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8:瞬時に後ろから抱きしめられ……

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私を殺すように王命を受けた刺客……!?
脳が一瞬思考停止し、でもすぐに反応を示した。
目の前にいるのは、魔王ではない。
だが私にしたら、魔王みたいなものだ。
恐ろしい存在。見つけたら、逃げなければならない存在。
そうしないと……。
殺される!

自分としては、素早く動いたつもりだった。
椅子から立ち上がり、一目散でドアに向かう。
だが。
瞬時に後ろから抱きしめられる形で、動きを封じられた。
アズレークによって。

「誰か、助けて! 離して!」
「落ち着いて、パトリシア」
「いや、はなして! 殺される!」
「殺すつもりなら、あの場で殺していた」

その言葉で、私は暴れることを止めていた。

「パトリシア、取引をしよう。君は死にたくはないだろう?」
「と、取引……?」

心臓がバクバクし、おへその下辺りが熱い。
ゆっくりとアズレークの顔を見上げる。
すぐにあの黒い瞳と目があう。
その目は落ち着き払っていて、私が逃げ出そうとしたことなど、これっぽっちも気にしていないようだ。

きっと、逃げられないのだろう……。

この部屋を飛び出し、廊下へ出られても、屋敷の外には出られない……。魔力持ちで魔法を使えると言っていた。今だって魔法を使い、私の動きを止めることもできたはずだ。

「君は頭の回転が速いようだ。私は君の体から手を離す。でも君はもう逃げようとは思わない。だろう?」

その指摘に対する答えは……。頷くしかない。
そして……不本意ながら椅子に腰をおろした。

「さて。取引だが。私は……訳あって君の暗殺を請け負った。だが、私は君に恨みがあるわけではない。君と過ごした時間はわずかだが、君はとても聡明だし、頭の回転も速い。何よりこの状況に適応し、肝も据わっている。できれば……君を手に掛けたくない」

アズレークは再び紅茶を口に運ぶ。
その仕草は優雅であり、とても暗殺を請け負った刺客とは思えない。

「告白しよう。私は国王に恨みがある。いつか報復してやりたいと思っていた。そしてこれはいいチャンスだ。君の命と王太子の命。私からすれば、重いのは君の命だ。だが、国王は違う。君の命が失われても、国王はただ、王太子を暗殺しようとした愚かな娘が無駄死にした、としか思わないだろう。だが王太子に何かあれば、国王は希望を失い、絶望するだろう。私は国王に絶望を与えたい」

アズレークは国王陛下に、絶望を与えたいと思っている。
それは分かる。
そして少なからず、私の命を尊いと思ってくれている。
これも分かった。
だがそれ以上は分からない。
アズレークは何を言いたいのかと思ったまさにその時。

「君の命を助ける。代わりに君が王太子を暗殺してほしい」
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