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14 嫌に決まってるじゃない
しおりを挟む「……一週間って、あっという間だったわね」
はぁ~明日で現実世界に生還か……荷物の整理も終わったし、まぁ、二か月後にまた来るから、残せるものはそのまま置いとけばいいわね。時間もあるし、晩ご飯まで間散歩でもしようかな。未歩ちゃん誘って。
スーツケースを玄関脇に置くと、ちゃんと財布とスマホを持って部屋を出た。そして、斜め向かいにある未歩ちゃんの部屋をノックする。
あれ? 返事がない。
出掛けてるのかな。それじゃあ、仕方ないわね。少し早いけど、晩ご飯前に一杯やろうかな。
でも……少し気になるのよね。この数日、未歩ちゃんの様子がおかしかったから。お祖父ちゃんが帰ってから特に。
なので、私は未歩ちゃんを探しに外へ出た。向かうのは浜辺。一番に思い付いた場所だから。
「馬鹿なことはしないと思うけど……」
急いで浜辺に向かう途中、小さな声で「一葉」と呼ぶ声がした。この島で、私を一葉と呼ぶ人物は一人だけ。
振り返ると、物影から姿を現す少年。少年は手で、こっちにくるようサインを出す。
今? 仕方ないわね。
「日向さん、どうかしました?」
私は日向さんの近付くと小声で尋ねる。
「少し、未歩が気になってな」
なるほど、そういうわけね。
口は悪いけど、優しいところがあるのよね、日向さん。山中さんとは違うけど、周囲をよく見てる。
だから、日向さんも未歩ちゃんがおかしかったことには、ちゃんと気付いてたのね。でもまさか、日向さんが見守ってるとは思わなかったわ。そういうの、山中さんの役目だって思ってた。だって、日向さんなら、万が一のことが起きても止められないでしょ。
「じゃあ、やっぱり未歩ちゃんは浜辺にいるのね」
「ああ」
「日向さん一人?」
私がそう尋ねると、途端に機嫌が悪くなる日向さん。自覚あるんだ。
「喧嘩売ってるのかよ。チッ。まぁいい。そうだよ、陽平は用事があってこの場を離れてる。すぐに戻って来るから、その間、俺が代わりだ」
「その割には、未歩ちゃんの側にいないわね」
「代わったばっかだからだよ。で、俺だったら、未歩のヤツ身構える。だから、俺の代わりに一葉が監視してくれないか?」
「私が監視? 嫌に決まってるでしょ」
「はぁ!?」
ほんとに、目付き悪いわね。そんなに睨まくてもいいでしょ。
「監視は嫌。だって、未歩ちゃんは私の妹だからね」
普通、家族を監視したりはしないわ。
「妹?」
そんな、訳がわかんない顔をしなくてもいいでしょ。ちょっと、悲しい。
「ちなみに、日向さんは隣に住む悪ガキね」
「なっ!? 俺が悪ガキ!?」
日向さんが怒鳴る。
「そんなに大声出したら、未歩ちゃんにバレますよ」
私は笑みを浮かべながら言った。すると、
「もう、バレてるわよ」
私の後ろから声がした。振り返ると、腕を組んで、やや怒っている未歩ちゃんが立っていた。
「いつから、気付いてたの?」
何食わぬ顔して私は尋ねる。
「そんなの、初めからに決まってるじゃない。陽ちゃんと日向君か交代した時からよ」
「本当に、初めからね」
「だって、日向君、尾行下手なんだもん」
「あっ、それわかるわ」
激しく同意するわ。だって、尾行中に怒鳴るなんてね……
「悪かったな。こういうの、苦手なんだよ」
バツが悪そうな顔をする、日向さん。
いつもは、見た目と口調にギャップがあるけど、今はないわ。隣の悪ガキじゃなくて、年の離れた生意気な弟でもいいわね。
「おい、一葉。今、変なこと考えなかったか?」
鋭いわね。
「考えてませんよ」
「本当か?」
「疑り悪い男は嫌われますよ」
私と日向さんが言葉の掛け合いをしていると、未歩ちゃんが声を出して笑い出した。
「クックック。あ~おかしい!! 日向君も桜ちゃんも、いつの間に、そんなに仲良くなったの? 妬けるな~」
そう言うと、未歩ちゃんは私に抱き付いてきた。
私と未歩ちゃんを見る日向さんの目は、とても優しい。でも、口元は意地悪そう。
「シスコンは嫌がられるぞ」
日向さんは爆弾を投下する。
「えっ!? 桜ちゃん、私が嫌いになったの!?」
とても動揺した未歩ちゃんは、私の二の腕を両手で掴み、焦った表情で問い質してきた。
「これくらいで、嫌いになったりしないわよ。日向さんも変なことを言わない」
私がそう答えると、泣きそうな顔で「よかった~」と安堵の表情を見せた。そして、「本当に嫌わない?」と再度尋ねてくる。
「嫌ってないわ」
安心するまで、何度でも同じことを言うわ。だって、心底そう思っているのだから。
そんな私たちを見て、日向さんは、安心したのか、私と未歩ちゃんを置いて戻ろうとしていた。
逃さないわよ。私は背後から手を伸ばし、日向さんを抱き締める。暴れても逃してあげない。
「お腹すいたわね。そろそろ、晩ご飯食べに戻らない? 日向さんも」
ニコッと笑いながら、日向さんを誘う。逃げそびれた日向さんは、バツの悪そうな顔をしている。
「だね。もう、お腹ペコペコ」
未歩ちゃんがそう言うと、日向さんは頭を掻きながら「しょうがねーな」と答えた。日向さんってツンデレだよね。
途中で山中さんと合流して、四人で仲良く晩ご飯を食べた。楽しい時間って、ほんと、あっという間に終わるよね。
明日、私はこの離島を出る。
でも、二か月後にまた戻って来るけどね。
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