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第八章 今度こそ絶対逃げ切ってやる

今さらだよね

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 魔王様は神獣様と同じように私の心の声を聞くことができる。だから、私が部屋を抜け出さないように見張りが付いてる。姿は見せないけど、天井裏に三人隠れてるわね。あとは……外にも。

 なんか……こういうの懐かしいな。まだ実親が私の親だった時、離れという物置小屋に追いやられて生活していたら、暗部の人間が同じように私を監視していたわね。でも、その理由は正反対だったけど。

 魔王様の気持ちは嬉しい。だからこそ、この魔国にいるのは間違いだって思っている。皆を危険な目に合わせているのだから、この瞬間もね。この思いを口に出したら、子供がそんな心配するなって怒られるわね。でもね……これは私が決着を付けないといけないことなんだよ。

 カインは完全に壊れてるから……私の居場所を壊しにくるわ、絶対に。闇魔法を使ったことがよけいに拍車をかけたかもしれない。

 どっちにせよ、カインは必ず私の目の前で壊そうとするはず――

 そうすれば、私はカインと同じように完全に壊れてしまうから。壊れた心の私でも、カインにとっては自分の居場所になるんだろうし、私の居場所にもなるんだろうね。不毛すぎると思うけど。

 壊れているカインだけど、やってはいけないことがある。これをやったらおしまいってことがね。私は魔王様やニコさん、この魔国で出会った人たちを護りたい。

 同時に、カインに一線を越せたくはないの――

 半分以上は越えてるとは思うけど。ここまできて、なに考えているんだと、怒られちゃうわね。今さらって飽きられるでしょうね。だって、分岐点はいくつもあったんだから。

 糞女神を倒したあと、私は常に分岐点の先にカインがいない道を歩いてきた。自分からカインを切り捨てたのに、最後の最後で、私は彼がいる分岐点へと方向転換したのだから。

 色々な人の想いを切り捨てて。大事な人を傷付け、その想いを無下にしてもね。ほんと私って、絶対碌な死に方はしないわ。

 私は部屋を音を立てずに抜け出す。見張りの目を騙すことなんて、私には簡単。私が本気になった認識阻害の魔法は、魔王様でも騙せるわ。マックスまでレベルを上げているからね。まぁそれでも、カインには見抜かれるけど。彼の場合は、私の魂の色を見ているから。それって、完全にイカサマだよね。それを知った時は脱力したよ、ほんと。

 カインは私に追跡魔法をかけている。私の位置が常にわかるようにね。解くこともできたけど、解いたら解いたで面倒くさいことになるからそのままにしていたの。

 それが幸いしたわ。追跡魔法をかけた者の位置を逆に辿ることができるから。追跡魔法を解かない限りね。だから私は、カインの居場所がわかる。同時にカインも気付くよね、私が近付いているのが。

 私は走る。

 暗闇の中を――

「…………回り道しすぎちゃったな……でも、すっごく楽しかった」

 走りながら私は呟く。その声を聞く者は誰もいない。

 

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