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二度目の話

旅立つ前に

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 お義兄様の卒業式の翌日、留学前に王宮の図書館でのんびりと読書でもしようかと思い、外出の準備をしていた私の所に、お義兄様がやって来る。


「アナ、今日は二人でどこかにお茶でも行かないか?」

 お義兄様からのデートのお誘いみたいで嬉しいけど、もうすぐマニー国に旅立つのだから、お義兄様には今のうちに秘密の恋人との二人の時間を大切にして欲しいと思ってしまった。

「お義兄様、もう少しでマニー国に旅立つのですから、お義兄様は友人方と一緒に過ごされてはいかがでしょうか?
 私は図書館で読みたい本がありますので、少し出掛けてきますわ。」

「それなら私も一緒に行こうか。」

 ダメ!お義兄様はマニー国に行く前に秘密の恋人とデートすべきなのよ!

 そして…

『一年間離れ離れになるが、私は必ず君の所に帰ってくる。だから、私を待っていてくれないか?
 私は愛しい君に待っていて欲しいと思っている。
 帰って来たら私と婚約して欲しい。』

 …って、秘密の恋人に伝えてくるべきよ!

 あ、お義兄様の色の指輪とかネックレスをプレゼントした方がいいわね。
 私だと思って大切に持っていて欲しいとか言えば……


「…アナ?」

 あっ…、つい妄想してしまったわ。

「お義兄様。私は、今日は久しぶりに一人でのんびり過ごしたいと思っておりますのよ。
 ですから私の付き添いは大丈夫ですわ。
 お義兄様は、ぜひ大切なご友人とお過ごし下さいませ。」

「アナよりも優先したい大切な友人なんていないが、そこまで言うなら私は邸でアナが帰ってくるのを待っているよ。」


 お義兄様は秘密の恋人の存在を、私の前では隠そうとするのね。
 私がおっちょこちょいだから話してくれないのかしら…。
 仲のいい義兄妹なんだから、私には正直に打ち明けて欲しかった…


「そうですか…。では、私はそろそろ出掛けてきますわ。」

「アナ、遅くならないようにな。」

「はい。行って来ます。」





 王宮図書館に着いた私は、いつものように人気のない席に座って、マニー国の本を読んでいた。
 この司書さんオススメの席は、滅多に他の人は来ないから、静かで集中出来て、お気に入りの席なのよね。

 マニー国は、王都の街並みが美しいって有名なのよね…。今から楽しみだわ。
 えっと…、マニー国の名物は何だろう…?


 いつものように夢中になって本を見ていると、お約束のように、誰かに声を掛けられる。


「失礼…。コールマン侯爵令嬢?」

「……はい?……ひっ!」


 声の方を見た私は絶句してしまった。
 そこには、私が一度目の人生からの縁切りを切に願っている人物がいたからだ。


「読書中に急に声を掛けてしまったから驚かせてしまったかな。
 申し訳ない…。」

 何で死神がここにいるのよ…

「ブレア様、ご機嫌よう。
 見苦しい姿をお見せしてしまいまして、申し訳ありませんでした。」

 私…、今、顔が引き攣っている自信があるわ。

「いや。気にしないでくれ。
 噂で君がもうすぐマニー国に旅立つと聞いた。
 なかなか会って話をする機会がなかったから、旅立つ前にどうしても会いたいと思っていたんだ。
 君がよくここに来ていると聞いたから来てみたのだが、会えて嬉しい。」


 私は会いたくなかった…


「私に何か…?」

「……ブレア公爵家から、君に縁談の申し込みをしたと思うが、コールマン侯爵閣下からは断りの文が届いた。」


 気まずそうに話しているけど、知ってるわ!!


「君が王太子殿下の婚約者候補になったことも聞いた。
 王太子殿下が将来の伴侶ならば、とても素晴らしいことだと理解しているつもりだ。
 でも君はまだ正式な婚約者ではないと聞いている。」


 はい。ただの期間限定の婚約者候補ですから。
 その他大勢の中の、ただの婚約者候補ですからね。


「君が王太子殿下の正式な婚約者に決まらない限り、私は君のことを諦めるつもりはないということを伝えに来た。」

「え…?」

 真顔で急に何を言ってるの?

「自分でも、君を困らせているということは分かっている。
 どうしても君を諦められない、哀れな男として見てくれて構わない。
 勝手だと思うが、君が留学から戻ってくるまで待たせてもらうよ。
 次に会う日までどうかお元気で…。失礼する。」

「ちょっと…!」


 困りますと言い返す前に、自分の言いたいことだけを言ってブレア公爵令息は行ってしまった…


 あの方は、一度目の時と変わらないのかもしれない。
 優しい方だけど、少し強引なところがあったわよね。


 だけど、イライラするわ!!


 誰のために留学行きを決めたと思っているのよ?

 貴方と関わりたくないから、距離を取っていることに早く気付いて!

 私じゃなくて、愛人と上手くやってくれそうな女性を探せばいいじゃないの。

 私はもう貴方にいいように使われたくない。
 貴方の愛人に恨まれたくないし、毒殺されたくないのよ!


 ここまで避けているのに、どうして分かってくれないの…



 気分転換のつもりで図書館に来たはずなのに、私は最悪な気持ちで邸に帰ったのであった。
 
 


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