352 / 354
第八章 今度こそ絶対逃げ切ってやる
魔王様の養女
しおりを挟む「……なかなか、思い切った真似をしたようじゃのう」
魔国に足を踏み入れ少し歩くと、知っている声が聞こえ足を止めた。私は下に向けていた視点を声がした方に向ける。
そこにいたのは、魔王様とニコさんだった。
もしかして、待っていてくれたの? 黙って抜け出したのバレてたみたいね。
「……これしか、方法が見付かりませんでしたから。安心してください魔王様、脅威は消えましたよ」
そう答える私の頬は濡れていたけど、少し無理をして明るい声で答えた。
目を覚ましたカインは、私のことを覚えていないだろう。過去に関してもね。
ただ、アリエラのことは覚えているはず。さすがに、魂の記憶に関与はできないからね。当然、糞女神を討伐したのも覚えているはず。ただ……私を省いた二人と神獣様でだけどね。
つまり、この世界でアリエラの生まれ変わりは、まだ、カインと出会ってはいないことになる。目を覚ましたら、探しに行くかもしれない。もはや存在しない私を――
カインにとって、とても残酷なことをしたわ。
私は一人の人間の人生を変えた。最悪の形で――
胸が痛い。傷口から血が溢れ出ているのがわかる。表面上では存在しない傷だけど、私は治ることのない傷を、これから先一生背負っていかなければならない。それが、私の罪だから――
「それは助かったのだが……よかったのか?」
心配と苦しみが混じったかのような表情で、魔王様は訊いてくる。私がなにをしたかわかっているようだった。さすが魔王様とニコさんだよね。
「ええ」
私は顔をそむけ答える。
今更だよ。
心の中で呟く。もう取り返しはきかない。だって、この魔法は解除できないんだから。私が死んでもね。
でも心とは裏腹に、魔王様の問いかけに私は無理矢理口角を上げて答える。上手く上げれたかな、自然に笑えたかな……鏡がないからわかんない。だけど、だぶん醜い笑顔だったと思うわ。
「……それにしても、マリエールのオリジナル魔法、たいした威力じゃな。だが、魔国には影響は一切出ておらぬ」
「魔国は違う空間に存在する国だから、私の魔法の影響は受けないわ」
だから、私は魔国の外でカインと対峙したの。たった一人で生きていくことができないから。私の保身のためにね。
ほんと、嫌になるほど私はズルい。
「……そうか、なら複雑じゃろ」
「複雑?」
「カイン以外に知り合いはいたであろう」
魔王様の言葉に、私は義両親家族を思い出した。
「……そうですね。でも、貴族籍を返還した時には、もう気持ちに区切りを付けていましたから、特になんとも思いませんよ」
あの人たちは良い人だった。でも、家族にはなれなかった、ただそれだけ。私が消えたことに違和感など抱かないと思う。少し寂しいけどね。
「ということは、これからここが、マリエールの故郷となるのじゃな」
明るい声で魔王様が告げる。
「では早速、戸籍を作成しないといけませんね」
魔王様に続いてニコさんが言う。
「えっ!? 戸籍って!?」
戸惑う私に、魔王様とニコさんは告げる。
「魔国の住人になるなら必要じゃな」
「戸籍がなければ、碌な働き口はありませんよ」
まぁ、確かにそうだけど。いつまでも、魔王様の客人の立場ではいられないし……魔国に居を構えるのなら、戸籍は必要だよね。
「マリエール、妾の養女にならぬか?」
戸籍のことを考えていると、魔王様が爆弾発言をかましてくれた。
冗談だよね。
うん、そうに決まってる。
「妾は冗談なぞ言ってはいない」
いやいや、人族の私が魔王様の養女!? それはないでしょ。っていうか、他の魔族に反感買うでしょ。いくら、魔王様が強くても駄目だよ。
「ならば、早速書類を用意しないといけませんね」
ニコさんが乗っかってる!!
反論してよ――!! それが仕事だよね!?
反論しようと口を開くと同時に、魔王様が私の前に現れた。私の唇に人差し指を当てると笑った。
「妾が決めたことに、マリエールでも否は許さぬぞ」
その一言で、私は魔王様の養女になることになりました。
なんで、こうなった……!?
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
5,408
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる