はカインに対して睨み付け怒鳴った。
「何してるの!! カイン、最低ね。ラックさんが何をしたの!? ただ話してただけだよね。なのに、内蔵までいくような攻撃をして。ほんと、最低!! 自分が気に食わなかったら、平気で攻撃するんだ。帰ろう神獣様」
私は気を失ってるラックさんを抱き上げると、私は振り返ることなく窓から飛び降りた。
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