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第1章 バルトロメオ
第24話
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「ルカごめん」
「ユァン……」
ルカが怯えと苛立ちが入り交じった瞳をこちらへ投げかける。
「こいつ絶対ヤバいって! 人ひとりくらい殺してる」
「ルカ、そんな考えを持つのはよくないよ」
「ユァンはそうやって無防備だから悪いヤツに付け入られるんだ!」
「付け入られるって何?」
「無自覚かよ! こっちは心配してやってるっていうのに!」
投げつけるように言って、ルカは宿舎の方へと戻っていってしまった。
「ああ、ルカ!」
「いいところだったのにな」
呆然とするユァンの横で、バルトロメオが片手で額を覆った。
「バルト。怒らせて本音をしゃべらせようとか、あなたはそんなことを考えているんでしょうけれど……」
「なんだ、よく分かってるじゃないか」
「そういうの、よくないと思います」
キッと仰ぎ見ると、バルトロメオは困惑したように眉間に皺を寄せる。
「よくないって言われてもな。一般的な尋問のテクニックだ」
「何も悪いことをしてない人に、尋問だなんて……」
「悪いが、それが俺の仕事だ」
低く抑えた声で告げられた。
「平和な修道院を掻き乱すのが、あなたの仕事なんですか? 僕は……そういうことはしてほしくない」
建物の窓から漏れる光を横から受け、バルトロメオの顔にはくっきりと影が刻まれている。
あれから数日。日々の生活の中で彼との距離はどんどん縮まってきたけれど、内偵捜査の件では思いが行き違ったままだった。
それもあって、普段控えめなユァンもいつになく口数が多くなる。
「どうしてペティエ神父の事件まで、バルトが調べようとしてるの」
「投書の件と、あるいは関わりがあるかもしれない」
「神父がそっとしておこうとしているものを、あえて混ぜ返すことなんかないのに……」
バルトロメオは職務に忠実なだけで、悪意があるわけじゃない。
それが分かっているからこそ、ユァンは歯がゆかった。
「僕はみんなを疑いたくない。みんなが疑われるのだってつらい……」
「みんな、か」
こちらを見下ろすバルトロメオの瞳がゆらりと揺れた。
「ユァンにとって、ここはそんなに大切な場所なのか」
「それは……僕にはここしかないから……」
夜風が、夕食で温まったはずの頬を冷やした。
「ユァン……」
ルカが怯えと苛立ちが入り交じった瞳をこちらへ投げかける。
「こいつ絶対ヤバいって! 人ひとりくらい殺してる」
「ルカ、そんな考えを持つのはよくないよ」
「ユァンはそうやって無防備だから悪いヤツに付け入られるんだ!」
「付け入られるって何?」
「無自覚かよ! こっちは心配してやってるっていうのに!」
投げつけるように言って、ルカは宿舎の方へと戻っていってしまった。
「ああ、ルカ!」
「いいところだったのにな」
呆然とするユァンの横で、バルトロメオが片手で額を覆った。
「バルト。怒らせて本音をしゃべらせようとか、あなたはそんなことを考えているんでしょうけれど……」
「なんだ、よく分かってるじゃないか」
「そういうの、よくないと思います」
キッと仰ぎ見ると、バルトロメオは困惑したように眉間に皺を寄せる。
「よくないって言われてもな。一般的な尋問のテクニックだ」
「何も悪いことをしてない人に、尋問だなんて……」
「悪いが、それが俺の仕事だ」
低く抑えた声で告げられた。
「平和な修道院を掻き乱すのが、あなたの仕事なんですか? 僕は……そういうことはしてほしくない」
建物の窓から漏れる光を横から受け、バルトロメオの顔にはくっきりと影が刻まれている。
あれから数日。日々の生活の中で彼との距離はどんどん縮まってきたけれど、内偵捜査の件では思いが行き違ったままだった。
それもあって、普段控えめなユァンもいつになく口数が多くなる。
「どうしてペティエ神父の事件まで、バルトが調べようとしてるの」
「投書の件と、あるいは関わりがあるかもしれない」
「神父がそっとしておこうとしているものを、あえて混ぜ返すことなんかないのに……」
バルトロメオは職務に忠実なだけで、悪意があるわけじゃない。
それが分かっているからこそ、ユァンは歯がゆかった。
「僕はみんなを疑いたくない。みんなが疑われるのだってつらい……」
「みんな、か」
こちらを見下ろすバルトロメオの瞳がゆらりと揺れた。
「ユァンにとって、ここはそんなに大切な場所なのか」
「それは……僕にはここしかないから……」
夜風が、夕食で温まったはずの頬を冷やした。
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