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83:それは願ったり叶ったりでは?

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「本気の魔術師さまと接し、それだけ距離が近ければ、心を持っていかれるだろうな。それになんだ、その魔力を送るという行為は! そもそも魔力なんて、他人に譲与できるようなものではない。というか、魔力を譲与するなんて、ただ魔法を使えるレベルの人間で、できることではない。魔術師さまだからできたことだろう。しかもパトリシアさまも、その魔力を自身の中に馴染ませ、それを魔法として使えるなんて……」

そこでマルクスは顎に手をあて、「待てよ」と考え込む。

「特に強い魔力を持つ一族は、魔力を持つ聖獣を、祖先に持つと言われている。竜(ドラゴン)、銀狼(シルバーウルフ)、不死鳥(フェニックス)などだ。そしてそういった聖獣を祖先に持つ者には、番(つがい)がいると言われている。ただ、その番と出会える確率は限りなく低い。たいがいが番に出会うことなく、一生を終えると言われている。

パトリシアさまはもしかすると、魔術師さまの番(つがい)なのかもしれないない。だからこそ、魔術師さまから送られた魔力が体に馴染んだのでは? 番もまた、元は同じ聖獣を祖先に持つと言われているからな。そうなると、そもそも魔術師さまがパトリシアさまを見つけることができたのも……。パトリシアさまが、魔術師さまの番だったからかもしれない」

「え、そんな、まさか。私が番(つがい)!? そもそも王都にいた時、魔術師さまから声をかけられたことなんて、ないのですが……」

自分でそう言った瞬間、気づいてしまう。

レオナルドは王宮付きの魔術師で、何もアルベルト専属というわけではない。だが王宮付きだから、当然アルベルトも仕えるべき主(あるじ)の一人。だからこそ、カロリーナにアルベルトが「呪い」をかけられたと知り、本気で解くことになった。

だがそんな事件が起きる前は、レオナルドに会う機会なんて皆無。だからこそ、『戦う公爵令嬢』をプレイしていた時も、レオナルドとの出会いイベントを、必死に発生させるような行動をとることになったわけで……。

今回に至っては、パトリシアの記憶を辿っても、レオナルドと接触した記憶はない。つまり最後までレオナルドと接することなく、断罪され、修道院へと向かったわけだ。

そうなると可能性としては、レオナルドはパトリシアが自分の番(つがい)であるとは気づいていなかった。もしくは……。これはさすがにあり得ないと思うが、覚醒した私が、東堂美咲がレオナルドの番だった、とか……?

「まあ、魔術師さまは、王宮でも毎日忙しかったからな。ある意味、仕事中毒(ワーカホリック)。番が目と鼻の先にいることにも、気づけなかったのかもしれない。そもそも番なんて、出会えないで終わることの方が多いから。まさかそんな身近にいるとは、思わなかったのかもしれない」

「……なるほど。そう言われると、それが正解に思えます……。って、ちょっと待ってください! 私が番(つがい)だと、確定で話していますが、まさか、そんな……」

するとマルクスは、不思議そうな顔をする。

「パトリシアさまが魔術師さまの番であるならば、それは願ったり叶ったりでは?」

「え、それはどいうことですか?」

マルクスは当然という顔で、こう明かす。

「普通に考えたら、王太子が望む相手を、略奪愛するなんてできない。それが許されるのは、他国の王族だ。それこそ戦争でもして、奪うわけだ。だがパトリシアさまが、魔術師さまの番(つがい)であるならば……」

そう言ってマルクスは、ニヤリと笑う。その上でさらにこう付け加える。

「番(つがい)と結ばれ、産まれる子供は、両親から強い魔力を受け継ぐ。将来破格の魔力を持つ魔術師になることは、間違いない。当然、王族としては、強い魔術師をそばに置いておきたい。だからもし、パトリシアさまが、魔術師さまの番であるなら……。国王陛下が王命で、パトリシアさまと魔術師さまを、結婚させるだろうよ」
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